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魔力の服を作る

 港町のサブリナは教会の本部があるところだが、海沿いの交易都市らしい。海に近いことから、他国からの旅人や商人が多く出入りする。

 王都を出発したてから色々あったものの、俺たちは無事目的地の街へとたどり着いた。


「人が多くて、賑やかな街だな!」

「人口が一番多い街みたいだからね!」


 俺が教会から見えた景色は王都の街並みしか見えなかったが、ここは全体的に賑やかだ。

 漂ってくる潮の香り。多種多様な旅装束に身を包んだ通行人たち。

 屋台や露店から響いてくる呼び込みの声。

 知覚する情報のすべてが、俺の心を浮き立たせてくる。

 っと、そんな事より………


「ごしゅじんさまー? お腹すいたー」

「お前は黙ってろ」

「やだー」

「急いで洋裁屋を探すぞ」


 俺の横で騒ぐ少女姿のティル。

 昨日は大変だった。イナンナは突如の事で、絶句しているし。

 ティルにいたっては俺に近付きたいが為に、裸で人の姿になるわで。

 今はとりあえず、俺のマントを羽織らせている。

 俺は急い洋裁屋らしき看板を見つけてそこに入った。


「わぁ……凄くかわいい子ですね」


 洋裁屋には首にスカーフを巻いたメガネの女の子が店員をしていた。


「ごしゅじんさまー? どうしたのー?」

「お前は黙ってろ」

「へ……ヘックシュン!」


 ボフン! ビリイイイイ!

 変身して、羽織わせていたマントが破れる音が響く。

 このバカ鳥が! マントだってタダじゃないんだぞ。


「な……」


 洋裁屋の店主も言葉を失い。ティルを見上げる。

 ティルはまた人型に戻って、俺の手を握った。その頭の上には原型をとどめているマントが落ちてくる。


「で、その子の服を買いたいって事ですか?」

「あぁ、変身しても破れない服は無いか?」


 俺は無理を承知で店主に頼む。


「というか何故変身するんだ!」

「お兄さん。少し落ち着ついて」


 クソ! 一体どうなっていると言うんだ!

 背中には羽が生えているし、金髪の少女だからか天使っぽい。しかも顔は整っていて可愛いときてる。

 年齢はたぶん10歳前後だろう。

 ぐうううう……。ティルの腹の虫が響く。


「ごしゅじんさまーお腹空いた」

「我慢しろ」

「やだー」


 それになんでこいつは、こんなにわがままなんだ?


「うちの残りご飯を食べる?」


 そう言うと店主は奥から鍋を持ってきてくれる。

 雑煮っぽいな。


「やめ――」

「わぁああ、いただきまーす」


 ティルは店主から鍋を奪うと中身を全部、口に流し込んだ。


「んー……味はいまいちかなー」


 鍋を店主に返す。

 店主も唖然として俺を見つめた。


「その、すまない」

「……ははは」


 どんどんドツボにはまっていくように感じる。


「そうですねぇ……変身技能持ちの服があったような気はするんですが……」


 ゴソゴソと店の奥のほうへ店主は商品を漁りに行く。

 店主が出てきたのはそれからしばらく経ってからだった。


「ごめんなさい。見た感じだと変身後のサイズに合う服がなかったわ」

「なん、だと!」


 俺はどうしたら良いと言うのだ。こんな、いつ全裸になって俺に親しげに接してくるのか分からない幼女に服さえ着せられないのか。


「ごしゅじんさまー」

「お前は変身するな!」

「こらティル、アスタから離れなさい」

「やだー」


 く……この子は一体何がしたいんだ!

 俺に近づいてくるのに、俺が言う事をすべて拒否する。反抗期か?


