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魔王を倒す宣言②

 魔王なんかがいるから祈り続けるというくだらない仕組みが生まれ、今の俺のような状況がうまれる。

 魔王がいなくなればすべて解決するに違いない。そうすれば、俺が教会に戻る必要はないし、追手気にする理由もなくなる。

 だから俺は魔王を殺す。全能神ザウスの加護を受ける俺ならそれができるはずだ。


「あなた……頭がおかしくなったのですか?」

「余計なお世話だ」


 大口を叩いているのはわかるけど、今更聖女様に常識人みたいなことを言われたくない。

 聖女様が吐き捨てるように言う。


「魔王を倒す? そんなことできるわけがないでしょう」

「それでも方法を探す。教会の記録や資料をあさってな」

「それができるなら、とっくに魔王は滅ぼされていると思いませんか!?」

「それでも、倒す」  


 意見を曲げない俺に、もはや聖女様とは思えない表情に、苛立った顔をしている。

 俺たちが言い合いをしていると、イナンナが声をかけてきた。


「アスタ。本気?」

「あぁ。俺が自由になるにはそうするしかない」  


 誰かに四六時中見張られ、行動を制限されて……そっちの方がまっぴらごめんだ。

 窮屈な暮らしは俺が望むものじゃない。鳥かごの中のような生活は、もうこりごりだ。


「さっきから好き勝手なことばかり言って……!」


 よっぽど俺に言われたことが屈辱的だったようで、聖女様は顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけている。


「大口を叩くのも大概にしなさい! 魔王を倒すなどできるわけがないでしょう! いくら全能神ザウスの寵愛を強く受けているからといって、あなた一人で何ができると言うの?」


 その言葉に反応したのは俺ではなく──

「いいえ、一人じゃないわ」


 ……イナンナ

 聖女様は鋭い視線を俺からイナンナに移した。


「どういう意味ですか? イナンナ」

「私もアスタと一緒に魔王を倒すと言っているの」


 俺はイナンナの参戦表明になぜかほっとした。


「魔王を倒すのが二人になったからと言って魔王を倒せる保証はないのですよ! アスタが教会に戻ってくればそれですべて解決なのですよ!?」


 顔を真っ赤にして声を荒らげる聖女様。  

 俺は教会には戻らないと何度言ったら、この人に理解してもらえるんだ。


「聖女様、今回の件で魔王を封印し続けたところで、魔王の脅威はなくせないという事が再確認できたのできただろう?」

「それは……」


 魔王の恐ろしさは今の王都を見れば一目瞭然だ。 マインのわがままで簡単に封印は緩み、これだけの被害を国民にもたらした。

 魔王の封印は絶対ではない。その事は今回の件で理解できただろう。

 聖女様は俯き、しばし考え込む。


「確かに一理あるかもしれません。封印以外の対策も考える必要がありますね」

「では」

「いいでしょう。ですが、期限を設けてもらいます」

「……期限?」


 イナンナが訊き返すと、聖女様は当然とばかりに頷いた。


「当然でしょう。アスタは貴重な能力を持っているのです。そんな結果が出るか怪しいのに、いつまでも自由にやらせておくわけには行かないでしょう。そうですねー、三ヶ月でいいでしょう。それでどうにもならなければ、大人しく教会に戻ると約束しなさい」

「……」


 この人は、本当に……

 どうやら聖女様の中で俺の提案は、教会に戻りたくない俺のわがままだと思われているようだ。

 その証拠に、不満そうな顔で『譲歩してやったぞ』感を醸し出している。


「だからだな──」

「──まだ自分の立場がわかってないのね、聖女様」  


 俺の言葉を遮ったのは、笑みを浮かべたイナンナだった。表情は笑顔だが、声と目が異様に冷たく感じる。


「あっ、あなた口の利き方に──モガッ!?」


 イナンナは何か言いかけた聖女様の口を片手で掴んで一瞬で黙らせつつ、ゲスものを見る様な冷たい目で見る。


「今のアスタには、教会に戻る義理なんてないのがわからないの? 国を守るのは聖女様や国王であるあなた達の義務であってアスタのものじゃない」

「……ッ!」  


 ミシミシと、イナンナに掴まれた聖女様の顎骨のあたりから変な音が鳴る。

 とんでもないバカ力だ。

 聖女様は必死にもがいて逃れようとするけど、イナンナの拘束はびくともしない。

 それを見た国王が、血相を変えて立ち上がる。


「な、何をしている貴様! 王族相手に……手を離せ!」

「国王様──、今私は聖女様と話し合いをしているんです。それともあなたが代わりますか?」

「っ」


 止めに入ろうとした国王は一瞬で黙った。まるで、蛇に睨まれたカエルのようだ。国王が萎縮してしまうほど、今のイナンナの威圧感は半端じゃない。


「は、離しなさいっ……! 私を誰だと」

「あのね、私たちは貴方方が出来ない魔王討伐をしてあげましょうと言っているの。それなのに、期限をつけるのだの、刺客を送るだの、付きまとわれるのは迷惑なの。言っておくけど、私が聖女様からの刺客を捕らえた場合は──」


