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大群の魔物達

「飛竜を借りて正解ね」

「ああ、さすが飛竜だ」


 飛竜はものすごい早さで進んでいく。

 さっき買っといたローブが強い向かい風から俺を守ってくれている。

 こんなに早く役に立つなんて思わなかったが。

 俺たちがそんな話していると、すぐに王都が見えてきた。すると、イナンナが異変に気付いた。


「何か変ね? 戦ってる……?」

「あれは、魔物か?」


 王都の上空に来たところで、その異常さに愕然とした。

 街のあちらこちらで煙が上がり──大量の魔物の姿が見える。


「な、なにこれ!?  なんで王都にこんなに魔物がいるわけ!?」

「わからん。とにかく、街に降りてみるぞ」


 飛竜を下降させるとその惨劇が目に入ってきた。


「ぐわっ、なんで街の中に魔物があぁぁ……!」

「く、くるなあああ!」

「だれか……誰か助けてくれぇぇぇ!」


 あちらこちから悲鳴や怒号が飛び交っている。

 無理もない。尋常じゃない数の魔物が街に入り込んでくるなんて異常事態どころの話しじゃない。


「アスタ、ちょっとごめん」

「なっ……おい!!」


 イナンナは下降中の飛竜の背から飛び降りると、空中で剣を抜き、人に襲いかかろうとしている魔物を斬る。


「あ、ありがとうございます………?」


 助けられた街の人は何が起こったのかわからず、ぽかんとしている。

 イナンナは周囲の悲惨な状況を見て険しい表情で呟いた。


「魔物が王都に入り込むなんて……」  

「どうやらあっちの方角から侵入してるらしいな」


 俺達は魔物がくる方向を指さしながら、イナンナに声をかけた。


「とにかく魔物がくる方向に行きましょう。きっとその先にダンジョンがあると思うわ」

「わかった。行こう」


 俺たちは変わり果てた王都から飛竜に乗って急ぎダンジョンがあるであろう方向に向かった。


「……王都の外も魔物でいっぱいね」

「ああ」


 飛竜に乗ったまま下を見ると、大量の魔物が王都に向かっていた。

 すごい魔物の数だ。飛竜がいなかったらあれを突破していかなければいけなかっと思うと背筋が凍る。……今はあれと戦っているそんな時間はない。

 魔物たちが出てきている方向にダンジョンはあるはずだ。俺たちは飛竜に乗って進んでいく。


「……」

「アスタ?」

「なんだ?」


 俺が聞き返すと、イナンナは訝しげに尋ねてくる。


「何か気になる? マンタの村を出てからずっと考え込んでしょ?」

「それは……」


 確かに俺は考えごとをしている。ある事が気になってるからだ。


「これから向かう場所は危険な場所でしょ? 心配ごとがあるなら話しておきなさいよ」

「……そう、だな」


 イナンナの言う通り、無駄な考えごとをして気を散らしてたら死にかねない。万全の状態でダンジョンに挑みたい。そのために話しておくか。


「ダンジョンについて、ひとつ気になった事があるんだ」

「なに?」

「マインがいくら祈りを中断させたからって、すぐに魔王の封印が解けダンジョンが出現するのはおかしい。魔王の封印はそこまで弱いものじゃない」


 それは確かに疑問だった点だ。封印の強度は少しの祈りが途切れたくらいで解けるほど軟なものではない。しかも尋常じゃないほどの魔物の数がいる。


「確かにそうね。本来なら魔物が出てくる迄にまだ4日は猶予があるはず。すでにこの大量の魔物は何かがおかしいわ」


 俺は下の光景に視線を向けた。

 この周辺は、もうダンジョンから出てきた魔物たちであふれかえっている。 騎士団のいる王都でさえ、多くの人が命を落としていた。何人死んだかわからない。それはもう取り返しがつかない。

 このあたりにある小さな集落なんてひとたまりもないだろう。

 俺の故郷のドリアは大丈夫だろうか?


「俺が教会を追い出された日から、少しずつ魔王の封印は緩んでいったんだろう。そんな中、マインが祈りを中断させたことがキッカケで魔王の封印が解けダンジョンが出現した。しかし、他にも原因があるのかもしれない」

「確かにね。その原因を追求するにも、今は目の前のことに集中しないと。ダンジョンの主を倒せば、すべて解決するんだから。それにはアスタの力が必要だわ」

「……そうだな!」


 イナンナの言う通り、今はごちゃごちゃ考える事をやめて、やるべきことに目を向けよう。

 魔物の先に向かうと、俺達はダンジョンの入り口らしき場所にたどり着いた。その場所は山の木々が大きく削り取られている。 そして、その斜面の中心部に大きな穴が開いていた。

 そこから街を襲っていたのと同種の魔物たち──醜い人型の魔物、石でできた大型の人型魔物が、続々と出てくる。

 まるで、地獄から魔物が溢れ出てきた光景だ。

 地上に出てきた魔物たちは、ゆっくりと王都のほうに向かっていく。俺たちは入り口から離れた場所に飛竜を降下させ、木々の陰から様子を観察した。


「魔物の数が多いな」

「そうね……」


 ダンジョンの入り口からは、絶えずオークやゴーレムなど人型の魔物が現れている。

 この数の魔物をかわして突入するのは不可能だろう。

 俺は考え込んでいると、イナンナは剣を抜きはじめる。


「お、おい、一人で行くつもりか?」

「いいえ、でも道くらい作らないとね」  


 イナンナはダンジョンの入り口に一人で突撃した。


 「ばっ、ばか」


「──剣強化【ヒート・ブレイド】」


 イナンナの言葉とともに剣から赤色の魔力があふれ、刀身を真っ赤に包み込んだ。


『『────ッ!?』』


 イナンナの剣に気づいた、魔物たちが動きを止めた。

 瞬く間に入り口付近にいた魔物を斬り倒すと、洞窟の中に乗り込んでいく。

 洞窟の奥からは、ギャァ! ズバッ! ゴッ! シャキィィ! という剣と魔物の悲鳴が入り混じった音が聞こえる。

 あの中で一体何が起こってるんだ?

 俺は木陰で暫くジッとしていると、イナンナは洞窟から出てきて、手招きしてくる。


「入り口近くの魔物はあらかた倒したわ。今なら安全に入れると思う」

「お、おう」  


 どうやらダンジョン内に入りやすくなるよう、魔物の数を減らしてくれたようだ。俺は、予想外な出来事に間の抜けた返事をしてしまった。

 もしかしてイナンナだけでダンジョンの壊滅できるんじゃないのか?


「どうしたの?」

「なんでもない」


 俺はイナンナの後を追いダンジョンに足を踏み入れる。ダンジョンの内部は、見た目だけなら単なる洞窟と同じような印象だった。けれど、明らかに普通の洞窟と異なる点もある。

 足元には魔物や人間の死骸が転がっており、壁は生き物の臓器のように脈打っている。

 松明もなしにあたりを見回せるほどの明るさ。

 何より……ここには強い妖気が漂っている。


「やっぱり魔王の気配が強いわね……」

「……そうだな」


 2人はそう言いながら洞窟の奥に入っていった。


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