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疫病が蔓延している村

 ある村に到着した。

 村の印象をあえて言うのなら、暗い。暗雲がこみ上げていて、何とも黒っぽい村だ。辺りの木々が枯れていて空気が重たい。

 空を見上げると雲も分厚く、まだ昼間くらいの時間帯のはずなのに暗い。眼前にある大きな山脈が少しずつ近づいてくるみたいだ。


「イナンナ、念のために布で口を覆っておいた方がいいかもな」

「なんか不吉な感じよね」


 俺も口を布で覆い、最低限の防御をしてから進んで行く。


「……旅の……方ですか? 申し訳ありませんがこの村は、疫病が蔓延していまして、ゴホ……避難した方が……」


 苦しそうに咳き込みながら村人が俺達に説明する。


「俺は元聖者だ。交渉次第では治療をしてやる」

「そ、そうですか! 助かった」


 村人が走り出し、聖者が来たことを告げに行く。

 ……かなり緊迫した様子だ。


「おぉ、聖者様!これで村も救われる!」

「おい、まだ助けるとは言ってないぞ。交渉次第だ!」


村の村長らしき人物が、小袋を渡してきた。


「村には今これだけしかありません」


俺は中身を見ると、銀貨や銅貨が数枚ずつ入っていた。

 こんな状態じゃ、商売にもならないだろ。きっとこの金もなけなしの金なのだろう。

 しょうがない。


「治療を受けたい奴は何処だ?」

「こちらです。聖人様」


 暗い顔をしていた村長らしき人物は、ぱっと笑顔になり案内しはじめた。

 案内された場所は症状の重い者達を集めた建物だった。隔離施設的なものだろう。

 施設の裏には墓地があり、真新しい墓標が何本も建っている。

 ……死の匂いがすると言えば伝わるだろうか。病院や墓場独特の嫌な空気の原因だと確信する。


「妻をお願いします!」

「ああ」


 俺は病で咳を止め処なくする女性に手を翳し起こし、呪文を唱える。

 パア……っと緑の光が女性を中心に広がった。

 女性の血色がよくなったように感じる。よかった。効果があるようだ。


「次!」


 俺が顔を上げると案内した村人の奴、驚愕の眼差しで俺を見ていた。


「どうした?」

「あ、あの……」


 女性の隣で横になっている子供を指差す。

 先ほどまで女性同様に咳き込んでいたはずなのに、咳が止まっていた。

 死んだ……?

 俺はその子供の呼吸を確認する。

 ……よかった。まだ生きている。

 しかし直前まで咳き込んでいたはずなのに随分と安定している。


「どういう事だ?」

「あの、聖人様が妻に魔法を掛けるとほぼ同時に隣の子の呼吸も和らいだように見えました」


 もしかして……今まで気づかなかったが、俺の魔法効果範囲は周囲にも微力ながら効果があるのか?

 見た限りだと半径1メートル程度の周囲なら同様の効果を出せるようだ。


「それなら話は早い!回復魔法は俺の半径1メートル範囲でやる。急いで並べろ!」

「は、はい!」


 人手が足りないのでイナンナにも病人を運ばせて、近くで魔法を行った。

 体力の節約にもなり、隔離施設の連中の治療も思いのほか早く終わった。

 だが……しばらく経ったけれど、症状の緩和だけで完全に快方に向っている訳ではないみたいだ。


「ありがとうございました!」


 感謝されこそすれ、俺は満足とは言い切れない状況だった。感染する危険性も孕んでいるし、根絶できないとは。


「そういえば、この病は何処からだ? 風土病か何かからか?」


 俺の魔法でも、この程度しか効果が無いという事はかなり力が強い病だ。

 俺達も感染する危険性がある。

 最悪、足早にここを去るという選択を決断せねばならないだろう。


「その……実は魔物の住む山から流れてくる風が原因ではないかと、治療師は言っておりました」

「詳しく話せ」

「では、彼に……」


 治療師とは医者に近い人物で、薬学に精通した職種らしい。その治療師はこの村で病に効果がありそうな薬の調合を行っており、丁度俺達が治療中に隔離施設に来て治療を手伝っていた。


「お前がこの病の原因が山からの風だと説明していたそうだな。何故だ」

「あ、はい。約一週間ほど前、山脈を縄張りにする巨大なゾンビドラゴンが突如現れました」


 一週間前?ちょうど迷宮が現れた時だな。


「このゾンビドラゴンを討伐するために、多額の賞金をかけ冒険者を集めたのです。ですが……」

「どうした?」

「ドラゴンの討伐から、辛うじて帰還した冒険者が病を発症しました」

「……分かってきたぞ。この病の原因はそれか」

「おそらくは……」


 これも魔王が現れたのと関係しているのか?


「原因が分かっているならササッと冒険者に頼んで討伐すれば良いだろ」

「それが……気付いた頃には山の生態系が劇的に変化していまして、空気には毒が混ざり、並みの冒険者では入ることさえ困難になりました。しかも、この村で起きている流行り病を警戒して冒険者はこの村に近づきません」

 なるほど……。

 魔王の影響だとしたら、俺たちにも少なからず責任があるかもな。


「聖人様、どうしましょう?」

「国には報告したのか?」

「はい。近々、治療薬が届く予定です」

「……騎士団は?」

「何分、忙しい身なので、後回しになっている可能性が高いかと」


 まだ王国は復興作業中だから、治療薬が届くのはまだ先になるかもしれないぞ。

 あの聖女様といいマインといい。

 腹立たしくてしょうがない。


「国への依頼料とかは既に払っているのか?」

「ええ……」

「キャンセルしたら戻ってくるか?」


 治療師の奴、俺をまっすぐに見て目を見開く。


「聖人様が行くのですか?」

「どうせ薬が届くまで時間が掛かるだろ?」

「はい……最低でもあと一週間は掛かるかと」

「分かった。俺がドラゴンを討伐しに行ってやる。代わりに国への依頼料を寄越せ」

「わ、わかりました」


 村長的な男は、困惑した表情をしたが、小さく頷いた。こうして俺は山の方へゾンビドラゴンを討伐しに行く事になった。

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