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和解という名の④

それは女漁りをする聖者候補たち全員の本音だろう。 教会の外には出られず、毎日何時間もつらい祈りを続ける日々。彼たちは女で癒されないと、教会での暮らしに耐えられなかったのだ。


「聖者候補の俺が言い寄れば、どんな女でも喜んで抱かれにきた。……あつ、そうそう」  


 チャールズは馬鹿にするような笑みをマインに向けた。


「──マイン、お前は一番ヘタだったぞ。しょうもない焼き菓子を 差し入れしてる暇があったら、男を悦ばせる練習でもするんだな」

「……」  


 マインはもう何も言えなくなっている。今にも泣きそうな顔で固まっている。


「王様、聖女様! 今回みたいなことはもうしません! だから俺を聖者候補に戻してください!」  


 一方のチャールズは、マインの事などお構いなしに王様と聖女様に向かってそんなことを叫んでいる。


「それはできません。あなたは罰として生涯祈りを行い続けてもらいます。もちろん、聖者候補としての立場は剥奪します」


 聖者候補の立場がなくなる。つまり王族になれる可能性はゼロになるということ。  

 それなのに祈りは続けなればいけないとなると、まさに生き地獄。

 チャールズは顔を真っ赤に怒鳴った。


「──ッ、何んだよそれ! それじゃ、なんの見返りもなく祈りを捧げ続けろってか!? 俺は 聖者候補!選ばれた人間だぜ!? 一回ヘマやったくらいで何んだってんだよ!」


 もう礼儀もクソもあったものじゃない。

 一回ヘマやったくらいって……そんな次元の話じゃない。チャールズは自分が犯した事の大きさを理解できていないのか。


「おい、貴様いい加減に……」


 甲高い声で喚き散らすチャールズを押さえようと、騎士の一人が動きかけたところで、──今まで彫像と化していたマインがチャールズに突撃した。  


「うわぁ!?」  


 真横に吹き飛ぶチャールズ。


「許さない……許さないわ、チャールズ! 私はあなたを信じてたのに。あなたは自分のことばかり……!」  


 マインの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、髪も乱れてせっかくの美しい顔が台無しになっている。


「チャールズゥ!よくも私の想いを踏みにじったわね」


 マインは両手首を後ろで縛られながら、再度チャールズに突撃しようとした。


「ば、【障壁】!」

「うがぁっ!?」  


 マインの二度目の突進は、チャールズの張った障壁魔術に阻まれた。


「こっ、このクソ女……! なにすんだよ!」

「うるさい! 私はあなたを絶対に許さないわ!」


 身なりを汚したまま睨み合うチャールズとマインだったけれど、騎士二人に縄を引かれて引き離される。それでも二人はお互い罵倒し合うのをやめようとしない。

 そのうちマインが泣きすぎて何も言えなくなってしまった。


「ぅぐっ、うあっ、うあああああっ……!」

「ああ。鬱陶しい!泣きたいのはこっちだ!」


 チャールズは号泣するマインを見ながら肩で息をしている。


「もういいです。その二人は別室に連れて行きなさい」

「「はっ」」


 聖女様の命令により、マインとチャールズは騎士に連れられて広間を出て行った。

 もう一人、広間には元司教のミトラがいた。


「聖女様、私はチャールズに嵌められただけです。どうか、お慈悲をお願いします」


 ミトラ元司教は聖女様に頭を下げると、聖女様は息を整え、話し始めた。


「確かにあなたは、チャールズの口車に乗せられただけかもしれません。ですが、教会にとって貴重なアスタを追放し、さらにはダンジョン出現の隠蔽を図るために騎士団を裏で派遣させ、無駄死にをさせましたね」

「そ、それは……」


 ダンジョンで見た人骨や王国の紋章が入った鎧や盾は、こいつが派遣した騎士団のだったのか。可哀想に、無駄死にしただけだな。


「よって、あなたは永久地下牢と致します」

「そんな………」

「連れて行きなさい」

「はっ」


 ミトラ元司教の顔には絶望の顔が浮かんでいる。

 ミトラ元司教は先に連れて行かれた二人と同様に抵抗しながら、騎士に縄を引かれて無理矢理連れて行かれた。


「私たちはいったい何を見せられていたの……」

「ほんとだな……」


 イナンナと俺はぼやき合う。もう宿に戻ってぐっすり寝たい。そう思ってると、聖女様は何事もなかったかのように口を開く。


「アスタ、先ほども言った通りマインは帝国に渡らせます。さらにチャールズへは──鞭打ち二千回に加え、地下牢に閉じ込め一切の自由を奪います」  


 イナンナは思わず訊き返した。


「鞭打ち二千回? それは実質死罪じゃないの?」「いいえ、イナンナ。彼には回復魔術があります。いくら鞭で打とうと死にはしません」


 にこりと笑って聖女様が答える。

  俺は聖女様の笑顔に思わずゾッとした。つまり、死にかけるまで鞭で打ち、そのたびにチャールズ自身の回復魔術で治療させるという事だろう。


……えげつない。  

 それに耐えたところで、待っているのは牢獄と祭壇を往復する一切自由のない日々。考えただけで恐ろしい。


「アスタ、これで溜飲を下げてもらいたい」  


えっ?……俺?

聖女様の言葉に思わず目を瞬かせる。


「あなたを教会から追い出したミトラ元司教、マイン、チャールズにも罰を与えました。この国にはあなたが必要です、アスタ。あなたが欲するものはどんなものでも必ず揃えると約束しましょう。だから、どうかこの国を支える未来の聖者となってください」


 そう言って、聖女様は頭を下げてきた。  

 その隣での国王様も同じ姿勢を取っている。──俺に向かって!

 これは聖女様と国王様による、最大限の誠意の表れなんだろう。礼を尽くして俺を引き戻そうとしている。



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