盗賊から奪う
「いやぁ……馬車に乗せて頂けるとは助かりました」
次の町に行きたいという商人が馬車に乗せてくれと言ったので、馬車に乗せていた。
「で、お前は何の商人なんだ?」
「私は宝石商ですよ」
大方貴族のアクセサリーとかあのクソ王族を商売にしているという事か。
「そんな金持ち御用達の商人が一人とはな?」
金持ち相手の商人が商売をするのなら護衛くらい必要だろう。なのに一人で旅をしているとは……
「ハハハ、痛い所を突きますね」
ニヤリと笑いながら商人は答える。
「商人と言ってもピンからキリまでいますよ。私は宝石商の中でもアクセサリー商とでも言うべきでしょうか」
「どこが違うんだ?」
「私の商品を見てみますか?」
そういってアクセサリー商は自身が持っている革製のカバンを俺に見せてきた。
中を見るとブローチとかネックレスとかが入っている。しかし、使っている金属は鉄や銅が目立つ。そして嵌っている宝石も……、宝石と呼ぶには難しそうな感じだ。
「今回は安物の品しかありません」
「商売で失敗でもしたのか?」
「いえ、今回の取引の相手が稼ぎの低い冒険者用のアクセサリーでして」
アクセサリー商の話だと、アクセサリーには魔法の付加を掛けて、それを使うと能力を補佐してくれる効果があるらしい。
「ちなみに1個どれくらいの値段で売れるんだ?」
「そうですねぇ……この、攻撃力増強のブレスレットでしたら一つ銀貨20枚程度といったところでしょうか」
う……結構高めだ。
「魔力付与すれば1個100枚は行くでしょうね」
「そうなのか」
「ええ」
ふむ……これはお金を稼ぐにも考える必要がありそうだ。
魔王以外の請求もあのクソ王族に請求すればいいのだろうが、アイツらに頼るのもイラッとくる。
「これは細工で作るで良いのか?」
「そうですねぇ……形を作り、魔力付与を行うとこまで含めれば細工でしょうかね」
なるほど、アクセサリーの形を作り、魔力を付与させて始めて効果を発揮するのか。
魔力付与……これが難しいぞ。
魔法付与が使えなければ作れない事を意味しているのだ。
そのうち魔術の街にでも行ってみるか。
「中々為になった。礼を言う」
「いえいえ、こちらこそ」
「アスタ、なんか来るわ」
イナンナが若干緊迫した声を出して俺に注意する。俺はそっと馬車から外の様子を確認する。
すると森の奥から人影が現れた。
全員、それぞれ武器を持ち威圧的な態度でこちらに向ってくる。
格好は鎧やらかなり疎らだが、どうも山賊とかそういう類の連中に見える。
「盗賊だ!」
アクセサリー商が焦ったように叫ぶ。
「へへへ……お前等、金目の物を置いていきな」
お決まりの台詞に半ば呆れる。
こういうのって普通、無言で襲撃することに意味があるんじゃないか?
「知っているぞ!この馬車には宝石商が乗っていることくらい!」
盗賊のリーダー的な男か俺達の方に怒鳴り散らす。
俺は馬車内でアクセサリー商に顔を向ける。
「高値で売れる代物は無いって言ってなかったか?」
「はい……今回の売り物ではありませんが……」
アクセサリー商は懐に手を入れて大事そうに押さえている。
「高額で取引されるアクセサリーがありまして」
「なるほど、それが目当てか」
面倒な客を乗せちまったもんだ。
「安物しか扱っていない商人なら襲われることは無いと護衛費をケチりまして」
「馬鹿か、あんたは……」
はぁ〜、溜息しか出ない。
「後で迷惑料を請求するからな」
「……わ、わかりました」
アクセサリー商は渋い顔をしながら頷く。
「イナンナ、敵みたいだ」
「えぇ!」
イナンナは馬車から飛び出して臨戦態勢を取る。
アクセサリー商を引きずって俺も後を追う。
「絶対に俺から離れるなよ」
「は、はい!」
俺は剣を抜き、闇剣に変化させる。
「なんだ? 俺達とやろうってのか」
「ああ、降りかかる火の粉は払わねばいけないのでね」
俺は盗賊を睨みつけながら答える。
今回の戦闘で重要なのは、敵の目的を達成させないこと。それは、アクセサリー商の所持する物を奪われないようにすると言う事。
「イナンナ、やれるか?」
「ええ、丁度退屈してたし」
「そうか、じゃあ……頼む!」
俺の言葉と同時に盗賊達も武器を振りかざして襲い掛かってくる。敵の数は大体、十人前後。それなりの人数だ。
「ウィンドシールド!」
走り抜けてくる敵にこれ見よがしに壁を出す。
「てえい!」
