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魔王を倒す宣言

「アスタ。あなたをこのままのこのこと帰らせるわけにはいきません。あなたには、どんな手を使っても教会に戻ってもらいます。──たとえ力尽くでも」

「なっ……」


 つまり騎士たちに俺を捕まえさせて、無理やり教会に連れ戻そうと言うわか!なんて身勝手な!

 イナンナは静かに聖女様に尋ねる。


「……この騎士たちはそのために集めたってこと?」

「そうです、イナンナ。我が国が誇る騎士団の精鋭五十人です。いくらダンジョンを二人で討伐したからといって、あなた達だけでは倒せないでしょう」


 なるほど、そう言う事か。聖女様たちは俺が断っても対処できるように、大勢の騎士を集めていたようだ。


「アスタ。わがままを言わないでください」  


 聖女様が苦笑しながら言う。


「わがまま……? 俺が?」

「そうでしょう。全能神ザウスの寵愛を受けながら、祈りを嫌がるなんて身勝手過ぎると思いませんか? 私や、それ以前の聖女や聖者たちだって、ずっと我慢して祈りを捧げてきたんですよ。あなただけが特別に逃げようだなんてわがままだと思いませんか?」  


 聞き分けのない子供を諭すような言いいように、愕然とする。身勝手なのはどっちなのか。

 なんで、俺がそんなふうに言われなければいけないんだ。俺と聖女様がそんなやり取りをしている間に、騎士たちは俺とイナンナを包囲していく。


「アスタ!」

「……あぁ」  


 剣の柄に手をやったイナンナに集まってくる。

 イナンナが強いのは知っているが、この人数の騎士と戦って勝てるのかは、俺には想像もつかない。


「まったく、大人しく差し出された褒美に満足していればいいものを……言うに事欠いて現聖女の私に謝罪しろなんて。交渉できる立場にいると思ってたんですか」


 包囲されてる俺たちを見て、聖女様は呆れたように言った。


「生意気を言うからそうなるのです。聖女候補など死ぬまで大人しく暗い地下で祈り続けていればいいのです」

「……」


 聖女様のその言葉に。 ぷつんと俺の頭から何かが弾けた気がした。  

 ああ、そう言う事か。

 結局それがあんなの──あんた達の本音か。

 それならもういい。あくまで俺を道具扱いする相手になんて遠慮する必要はない。


 殺してしまおうか?


 俺の中で憎悪が膨らんでいく。


「イナンナ、どいてくれ。俺がやる」

「え? ……、わかったわ」


 何か言いかけたイナンナは、俺を見て表情を引きつらせ、剣の柄にから手を離した。

 自分でも驚くほど平坦な声だった。やっぱり俺は腹を立てているんだろうか。

 まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。


「どうせはったりです。聖者候補に攻撃能力はありません。その剣もどうせ飾りです。騎士たち、その小僧を捕らえなさい!」


 聖女様の号令で、広間の騎士たちが迫ってくる。対して俺はゆっくりと剣を抜き地面に立て、呟いた。


 今まで誰にも見せたことのなかった魔術の名前を。 「──『常闇王の絶対領域』《ダークネス・フィールド》」  


 そう口にした瞬間俺の剣から黒い闇が溢れ、謁見の間を満たしていく。

 その直後。


「あ……が、ぁ」  


 まず、俺から一番近いところにいた騎士が倒れ──次々とその場の騎士たちが崩れ落ちていく。 騎士たちの大半は顔を真っ青にして痙攣しており、ある人は嘔吐、ある人は目や耳から血を流して呻き声をあげている。

 立ち上がる人は一人もいない。


「……!? な、なんですかこれは……! アスタ、あなたはいったい何をしたのです!?」


 聖女様が信じられないというように叫んでいる。


「ただの精神干渉だよ」

「ふ、ふざけないで!  精神障害は闇魔術のはず! 聖者であるあなたが使用できるわけがないでしょう!?」  


 声を荒らげる聖女様に、俺は淡々と答えた。


「そうだな。普通の聖者なら無理だろう。でも俺は闇の契約を交わして闇魔法も使える様になったのさ」


 俺の言葉に反応したのは俺を睨んでいる聖女様ではなく、その隣にいる国王だった。


「そんな馬鹿な……! 聖者ともあろう者が闇魔法を使うだと? しかも、この部屋の騎士たち全員を精神障害にかけたと?  貴様一人の魔力で!」

「あぁ」

「まさか!?」


 国王は愕然としていた。  

 精神障害。つまり、人体の内部にある神経の通り道。

 俺がやったのは、その神経に過剰な魔力を注ぎ込んで、内部にダメージを与えたのだ。


「──有り得ません、そんなこと!」


 聖女様がヒステリックな金切り声をあげる。


「ここにいたのは、この国でも選りすぐりの騎士ですよ!?  当然神経系だって鍛え抜かれてます! そんな人間を五十人も一度に昏倒させる魔力など、個人が持てるはずがありません!」

