魔法の服
「それじゃあ、ティルちゃん。このハンドルをゆっくりと回して」
「うん」
ティルは糸巻き機のハンドルを回し始めると糸が出てきて、おばちゃんが糸巻き機の先にある回転している棒に括り付ける。すると糸がそこに集まっていき、糸巻きとなっていく。
「あれ? なんか力が抜けるような感じがする」
「魔力を糸に変えているからね。疲れるはずよ。だけどもうちょっと頑張って、服を作るにはまだ糸が足りないわ」
「うう……たのしくなーい」
……生後1週間くらいだからな。本質的には子供なのだろう。
ティルはキョロキョロとアッチを向いたりコッチを向いたりしている。
「我慢しろ、それが終われば飯に連れてってやるから」
「ゴハン? おいしいもの?」
「ああ」
「じゃあがんばる!」
グルグルとティルが糸巻き機をもの凄い速さで回しだした。
「あら、がんばるわね」
おばちゃんも驚きの速さで驚いている。
「ゴッハンー、ゴッハンー」
ティルのテンションも高く、糸巻きがどんどん出来上がっていく。
「そろそろ良いかしらね。回すのをやめて良いわよ」
それからしばらくして、おばちゃんが回すのをやめさせた。
「もっと回したらごはん増えるかな?」
「増えない。もう回すな」
「は~い」
ティルは返事をすると俺の元へ戻ってくる。
「ごしゅじんさま~、ごはんは〜?」
「まだ服が出来てないだろ」
「えー……」
ティルは拗ねてほっぺたを膨らませる。
「後はこれを布にして、服にすれば完成ね」
魔法屋は出来上がった糸を、俺達に見せる。
魔力の効果なのか、糸はキラキラと輝いていて美しく見える。
「布の方は洋裁屋に頼めば何とかなると思うわ」
「わかった。で、料金は幾らになるんだ!?」
非常に気になるので尋ねてみる。
「魔力の糸化の事? ちょっと値が張るわよ、原価で提供させてもらうけど銀貨50枚よ」
あぁ--、いい値がするんだな。俺達には到底払えない金額だ。
仕方ない、あのクソ聖女様に請求するか。
「珍しい素材だから、服に使えるようにするにはもうちょっと加工が必要ね……たぶん、今日の夕方には出来上がるわ。先に洋裁屋に行ってサイズを測ると良いわ。後で届けておくから」
「わかった」
で、俺達はそのまま洋裁屋に行く。
服一つが出来るのにこんなに大変だとは………
「羽が生えていて天使みたいです、はい。……毛並みも整っていて綺麗ですね。魔物でも中々いませんよ、はい」
「そうなのか?」
店主に聞くと肩を上げられた。
「羽の生えた魔物は、足とか手とか他の所にも鳥のような特徴があるんですよ、はい。だけどこの子は、羽以外にそれらしいのは無くて凄いです、はい」
「ん~?」
ティルは首を傾けて洋裁屋の女の子を見上げる。
女の子は何かメガネが輝いてる。
「シンプルにワンピースとかが良いかもですね、後は魔力化しても影響を受けそうにないアクセントがあれば完璧です、はい!」
「へ? あ、へ?」
ティルをメジャーでサイズの測定し、何やらデザインを始める。
「もう一度、魔物化した時の姿が見たのでお願いできますか、はい!」
ティルが困り顔で俺の方を見てくる。うん、俺もなんか空気に飲まれそう。
「ティル変身しろ!」
「わかった!」
ボフン!!白い煙と共に、ティルは魔物の姿になった!
「おおー……ぱっちりしたお目め、この毛並み、この肌質、かなりの上玉です、はい。変身した時のギャップがそそられます、はい! となるとリボンが良いかもしれないです、はい」
ティルの首回りを測定し、洋裁屋は服の設計を始めた。なんかこの女の子、興奮して吐息を吐きながら作業している。
まぁ、仕事をやり遂げてくれれば問題はないか……
「いつ頃完成するんだ?」
「ま、明日には完成していると思うです、はい」
「早いな。で、金額は幾らになるんだ?」
「えーとですね、特殊な加工になるので……銀貨100枚ってところですね……はい」
銀貨100枚!? 服にそんな費用がかかるのか。
あのクソ聖女が激怒しないか心配だが………
「それじゃあ行きましょうか。いい店を知ってるのよ」
「あぁ……」
そんなわけで俺たちは魔女のおばちゃんに連れられて街中を移動するのだった。 魔女のおばちゃんに連れて来てもらったのは、おしゃれで清潔感のある隠れ家のようなお店だった。
席に座って魔女のおばちゃんがあれこれと店員に注文する。それが済むと、おばちゃんは俺に向き直った。
「改めて名乗るわ。私はエルディ。魔女をやってるわ」 「俺はアスタだ。こっちはイナンナ。でこのちっちゃいのがティル。仕事は……元聖者候補ってとこかな」
「やっぱりね。どうして教会にしかいないはずの聖者候補が、こんなとこにいるの?」
「実は……」
俺はエルディに事情を話した。 他の聖者候補に嵌められたこと。十年以上も尽くした教会にあっさり捨てられたこと。
「俺は本当になにもしてないんだ。それなのに……」
俺がそのあたりを言ったところで──
「お待たせしました。ご注文の品です」
店員さんがお盆に皿をいくつものせてやってきた。湯気の立っているスープ、パン、肉料理がテーブルに並べられていく。
「にくー!!」
イナンナとティルが目の前の旨味の塊を見て、ヨダレを垂らしている……!
