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怒りの衝動

「魔物がいっぱいね」


 元々不毛の大地だった影響か山は岩がごろごろしている岩山だった。

 まぁ、山道があるおかげでどうにか進めている。

 俺の聖者魔法でガードしながら、イナンナは魔物を切り倒していく。

 敵はポイズンツリーや毒系統をもつ魔物が多い。

 倒した後はマメに手甲に吸わせる。


 ポイズンビーシールド条件が解放されました。


 ポイズンビーシールド

  魔力解放……魔法ボーナス、解毒5

  魔力解放……魔法ボーナス、麻痺5


 麻痺や毒に効果があるみたいだ。

 それにしても、敵の出現が激しい。倒しても次々と湧いてくるというくらいだ。

 確かに、これは疫病を振りまく風と毒、更に地面から瘴気みたいのが立ち込めていて、普通の冒険者は厳しいかもしれない。


「相手をしていてはキリが無い! イナンナ駆け抜けよう!」

「えぇ!」


 俺は馬の手綱を強く引っ張った。馬車を引いて全力で駆け抜ける。

 それだけでバシバシと敵を跳ね飛ばしていく。

 そしてしばらくして……。


「やっと目的地か」


 毒の瘴気と腐敗臭が辺りに立ち込めている根源、ドラゴンが見えてくる。

 大きさは10メートル強、西洋風のドラゴン。だが、その体は腐敗していて、黒い皮が認識できる程度だ。


「イナンナ、大丈夫か?」

「え、えぇ」

「きつくなったら直ぐに休めよ」

「アスタこそね!」


 ギロリ……。

 ドラゴンは俺たちに気づき動き出し、四つんばいになって臨戦態勢を取った。


「ギァオオオオオオオオオオオオ!」


 牙も角も無いドラゴンの頭部が持ち上がって咆哮をあげる。


「あれで動き出すってどうなってんだよ!」

「アスタ、落ち着いて!」


 ゾンビドラゴンを前にして俺は叫んでいた。

 おいおい。幾らなんでも今の俺達には荷が重過ぎる相手なんじゃないか?

 するとイナンナが丁度、ゾンビドラゴンに跳躍し、その頭部に斬りを加える瞬間だった。

 ドゴっと良い音がしてゾンビドラゴンが仰け反る。


「攻撃は……効く、のか?」


 イナンナの攻撃力が高いと言うのもあるが、このゾンビドラゴンは、ドラゴンの攻撃の要である爪と牙がない。

 もしかしたら勝てるかもしれないが……相手にはスタミナという概念が無いと思われる。

 しかし、ここで俺達が引いたら村の方へ、このゾンビ ドラゴンが行く危険性がある。

 もちろん、生前と同じようにここを縄張りにする可能性もあるが、今倒さねば次に戦う誰かが厳しくなるかもしれない。

 

「攻撃が効かないのか?」


 イナンナに攻撃を受けた、ゾンビドラゴンの一部分がボコボコと再生させつつ、俺達に顔を向ける。


「ギァオオオオオオオオオオオオ!」


 ゾンビドラゴンの腹部から何かが咽あがってきて、俺達に向けてゾンビドラゴンが口から紫色のガスを放った。イナンナに俺の背後に回るように指示し、俺も相手のブレスに備えたのだが……。


「う……なんだこれ!」

「ゲホ、ゲッホ!」


 ブレスの正体は高濃度の毒ガスだった。

 毒耐性のある俺ですらも若干、めまいに似た息苦しさを感じる。イナンナは毒ガスを物ともせず、いや、正確には息を止めていたのかもしれないがブレスを吐くドラゴンの隙を突いてファイア・ランサーを加えた。


「ゲホゲホゲホ――」


 俺は口を抑えて咳き込むと、ゾンビドラゴンがちょうど、大きな口を広げ、跳躍から落下するイナンナに向けて掬うように喰らい付く瞬間だったのだ。


「あ――」


 バグン!

 大きな音が響き、ゾンビドラゴンの口から真紅の液体が滴る。


「イナンナァァァァァァ!」


 瞬間、頭が真っ白になって、俺には理解できていなかった。まだ出会って一ヶ月しか経っていないお調子者、何度も俺と契約したがった女神……

 イナンナの思い出が、走馬灯のようにフラッシュバックする。


 何が起こった?


 何が……。

 ゾンビドラゴンは口に含めた獲物を何度か咀嚼すると、

 ゴクリ。

 という大きな音を立てて飲み下してしまった。


「ゲホ!」


 放心状態だった俺は次第に大切な仲間が目の前で失われた事による怒りが、心を支配して行った。


 ――チカラガ、ホシイカ?


 頭からそんな声が聞こえた気がした。

 ほぼ無意識に声に耳を傾ける。


 ――スベテガ、ニクイカ?


 ドクンと心臓の鼓動が強まる。

 剣から闇が生み出される感触を覚えた。

 これは……レグロスと戦ったときに起こったあの時と同じ……。

 黒い闇が俺の視界に浮かび上がる。


 「冥府の聖者」


 ふと、このフレーズが脳裏に過ぎる。

 ドクン……ドクン……。

 意識が、怒りに飲み込まれて行く。

 あの時、世界の全てが憎くてしょうがなかった。

 世界に存在する全てが黒く、俺をあざ笑う影にしか見えなくなった。

 その感情が俺を支配していく。


「ギァオオオオオオオオオオオオ!」


 黒い大きな渦が俺を覆う。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


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