「だって……ティルが本当の姿だとごしゅじんさま、一緒に寝てくれないもん」


 ギュウっとティルは俺の手を握り締めて満面の笑みを浮かべる。


「……なんで一緒に寝なきゃいけないんだ?」

「寂しいんだもん」

「ははは………大変ですね」


 洋裁屋の店主に心配される。

 俺はこいつの子守役じゃないんだが……。


「まあ、とりあえず他に何かないか探しておきますから、今日は帰ってください」

「ああ、すまない」

「ごちそうさまー」


 洋裁屋を後にして、宿がある方へ向かって行く。

 

「ごしゅじんさまと一緒にねるー」

「ダメに決まってるでしょ!」

「あーずるーい! イナンナお姉ちゃんはごしゅじんさまを独り占めしてるー」

「してないわよ!」


 何を騒いでいるのやら……。


「さて、じゃあティルは宿に備え付けられている馬小屋で寝ような」

「イヤ!」


 鳥の分際でハッキリと拒否しやがった。


「ごしゅじんさまとねるのー!」


 ……これは子供が親と一緒に寝たいとか言う駄々と同じだな。


「わかったわかった、しょうがない」

「アスタ!?」

「ここで否定したところで、ワガママ言うんだからある程度あわせてやらなきゃいけないだろ?」

「まあ……そうだけど」


 納得しかねると言うかのようにイナンナが呟く。


「だが、絶対人前で裸になるんじゃないぞ」

「はーい!」


 ほんとに分かっているのか?

 まあ、良い。明日、洋裁屋の店主がどうにかしてくれることを祈るしかない。

 宿屋で店主に宿泊代を払って、部屋に入る。


「わぁ! 柔らかい寝床ー!」

「おい、静かにしろ!」


 ポンポンとベッドに乗って跳ねるティルに注意を促しつつ、今日は早めに寝る事にした。


 ……あ、熱い!

 なんで熱いんだ!?


「うう……」


 体が思い通りに動かない。

 どうなっているんだ?

 恐る恐る目を開けると視界は白一色。

 羽毛に包まれていた。


「すー……すー……」


 なんだ!? このベッド、呼吸しているぞ!

 顔を上げると、寝ていたところはベッドではなく、本当の姿に戻ったティルの腹の上だった。

 いつの間にか元の姿に戻ったティルがベッドから転げ落ちて俺を抱き枕にして寝入ったようだ。


「起きろ! このバカ鳥!」


 誰が本当の姿に戻って良いと言った!


「やーん」


 こいつ、本当の姿でも喋れるようになってやがる。


「ど、とうしたの!?」


 イナンナが寝ぼけ眼で俺の方を見て叫ぶ。


「おお、イナンナ、助けてくれ!」


 怒鳴ってもコイツは起きやしない。


「起きなさい、ティル!」

「むにゃむにゃ……ごしゅじんさまー」


 ごろんとティルは床を転がる。

 ミシミシミシ……

 嫌な音が床から聞こえてくる。


「起きろ!」


 しかし、ティルは俺を抱き締めたまま起きる気配が無い。


「起きなさい!」


 イナンナが俺を抱き締めるティルの腕を力技で開く。

 俺はその隙を逃さずにどうにか脱出した。


「んにゃ?」


 抱いていた俺が居なくなったのを察知してティルが目を覚ました。

 ティルは俺とイナンナが睨んでいるのに気付き、首を傾げる。


「どうしたの?」

「ティル、まずは人型になれ!」

「えー、おきていきなりー?」


 くっ!

 この手は使いたくなかったが、しょうがない!


「コルダ・レガーレ」


 俺は束縛魔法を使うと、魔法で出来た縄がティルを縛る。これは術者の命令を聞かないと、どんどん縄が締まっていく魔法だ。

 