エルディは再びメニューを開いた。
「お酒もあるけど、アスタはどうする?」
「お酒はさすがに──」
「飲むと嫌なこと忘れられるわよ」
あ、おばちゃんが虚な目をしている。
「……飲むか」
教会ではご法度だったけど、俺だって一応成人している。 せっかくだから飲んでみるとしよう。
「じゃあ、乾杯」
「かんぱーい」
俺とエルディは、店員さんに渡された果実酒入りの木製ジョッキを小さな音を立てて合わせ── 三十分後。
「だから本当酷いんだって! 毎日頑張ってしんどいお祈りを続けてたのに、こんなにあっさり捨てられるなんて思っても見なかった!」
「ああ、酷いことがあったわねアスタ! 飲んで忘れよう!」
「もちろんだ。エルディ!」
テーブルを挟んで俺はエルディに愚痴をぶちまけまくっていた。
「にくー」
イナンナとティルはいつのまにか、肉の大食い対決をしている。皿がどんどん積み上がっている。
「こんなに人と楽しく飲んだのは久しぶりよ」
「俺もだ」
俺はエルディにしみじみ言われて、思わず同意した。 エルディは、そんな俺に尋ねる。
「アスタは、これからどうするの?」
「教会の本部に呼ばれてるから、そこへ行って魔王討伐の方法を探ろうと思う」
「そっか。じゃ、景気付けに今日はパーッと行きましょう」
俺たちはそんな感じで飲み明かした。
翌日
洋裁屋に顔を出すとあのオタクっぽい子が笑顔で出迎えてくれた。
「はいはーい。服は出来てます、はい。久々に徹夜しちゃいましたー、はい」
その割りにめちゃくちゃテンションが高い様子の洋裁屋の店主。その店主は店の奥からティルの服を持ってきた。
基本色が白のワンピースだった。真ん中には赤いリボンに所々赤い色を使ったコントラストが施されており、シンプルだが綺麗に作られているのが分かる。
「ごしゅじんさまーこれを着るの?」
「ああ」
「わーい!」
今までマントを羽織っていたティルはその場で全裸になろうとする。
「ダメです」
「えー」
それをイナンナが止めて、店の奥へと案内してもらう。
俺は店内で着替えてくるのを待った。
「じゃあ魔物の姿にも変わってくださいです、はい。」
あの店主の声が店の奥から聞こえてくる。
「なんでー?」
「じゃないとリボンが肉に食い込むわよー」
「やー!」
怖いことを言うな。
「分かったー」
ボフンと変身する時に聞こえる音がして、そして。
「うん。やっぱり似合いますぅ……はい」
なんともうっとりするような声が聞こえた。
「じゃあ行きましょう」
「うん!」
店の奥から女性陣が出てくる。
そして俺はティルの方へ目を向ける。
……うん。元々の容姿が良いからか本格的に天使みたいになっている。
白いワンピースに、純白の羽……胸に赤いリボンが、なんていうか。
お子様天使ヒロインみたいだ。
「ごしゅじんさまー」
「あ?」
「どう? 似合う?」
「まあ、似合うんじゃないか」
ここまでティルの外見のスペックを生かした服を作れるとは、オタクっぽい洋裁屋、お前も中々の腕なのだろう。
「えへへ」
照れたティルが服をひらひらとなびかせて笑う。
あの服、ティルが魔物の姿になると確かに消えて、リボンがティルの首輪に変わるという離れ業をかます様になっていた。
高いだけあって便利な機能が備わっている物だ。
「よし、行くぞ」
「うん!」
「はーい」
俺たちは準備を揃え、教会の本部に向かった。向かう途中で、魔法屋のエルディと会った。
「あ、アスタ! 教会の本部に行くの?」
「あぁ」
「魔王討伐、ガンバってね。なんかあったら協力するから連絡頂戴」
「わかった。ありがとう」
俺とエルディは握手を交わし、俺は教会に向かった。




