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いざ出発

「……頭が痛い」


 ベッドに寝たまま俺は呻いた。

 昨日王城に呼び出されて色々あった俺は、翌朝二日酔いに悩まされていた。

 聖女様の謁見でさんざん嫌な思いをしたので、昨日の夜はイナンナの提案で飲み会をやったのだ。

 もちろんだが、酒場なんてやってない。

 どうしたかと言うと、酒場の店主や街の人達を巻き込んで、街の広場で飲み明かした。

 英気を養うためならと酒場の店主たちが気前よく酒樽を提供してくれたのだ。

 ……で、盛り上がり方が尋常じゃなかった。

 街の人たちも、王都の復興作業やらでストレスが溜まっていたんだろう。

 (俺も嫌な事を忘れるためにやけ酒して、しばらくしたらイナンナが調子に乗り始めて——あれ、後半の記憶がないな)

 俺はベッドから立ちあがろうとすると、何やら柔らかい弾力のある感触を手に感じた。


「おはよう」

「おぉぉぉ、お前なんで自分の部屋で寝てないんだよ、しかもそんな姿で——」


  俺はベッドから慌てて起きると、ほぼ裸姿のイナンナがベッドから出てきた。


「気持ちよかったでしょ?」


  俺は調子に乗っている、イナンナの頭にすぐにチョップを入れる。


「イッたァー!」


 まったく直ぐに調子に乗るな、この女神様は。

 俺たちがギャーギャー言っていると、部屋のドアからノックする音が聞こえる。

 

「はい?」


 ドアを開けると黒装束に身を包んだ男性が立っていた。

 修道士か?

 だが、この街の教会では見たことない顔だな。

 謎の男は言った。


「初めまして——この度はダンジョンを滅ぼしていただきありがとうございます。アスタ様」

「あぁ。えっと、あんたは?」

「教皇様の使いでございます」


 ……んん?


「よろしければ、本部の教会まで御足労頂いてもよろしいでしょうか? 教皇様がお待ちです」


 教皇様から俺たちに呼び出しなんて驚きだ。

 ラファエル教の本部はサブリナという街にあり、教皇様はそこにいる。

 教皇様から直々の呼び出しとなると、ダンジョンが出現したことの絡みか。

 何にしても——


「……正直、あまり気が進まないな。俺を教会に引き戻すつもりか?」


 サブリナの街の本部に行けば何か掴めるかもしれない。だが、そんな場所にのこのこついて行って捕まりでもしたら最悪すぎる。

 流石に俺でも学習する。王城であんな目に遭ったのに本部がある街になんて行くわけがない。

 枢機卿は困ったような笑みを浮かべた。


「そうではありません。教皇様はあなた方とお話をしたいだけとおっしゃっていました」

「信用できないな」


 その『お話』が俺を聖者候補に戻そうと捕まえるかもしれない。警戒心むき出しの俺に、枢機卿はこんな事を言った。


「教皇様が話そうとしているのは、魔王についてのことです」

「!」

「あなた方が魔王討伐を目標とされていることは、すでに伺っております。魔王の情報が豊富なのはラファエル教の本部であり、さらに教皇様は他の者では知り得ないことまでご存知です」

「それを…俺たちに教えてくれるって言うのか?」

「お二人が教会に来てくだされば」


……うーむ。


 魔王に関する情報を一番多く持っているのは間違いなく本部だ。ましてや教皇様なら貴重な情報をどれだけ持っていることか。

  魔王討伐を目標とする以上、教皇様からの情報収集は必須かもしれない。

 でも、本当に話をするだけという保証はない。


「いいわ。アスタ行こう」

「だけど……」

「どの道、いつかはいきゃなきゃいけない。それに、まぁ、仮に罠でも何とかなるでしょ」


魔王の情報を引き合いに出されたら行かないわけにはいかない。 ここはしかたないか。


「わかった。教皇様に会いに行こう」

「ありがとうございます。では、これをどうぞ——」


 俺たちが了承した事に枢機卿は安心した顔で、本部までの地図と通行手形を渡し、ここに向かうように言った。


「じゃ、本部に向かう前に寄らなくちゃいけない所があるわね」


イナンナは人差し指を立てて、ウィンクした。





「——というわけなんです、聖女様」

「なぜその流れで私のところへ来るのです…」


 調子よく告げるイナンナを見て、聖女様はうんざしたように頭を抑えた。

 場所は王城の広間。

 枢機卿と宿屋で話しを終えた俺たちは、その足でこの場所へとやってきた。


「あなた達との話は昨日で終わったでしょう。私たちは、あなたちの魔王討伐という妄言を受け入れました。それで充分でしょう。まだ何か用があるの?」


 聖女様の言葉に、隣に座る国王も何度も頷いている。確かに昨日、国王夫妻と俺たちが話すべきことはもう決着がついている。この二人は、俺たちの姿なんて見たくないと思っているのだろう。