「人型になれ!」

「えー……もうちょっとごしゅじんさまと寝たいー」


 俺の命令に背いた所で縄が締まっていく。


「え?」

「聞かないと苦しくなるぞ」


 緑色の縄がティルの体を締め付けていく。


「やーだ」


 ティルは諦めたのか、人型に戻る。


「ふう……朝から散々だ」


 俺たちはすぐに洋裁屋に向かった。


「あっ、お兄さん」


 俺が来るのを待っていたと言わんばかりに店主は手を振る。


「いいのがあったか?」

「はい。ちょっと待ってください」


 そう言って洋裁屋の店主は店を一度閉店して、俺達を案内する。すると魔法屋にたどり着いた。


「あらあら」


 洋裁の店主と一緒に顔を出すと魔法屋のおばちゃんは笑って出迎える。


「ちょっと店の奥に来てくれるかい?」

「ああ、ティル、俺が許可するまで本当の姿になるなよ」

「はーい」


 魔法屋の奥に入ると作業場らしき部屋に俺達は案内された。そこは天井が高く、横も3、4mくらいの部屋だ。

 床には魔方陣が書かれ、奥に机と椅子がある。机の真ん中には水晶が置いてある。


「ごめんねぇ、作業中だからちょっと狭くて」

「いや……それより、この子の服はここで売っているのか?」

「正確には作るって言った方がいいかもね〜」


 おばちゃんはそう言って机の上にある水晶をどかして、古い糸巻き機みたいのを載せる。


「その子は本当に魔物なのかしら?」

「ああ、だから本当の姿に戻ると服が破ける。ティル、元に戻れ」


 ここでなら本当の姿に戻しても大丈夫だろう。


「うん」


 俺が指示を出すとティルはコクリと頷き、マントを外して元の姿に戻る。


「あらあら」


 魔法屋のおばちゃんはティルを、驚きながら見上げる。


「これでいいの?」


 声はティルのままだからなんとも異様な光景だ。


「じゃあ服を作るかしらね」

「作れるのか? 変身しても破れない服が」

「そうねえ……厳密に言えば服と呼べるのか分からないけどね」

「どういう事だ?」

「あなたは私が何に見えるかしら?」

「……魔女っぽいが」

「そうよ。だから変身という事には多少の知識があるのよ」


 確か教会の書物で、魔女には動物に変身する事が出来るって書いてあったような。


「まあ、魔女によってなんだけど、動物に変身するというのは大体、三流の魔女だと面倒な手順でしか変身出来ないけど、一流の魔女なら多大な魔力だけで変身できるのだけど、それなりにリスクを伴うのよ。で、変身が解ける度に服を着るのは面倒でしょう?」


 変身というのは魔女なら出来るのか。

 おばちゃんは裁縫用の道具を弄りながら答える。


「自分の家とかで元に戻れるのなら良いけど、見知らぬ場所で変身が解けたらそれこそ大変よね」

「まあ、そうだな」


 服が破けて、全裸で歩いていたらそれこそ目立つ。


「だから変身しても大丈夫なようにそれ相応の服があるの、変身が解けると着ている服に戻る便利な服がね」

「なるほど」


 一理ある。変身中は消えて、変身が解けると着ている服に変わるか。


「魔物や魔女に伝わる技術なのよ。有名所だと吸血鬼のマントとかね」


 あー……確か教会の書物に魔女以外にもコウモリに変身したり、狼に変身するとか書いてあったな。


「で、これがその服の材料を作ってくれる糸巻き機よ」

「へー……どういう原理で変身すると服に?」

「厳密に言えば服とは言いがたいかも、服に見えるようにする力が正確ね」


 俺は魔法屋のおばちゃんの返答に首を傾げる。

 どういう意味だ?


「この道具は魔力を糸に変える道具なの。そして所持者が任意のタイミングで糸か、魔力に変えれる訳」

「分かりやすく言うと人型になった時、魔力を糸に変えられるようになるって事です」

「ああ、そういう事か」


 洋裁屋の店主の補足でなんとなく理解する。

 確かに服とは言いがたいかもしれない。人間の姿をしていない時は形の無い魔力となり、人型の時には形を成す服となる。


「ただ一つ、問題があるわ」

「なんだ!?」

「その糸の原料となる魔法石が必要なのよ」

「それはどこにあるんだ!?」

「東にある鉱山にあるはずよ!ここから、半日くらいのところね」

「そうか、それならすぐに取ってきてやる!」


 魔法屋のおばあさんは口を継ぐんでいる。


「何かあるのか!?」

「前はその魔法石を目当てに、鉱山を色んな人が出入りしていたんだけど、今は魔物が棲みついたらしくて、誰も近寄れないのよ」


 話しを聞くと、その魔物は古代のキメラらしい。突如鉱山に現れ棲みついてるみたいだ。


「俺たちがなんとかしてやるから、場所を教えてくれ


 俺は魔法屋のおばあさんから地図を貰い、鉱山に向かった。

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