聖者で剣
俺たちは、教会ほどではないもののかなり大きな木造の武器屋にきた。
「ん、森にいくんじゃないの?」
「まずは装備を揃えないとだろ」
俺たちはスイングドアをくぐると、西洋の武器や防具が並んでいる。俺たちは奥に進むと、奥から大柄な男がずかずか歩み寄ってきた。
刈り込んだ短髪や頬の大きな傷が、只者じゃない感を伝えてくる。
「いらっしゃい……って、アスタじゃないか。帰ってきたってのは本当だったんだな」
「あぁ、久しぶり」
俺は武器屋の店主に軽く返事して店の品を物色する。
「それにしても、まさかアスタが聖者だなんてな。なんでこっちに戻ってきたんだ?」
「……色々あってな」
教会から濡れ衣をきせられて追放されたあげく、ノコノコ帰ってきたなんて口が裂けても言えない。
俺は店主の話を受け流しながら、店のものを手に取る。
大剣か?攻撃力はあるが、持ち歩い旅したり、振り回すには向いてないな。
「親父、なんか魔力とか自分レベルが測れる防具みたいなのはないか?」
うーん、親父は眉根を寄せて考えていると、ぽんと手を叩き、部屋の奥から青い玉の着いた手甲を持ってきた。
「これは、ガントレットシールド」
「こいつはかなり希少な代物で、手に嵌めればそいつが使える技やレベルが測れるし、魔物の素材をこの玉に入れれば、その技が使えるようになるらしいぞ……まぁ、他にも隠れた能力があるらしいが詳しい事はわからん」
俺は半信半疑になりながらも手甲を嵌めると、青い玉が光り出し、俺の頭の中に声が響いた。
「アスタ・ヴィン・ライトニング。魔力、確認。《天職授与:【聖者】》」
「どうやってステータスとか見るんだ?」
「視界の端にアイコンが見えないか? それに意識を集中してみろ」
俺は言われた通り、視界の端に何か妙に自己主張するマークに意識を集中させる。すると、ピコーンと軽い音がして視界に大きくアイコンが表示された。
アスタ・ヴィン・ライトニング
職業 聖者 Lv1
装備 ガントレットシールド
服
スキル 無し
魔法 無し
「すげーな、親父。こんなものどうやって手に入れたんだ?」
「ま、そいつは企業秘密ってやつだ」
親父は自慢げに俺に言った。
一時期噂で、親父は闇売買にも精通していて高価な物や貴重なものを取引きしていると聞いた事がある。
「いくらだ?」
「オマケして金貨500枚だ……っと、言いたいとこだが、お前さんが戻ってきた祝いでタダにしてやるよ」
「……そうか、ならこれも頼むよ」
俺は軽めの剣を、店主の前に置く。
「……聖者なのにかぁ?」
「聖者なのに、だ。隣のこいつは、魔道士なのに剣を使ってるからな」
イナンナはそれに腹を立てたのか蹴りを一発入れてきた。
「へえ、可愛い嬢ちゃんじゃねえか。オメェさんがこいつに剣を薦めたのか?」
「あんたも、中々見る目があるわね。そ、剣を持ってるアタシをみて、すぐにここに来たわ」
イナンナと店主は二言三言交わし、剣を持つ俺の姿を見た。
「なるほど、聖者で剣ね……いいじゃねぇか」
「ああ。もう誰にも遠慮しなくていいからな」
これからは、聖者は祈るだけなどという認識はなくても構わない。イナンナのように、型に囚われず自由に、最も自分にとってやりたい武器を取ればいいのだ。
「これからは、防御魔法を使う剣士として戦う」
「おっ、いいねぇ。オメェさんは剣士として積み上げてた時間もあるんだから、そっちもちゃんと役立てねぇとなぁー」
店主に頷きながら、ロングソードを手に入れた。
チャールズ達が思ってるような余生を歩んでやるものか。
俺はこれから自分で稼いだ金で、自由に冒険者を続ける。 ……それにしても、あいつらは今頃どうしたんだろうな。教会は大丈夫だろうか?
「どうしたの? アスタ」
「ああいや、何でもない。次こそ森に行くぞ」
「よっし、ようやくね」
今は、あいつらのことを考えるのはやめよう。
今日から俺の新たな一歩……いや、本当の自分としては 初めての一歩を歩むのだ。
俺たちは防具を揃え、森に向かおうと店を出たところ………
「おい、なんだあれ!?」
「上から何か来るぞ!」
道行く人たちから驚いたような声が飛んだ。