『……おい、あいつら一体何しに来たんだ』

『もしかして、またあのわけわからん魔術を食らうことになるのか?俺は二度とゴメンだぜ』

『シッ、静かにしろ。あの二人に聞こえたらどうする』


 ちなみにこの広間には相変わらず騎士たちの姿もある。表情をこわばらせており、何だか怯えられている様に感じる。そんな空気の中、イナンナはこう告げた。


「私とアスタはこれから教会の本部があるサブリナの街に向かいます。だから、その旅に必要となる物資を用意してほしいの」

「なっ、なぜ私がそんな事をしなければいけないのです……」

「あら、昨日の去り際きちんと言ったでしょ。忘れたの?」

「……」


 黙り込む聖女様。

 そう言えば、確かイナンナがそんなこと言ってたな。


「…あぁもう、何が必要なのか言いなさい! 旅支度くらいは用意してあげます!」

「ありがとう。この紙に必要そうなものは書いておいたわ」


 聖女様の目線を受けて進み出てきた騎士に、イナンナはポケットから取り出した紙を渡す。

 抜かりない。

 普段はお調子者で能天気な感じだが、こういう時は頼りになる。


「もう用は済んだでしょう。 さっさと——」

「いいえ、まだだわ。次は国王陛下の印を押した証文を作ってほしいわ」

「…………はっ?」


 唖然とする聖女様に向かってイナンナはニッコリわらった。


「今後何が必要になるかわからないし、色々な街に出入りしなくてはいけないから、その際に使う書状と私たち用の手形が必要だわ。内容としては、『元聖者アスタと女神イナンナの支払いはすべて王家に請求するように』と。

私とアスタの手形と、王家の紋章を並べて押印すれば問題ないはずよね」


 聖女様はしばらく唖然として、口から絞り出すように話し始めた。


「あ、あなた……私たち王家を財布代わりにするつもりですか!?」


 イナンナが言っていることは、今後魔王絡みでの出費はすべて王家に請求が行くようにするということだ。

 魔王討伐に反対の聖女様たちからすれば、あり得ない申し出だろう。


「じょ、冗談ではありません! なぜ私達がそんな事までしなければならないのです!」

「何度も言わせないで。魔王討伐に協力してくれるよう、昨日きちんと言ったはずでしょ」

「だからと言って限度があります! あなた、調子に乗るのも大概にしたらどうです!」

「……」


 聖女様が怒り出してしまった。

 けれど、イナンナはまったく動じず自らの剣の肢にそっと触れて、


「——書状を作ってくれる?」

「………用意、しましょう!」


 あらら、あれだけ怒り狂っていた聖女様があっさりイナンナの言う事を聞き入れてる。

 よく見ると聖女様は顔は真っ青だし、膝はガクガク震えている。まるで何か重大なトラウマを刺激されたかのようだ。

 多分、昨日イナンナが聖女様に耳打ちしていたアレだと思うけが……何を言ったらああなるんだ?

 聖女様は騎士に命じてすぐに紙とペンを取りに行かせ、その場で書状の作り始める。

 聖女様が書類を作っている途中、ふと思い出したようにイナンナが口を開いた。


「…ああ、そういえばダンジョン討伐の報酬をまだ受け取ってないわね。マインの代わりに聖女様から貰えるのよね?」

「あなた、まだ何かあるのですか!? あなた達は、私からどれだけのものを奪うつもりです!」


 奪うなんて心外な。

 こっちは約束に基づいた正当な要求しかしてないのに。


「そんなに心配しなくて大丈夫よ。新しく用意する必要はないから」

「……何が欲しいのです! 美術品ですか!? それとも宝石ですか!? 与えますから何でも言いなさい」


 開き直ったように叫ぶ聖女様に、イナンナは淡々と告げた。


「馬車が欲しいわ」

「はっ?」

「長旅をするので、歩きだと流石に大変だわ。だから馬車があるといいわね」

「わかった。準備しよう」


 聖女様は項垂れて言うのだった。

 翌日、城の騎士が俺たちの宿屋に馬車と食べ物など必要そうなものを持ってきた。

 馬車には馬が二頭繋がれていて、車輪や物を載せる台の全てが木で作られている。些か安っぽいものではあるが、タダなのだからしょうがない。


「よし!じゃ、出発するぞ!」

「えぇ!」


 俺とイナンナは馬車に乗って城門を出た。

 城門を抜けると見渡す限り草原が続いていた。

 一応石畳の道があるが一歩街道から外れると何処までも草原が続いていると思うくらいに緑で覆いつくされている。

 俺は自由への道を感じながら進んでいった。

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