「知らないな。単純にこいつらの鍛え方が足りなかったんだろ」


 俺がそう言うと、聖女様は顔を歪める。


「……ッ、普通の聖者候補がそんな馬鹿げた力を持てるはずがありません! あなたはいつ、どうやって、そんな力を手に入れたのですか!?」


 いつ、どうやって、と言われても…

 俺はイナンナの肩に手をかけ言った。


「こいつのおかげさ」


 イナンナは緊張していたのか、いつものお調子者の態度ではなかった。


「その娘は何者なのです!?」

「邪神の女神だ!」


 俺の回答に今度こそ聖女様が絶句する。


「ま、まさか! 伝説にある聖者に闇の魔力与える女神が現れ、世界を救うとされている、あの……」


 聖女様と国王は硬直している。


「アスタ……ずっと力を抑えてたの?」


 イナンナの質問に俺は少し考えた。


「どうだろうな。本気になる場面がなかったからな。本気の魔術は使えなかったというのが正しいのかもな」


 そう、教会に来た日から俺が本当の意味で本気の魔術を使ったことなんてないのだ。

 俺は玉座に向かって歩き出した。


「ひっ!」

「くっ、あなた達立ちになさい! それでも我が国が誇る精鋭の騎士たちですか! 誰でもいいから、立ってこの化け物を捕らえなさい! 高い褒美を出しますよ!」


 俺が近づくと国王は悲鳴をあげ、聖女様は癇癪を起こしたように喚く。

 もう騎士たちはまともに動けるわけがないのに、聖女様は騎士たちに罵声を飛ばし続けている。

 そんな聖女様に、俺は冷静に話しかける。

「聖女様、話がある」

「──ッ、な、なんの話をするつもりですか?」

「もう俺に関わるな。それだけ約束してくれれば、俺は何もしないで、出ていく」

「あなた、私を脅すつもりですか……!? 聖者候補の分際で!」  


 今まで同じことを俺たちにやってきたというのに、自分がやり返されることは嫌なのか?

 聖女様は引きつった笑みを浮かべながら言う。


「優位になったと勘違いしないで。騎士が駄目なら隠密だろうと暗殺者だろうとどんな手段を使ってでも、あなたをつけ狙います。あなたはこれから一生安息はないと思いなさい!」

「……どうしても俺を教会に引き戻すと?」

「そうです。あぁ、私を殺そうなどと思わない事ですね。そうなれば、あなたはS級の賞金首として国だけじゃなく、他国からも多くの追手にかけられることになりますから。それが嫌でしたら今ここで、私に従う事です! 今、大人しく教会に戻って祈りを捧げますと言えば、今までの事は許しましょう!」

「…」


 ここから逃げれば追手がかかる。

 今の俺は追放された時とは違って、『ダンジョン』攻略や魔術の使用によって聖者候補としての価値を認知されてしまった。簡単には逃げ切れないだろう。だからといってこのまま投降するのも論外だ。


 このまま教会に戻れば、今度こそ俺は祈りの道具として死ぬまで使われるだろう。

 逃げても駄目。白旗を上げても駄目。

 どうすればいい──どうすれば。


「さあ言いなさい、アスタ! 教会に戻してくださいと懇願しなさい!」


 目の前で喚く聖女様を見て、本当に始末してしまおうかと思考がよぎる。

 だが、そんなことをしたところで国家反逆罪としてさらに多くの追跡が待っているだけだ。それは嫌だ。

 この状況を打ち破る方法なんてどこにも──

 (……あっ)

 そこまで考えて、俺はあることに気付いた。

 ある。俺がこの場を切り抜けて自由になる方法が、たった一つだけ。

 あまりにも簡単な方法だった。今まで気づかなかった事に思わず笑ってしまいそうになる。


「ふふ、あははっ」

「な、何を笑っているのですか! 自分の今の状況をわかっていないのですか!?」


 笑いに耐え切れずに噴き出した俺に、馬鹿にされたとでも思ったのか、聖女様が怒声をあげる。  

 そんな聖女様に向かって俺はにっこりと笑みを浮かべて言った。


「聖女様。どうせ追手がかかるなら、少しでも溜飲が下がるほうがいいと思わないか?」

「……は?」  


 聖女様がぎょっと目を見開き俺を警戒する。

 俺が剣の柄に手をやり、さっきと同じく魔力を集めていたからだ。


「ま、まさか……私を殺すつもりですか!?  やめておきなさい!」

「そんなつもりはない。憂さ晴らしなんかよりもっといいことを思いついた」


 剣に集めた魔力を消しつつそう言う俺に、聖女様は困惑したような表情を浮かべる。


「……あたなは一体なんの話をしているのです?」


 俺は短く告げた。


「──魔王を殺す。そうすれば、俺が聖者候補に戻る必要はないよな」


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