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里帰り

……で、どうするか?


「とりあえず、故郷に帰るか」


 ここマンタの街の東門から、故郷のドリアを目指す。

 そういえば、この教会にきてから一度も外に出たことがなかったな。

 木々が立ち並ぶ林道を歩いていると、片隅で蹲っている女の子を見つけた。

 こんな場所に一人でいるとは危ないな。


「どうしたお前、迷子か?」


 声をかけると、女の子は涙目でこっちを見上げた。


「お母さんが、お母さんが……うぅっう」


 途中まで言いかけると、再び泣き出した。

 助けてやる義理もないが………

 仕方ない。

 急いでるわけでもないし。落ち着くまで待ってやるか。


 数分後、その子が落ち着き始めたところで、隣の俺に気づき頭を上げた。


「ご、ごめんなさい。待ってもらって」

「別にいいさ。それより何かあったのか?」


 落ち着いた少女は事情を話しはじめた。聞くところによると母親が病気になったらしい。それで、助けを求めて村を出てきたみたいだ。


「お前の父親はなにをしている?」

「おとうさんは、いないの」


 女の子は寂しそうに下を向きながら答える。 

 どうやら母子家庭らしい。原因不明の病に医者を呼ぶお金もなく、それで一人で助けを求めて出てきたと。


「お前の家はどこだ?」

「ドリアという村だよ」

「俺の故郷もドリアでな。ちょうど向かってるついでだから、俺をその場所に案内できるか?」

「えっ、治せるの?」

「わからん。が、回復魔法は使える。何もしないよりはマシだろ」

「………お金、ないよ」

「ないものをよこせなんて言うつもりはない。子供が金の心配なんかするんじゃねぇよ」


 俺は少女を連れて村へと歩きだした。

 向かう途中で少女から話を聞いた。まず、この子供の名前はラベンダという名前らしい。


「アスタはどうして村に向かってるの?」

「今みでこの国から出られなかったんだ。外に出られる様になったから帰ろうと思ってな」

「そう、なんだ」


 短く答えると、会話が途切れる。

 少女はこちらを窺いながら、どう会話を続けたらいいか悩んでいるように見える。俺はそんな顔を見ながら今後の事を考えていた。

 治療を申し出たはいいが、人に使用したことがない。

 効果があるかどうかもわからない。だから、治せたら治すしかないな。


 ドリアという村は小さな村だ。

 俺たちが村に着くころには、既に日が暮れ始めていた。

 ……人が集まってなにやら言い争っているようだ。


「おい、あの辺りにはいなかったぞ!」

「そっちはどうだ。まだ見つからないのか」

「クソ、もう暗くなるぞ………って、おい」


 会話をしていた男性の一人が俺たちに気づく。


「お前、アスタか? おい、ラベンダもいるぞ! お前が連れてきてくれたのか?」

「連れてきたというより、村の外で偶然出会っただけだ。……それよりも」


 病気というのはいつ急変するかわからない。

 俺は村の奴らへの挨拶を後回しにして、ラベンダを連れて、病魔に侵されている母親のもとへ足を速めた。


「ただいま!」

「ラベンダ………どこに行ってたの………!」


 ドアを開けると母親はベッドではなく玄関付近で立っていた。顔色が悪い、今にも倒れそうだ。

 相当無理をしていたのだろう。


「この子を怒るのは後だ。それよりあんたの体調、相当悪いんだろう?」

「あなたは……確か、修道院にいた子よね…?」

「………あぁ」


 いきなり俺が現れて驚いているのだろう。

 それよりも、この人の病気を手当てすることが優先だ。


「まずはベッドに戻るぞ。効果があるかどうかはわからんが、俺の回復魔法を使う」

「ま、待って………! うちには、治療費を払うようなお金は………」

「俺の魔法は人に使った事がないから、効果があるかどうかわからない。だからそんな事気にするな」


 そう説得してベッドに寝かせる。

 よっぽど無理をしていたのだろう。横になった瞬間顔色が一気に青白くなり、呼吸が浅くなる。


「とりあえず、まずは様子見だ」

《purification「ピュゥアラァフィケェィシャン」》


 毒を浄化するだけの簡単な治療魔法。

 俺が母親の体に手をかざすと、緑色の光が彼女を覆う。

 果たしてどうなるかと思ったが――効果はすぐにあらわれた。


「………あら」


 ラベンダの母親はベッドから起き上がると、自分の身体を確認するように動かす。


「治って、いるわ………」

「そうか。重病かと思っていたが、どうやらそうでもなかったみたいだな」

「そんなはずはーー」

「おかあさあああん!」


 ラベンダが大泣きしながら母親に飛びつく。

 その勢いのまま後ろへ倒れこみ、母親は再びベッドを軋ませた。母親もラベンダを抱きながら「ごめんね、ごめんね」と涙を流した。


「ラベンダ、まだ体力が戻ってないから無理はさせるな」

「あっ、うん! ごめんね、おかあさん」

「いいのよ……あの、ありがとう。なんとお礼をすればいいか………」

「大した魔法じゃないから気にしなくていい……グゥぅぅ」


 その時、ちょうど良く俺の腹が鳴った。

 俺は恥ずかしくなって軽く咳払いをした。


「まぁ、どうしてもと言うなら一食なにか食わせてもらえるだけでいい」

「それでよければ、すぐに!」


 母親は笑いながら、体調が万全ではないがしっかりとした足取りで台所の方へ向かった。


「すごい再生魔法だったよね。なにか特殊な訓練でもしたの?」

「……普通の魔法使いだ。それに、俺がいた教会では俺程度の魔法を使える連中はざらにいた。大した事はない」

「そんなことは………」

「………いや、いいんだ。気にしないでくれ。」


 俺がその教会で同じ聖者候補に嵌められて村に帰ってきたなんて情けなくて言えない。


「それにしても、どうしてこんなことになったのか、思い当たることはないか?」


 なんとなく思っていた疑問を言った。そして俺は問いの答えを聞いて不吉な予感を覚えた。


「森に出かけてた時に、黒い人影を見たの。それで私は、人がいるのが珍しくて様子を見にいったの」

「幽霊なの?」


ラベンダの問いに、母親は首を横に振った。


「わからない。ただ、そのときに怪我をしてね。翌日、体調が悪くなったの」


 俺はこの話はもっと大きな事件の前兆なのではと感じた。

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