 イナンナは聖女様の口元を手でふさいだまま、その耳元に口を寄せた。


「────────────────────」  


 小声だったので、イナンナが何を囁いたのかはわからない。


「は、はぁっはぁっ……!!」


 けれどイナンナが離れると同時に、聖女様はダラダラと顔から汗を流しながら、引き攣った顔をしている。

 さすがにびっくりした。

 現聖女ともあろう人が、公衆の面前で怯え切っている。


「何を言ったんだ、イナンナ……」

「ナイショ。ちょっと脅しておいたから、これで簡単には私達に手を出してこれないはずよ」

 

 だろうな。

 聖女様は恐怖のあまり顔と膝を震わせている。

 いったいどんな脅し文句を言ったんだ?


 イナンナは「さて」と俺を見てくる。


「聖女様達に手を出される確率は下がったはずだけど、それでもまだ魔王を倒そうなんて思う?」  


 イナンナのお陰で聖女様はすっかり縮み上がっている。

 これなら確かに無理やり連れ戻されることもなさそうだろうだが──


「……あぁ、それは変わらない。魔王を倒せば大手を振って自由になるならな」


 俺の結論は変わらない。

 俺自身のために、今まで縛りつけられてきた元凶を討伐する。


「わかった。じゃあ、一緒に頑張ろう。……あ、そうだ」


 イナンナは思い出したように玉座に視線を向けた。


「聖女様。それに国王様。これから私たちは魔王を討伐するために動きます。その際に必要なものはすべて聖女様たちが負担してくださいね。国の平和に寄与する行動なんだから、それくらい構いませんよね?」


 イナンナの言葉に、すっかり怯えた様子の聖女様は「わ、わかりました……」と首肯した。


 今までの高圧的な態度が嘘のようだ。


「よし、これでもう用は済んだかな」

「あ、待ってくれ。騎士たちが……」


 すぐにでも立ち去りそうなイナンナを、俺は引き留める。

 さっき『常闇王の絶対領域』《ダークネス・フィールド》をかけてしまった騎士たちは、まだ昏倒したままだ。俺は近づいて確認する。

 大量の魔力でダメージを負ったはずの騎士だけど、今は気絶しているだけのようだ。騎士たちの体調に関しては大丈夫そうだ。


「騎士たちは問題ないみたいだから行こうよ?」

「あぁ、そうだな」


 俺とイナンナは倒れた騎士達の間を通り、広間の出口に向かった。


──────


 王城でのいざこざを終えた俺たちはまだ復興作業中の街を歩きながら、部屋を借りている宿屋に向かった。

 そんな宿屋の一室で、俺とイナンナは溜め息を吐いた。


「疲れたな……」

「まったくね……」


 ベッドに腰かけたまま、俺たちはそんなことを呟く。 

 長い謁見だった。

 正直二度とあの広間には行きたくない。

 すると、イナンナがぽんとグラスを渡してくる。


「とりあえず飲もうアスタ」

「そうだな。今日は飲もう」


 復興作業の景気づけになればと酒類が部屋に配られているのだ。配られたワインのボトルを開け、お互いのグラスに注いでいく。


「それじゃ乾杯」

「あぁ、乾杯」


 俺はグラスを掲げ、そのままぐい ーっと飲み干した。強い葡萄の香りが喉に抜けていく。そうして、今までの緊張が解けていくように体の力が抜けていく。


「イナンナ、さっきはありがとうな。フォローしてくれて」

「あはは、私って頼りになるでしょ!惚れちゃった!?」

「ふんっ」

「痛ッたァー!」


 気持ち強めに脳天チョップ。今ので完全に緊張が抜けた。なんだ今のアホな台詞は。

 俺は毎日ひたすら祈りを強いられ、自由に街に出る事さえ許されない。壊れるまで使われ、擦り切れたら捨てられる。そんな存在。

 だが、イナンナは俺を対等な仲間として認めてくれた。『聖者候補』という道具ではなく、アスタという一人の人間として。


「……ありがとうな、イナンナ」

「うん!!じゃ、今日は疲れたし一緒に寝る!?」


  俺は小さく笑って片手を持ち上げる。


「ふんっ」

「イッたァー!」


 初めて会った日を思い出すように。

 俺たちは一夜を明かすのだった。

お読み下さりありがとうございます!

タイトルとあらすじを変更しています。

誤字報告ありがとうございます。

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