イナンナが剣を使い、動きがとまった盗賊に斬りかかる。防具で受け止めはしたがイナンナの斬りが強かったのか、盗賊は吹っ飛んで倒れていく。イナンナの高速な動きで、一人、また一人と斬っていく。
あっという間に盗賊の数は減り、ちゃんと立っているのは3人にまで減っていた。
「チッ! 撤退だ!」
「逃すか!」
この盗賊のリーダーくさい奴をウィンドシールドで囲った。その逃げる盗賊をイナンナが捕獲した。
思いのほか弱い連中で助かった。
っていうか……イナンナがかなり倒してくれていた。
「さて」
俺は縛り上げた盗賊たちを見定める。
「コイツ等、何処かの町の自警団とかに出せば報奨金とか出るか?」
「今のご時勢そこまでお金を出してくれるの!?」
イナンナが困った表情を浮かべて答える。
「お前は知ってるか?」
アクセサリー商に尋ねるが、やはり首を振る。
「ですが、やはり自警団に渡すべきかと」
「ふむ……そうなんだが……」
俺はどうするか悩んでいた。盗賊の顔を見ると、ニヤニヤ笑っていた。
「やっぱり。死んでもらうか。俺たちに降りかかる火の粉は小さいうちから消しといた方がいい」
もし、あのクソ聖女や国王に話しがいったら面倒だしな。盗賊の連中……途端に表情を青くする。
中には必死に縄を解こうとしている奴も居るが、イナンナに殴られて悶絶する。
「い、命は助けてくれ!」
「じゃあ、お前等のアジトの場所を教えろ。金目の物とか全て寄越せ。嘘を吐いてもいいぞ。ただし俺は騙されるのが死ぬ程嫌いだ。嘘を吐けばお前等の体をバラバラにしていくからな」
震え上がる盗賊達に軽い感じで答える。
「わ、わかった! 俺達のアジトの場所は――」
地図上で何処にあるかを確認した。
近いな。
「よし、交渉成立だ」
俺は盗賊全員に失神するくらいの力を込めて一撃を加えた。
「とりあえず、金目の物を剥ぎ取ろ、お? コイツ良い装備しているな、イナンナ、お前の装備にしたらどうだ?」
「アスタ、あんたやってることが盗賊と変わらないわよ」
イナンナは、そう言う割にはテキパキと盗賊から装備を奪っていく。
「後は馬車に乗せて、こいつらのアジトに行くぞ」
「はーい!」
盗賊達のアジトで、見張りをしていた奴等も同様の手口で身包みを剥いでいく。
そしてたんまりと溜め込んだ盗賊達の宝を馬車に詰め込んだ後、全員アジトに縛る。
宝の種類は豊富だ。
金、食料、酒、武器防具、安い薬、などなど。想像以上だったので思い掛けない臨時収入だ。
「なんてしたたかさだ」
アクセサリー商の奴、今までの出来事に半ば放心状態で俺を見ている。
「で、お前はいくら払うんだ?」
俺の問いにアクセサリー商の奴は我に返る。
「銀貨数枚なら……」
一応、脅してみる。
お前のせいでこんな面倒な事になっているのだ。その程度で済んだら苦労しない。
「……盗賊に襲われてもタダじゃ転ばないその精神、感銘を受けました」
何か感激されている。アクセサリー商の奴、先ほどより俺を見る目が熱い。
「アナタのような貪欲でタダでは転ばない人は、商人の中でも少なくなっているのです」
「欲が深い連中は幾らでも湧いて出てくるんじゃないか?」
「意味が違います。誰かから利益を搾り取り、使い捨てるのではなく、生かしながら絞るという見極めをできる者が必要なのです」
「使い捨てねぇ……」
俺から搾り取られて縛られている盗賊達に目をやる。衣類も装備も含め全部奪ったんだが……。
「あれでか?」
「彼らは私とアナタから金銭と命を奪い取ろうとしました。ですがアナタは、生かして身包みを剥ぐだけにしたじゃないですか。命あってのモノダネ、殺されるのが自然です。アナタの身分と比べれば彼等には最高の結果でしょう」
「まぁ、そうだが」
自業自得とはいえ、すべてを奪われた奴の末路って感じだ。俺は盗賊達を見て思う。
「良いでしょう。私が秘蔵にしていた細工と魔力付与を教えてくれる人物を紹介しましょう」
「それはありがたい」
「魔術都市シャレアのレベッカと言う人物を訪ねてみるといいでしょう」
アクセサリー商はそう言うと、紹介状と街の名前を教えてくれた。途中にでも寄ってみよう。
「まぁ、次の町で降ろしてやるから」
「えぇ、またいつかあなたとはお会いする気がします。この出会いも偶然ではないかもしれません」
その後に知ったが、アクセサリー商が乗っている情報を盗賊に売った商人が、後に粛清されたらしい。




