和解という名の③
「今回の件はチャールズ様を見逃して頂けませんか。彼は被害者に過ぎません。どうか私の処分と引き換えに、彼の罪を少しでも軽くしていただけませんか」
チャールズがマインの隣で目を見開く。今回の『ダンジョン』出現の原因の元凶の一人には違いない。そんな彼を下される罰から守ろうと、マインは懇願している。
見ている限りでは──愛ゆえか。
「マイン……」
真剣に懇願しているマインの姿に、チャールズは涙目になっている。だか、それを断ち切るかのように聖女様が告げる。
「マイン。言っておきますが、チャールズはアスタを教会から追い出すのに、ミトラ司教に聖女たちを抱かせる変わりに、『アスタを追放するように』という契約をしていますよ」
聖女様は、マインを哀れむように告げた。
とことん欲まみれの教会だな……
「……はぃ?ミトラ司教と、チャールズ様が……?」
マインがゆっくりと隣のチャールズの方を見る。
チャールズは何も言わず、図星とばかりに物凄い冷や汗を流している。
……あっ、これは完全に黒だな。
どうやら本当に、アスタはミトラ司教と契約をしたみたいだな。
「う、嘘です! ミトラ司教とチャールズ様がそんな契約をするなど……!」
「嘘ではありません。ミトラ司教本人がそう言ったのですから。ちなみに、チャールズも聖女たちを抱いていますよ」
驚愕するマインに聖女様は淡々と告げる。
ミトラ司教は尋問部隊から尋問を受け、『ダンジョン』出現に関連するすべての情報をすでに吐いていること。その中に俺の追放に関連する情報も含まれていたことなど。また、その情報の裏付けは取れていること。
「マイン、妙だとは思いませんでしたか? アスタは非常に優秀な聖者候補だったと聞いています。そんな彼を失うことは教会にとっても痛手です。それに、そんな事をすればミトラ司教も重罪になると言うのに……ですが、ミトラ司教はアスタが追放される際、止めようとすらしなかった。それは事前にミトラ司教は聖女候補達を好きにできる、という取引があったからなのです」
「──!」
愕然としたのか、マインはただその言葉を聞いているだけだった。確かに今となってはミトラ司教の動きはおかしかったな。
魔王のダメージに長時間耐えられる俺がチャールズたちによって教会を追い出される際、ミトラ司教が止めなかったのは理屈に合わない。
「そ、そんなはずは……! チャールズ様はアスタに虐められていたのですよ!? それなのにアスタを追い出すためにそんな契約を交わす必要なんてないはずです!」
マインはそう反論する。そういえばマインは、俺を悪男だと思ってるんだったな。
この状況でもまだ、チャールズを信用してるなんてな。
「そうですよね、チャールズ様!?」
「そ、その通りだ! 聖女様、僕は被害者です」
チャールズが自分は被害者と言った瞬間、聖女様は呆れ顔をして喋り始めた。
「わかりました。そこまで言うならしかたありません──連れて来きなさい」
「「はっ」」
聖女様の言葉を聞き、騎士たちが足早に広間から出ていった。
しばらくするとある人物を連れて戻ってくる。
「は、離せ! 私は無実だ! あのバカに嵌められたんた!!」
騎士たちが連れてきた人物はマインとチャールズと同じ、後ろ手に縄で縛られたミトラ司教だった。
正確には元司教かもしれないが……
「ここに連れてきなさい」
「はっ」
もう一人の役者の登場か………
「おい、引っ張るな!」
ミトラ元司教は騎士たちに抵抗しつつも、俺たちの前に連れてこられ周囲を見渡した。
「チャールズ、マイン様……? それに、アスタ!貴様がなぜここに?」
ミトラ元司教が俺を見てぎょっと目を見開いた。
「ミトラ元司教!」
「……聖女様」
ミトラ元司教は聖女様の声にびっくとし、聖女様の方を見る。
「あなたは、チャールズから聖女候補たちを抱かせる代わりにアスタを追放すると契約をしたのですよね?」
「…そ、その通りです!ですが、私は嵌められたのです!実際は聖女候補たちに手を出してはいません。迂闊にもその口車に乗ってしまっただけなのです」
ミトラ元司教は必死になりながら聖女様に訴える。すると、それを聞いていたチャールズが怒鳴り声を上げた。
「ふ、ふざけるな。よくもそんな嘘を────」
「チャールズ、言葉は慎重に選びなさい。嘘を吐けばあなたの罰を重くしなければなりません」
「────」
聖女様の言葉に、チャールズは一瞬で黙らされた。
黙ったら、聖女様の言うことが事実だと思うんだが……
「う、嘘でしょう……? チャールズ……」
「……」
泥沼の三角関係ってやつか……
マインの視線に、チャールズは気まずそうに目を逸らすだけだ。
そんな二人に、聖女様はさらに爆弾を投下する。
「さらに言っておくと、チャールズはあなただけでなく、他の聖女候補たちもつまみ食いしていたそうですよ。マイン、あなたと関係を持っている間も」
「なあっ……!?」
さらにマインの顔が固まった。
チャールズは、額からの冷や汗が増しているように見える。さすがに、ここまでくるとマインに少し同情してしまうな。
「う、嘘ですよね、チャールズ様? あなたは私だけを愛してくれていたのですよね?」
マインがすがるようにチャールズに詰め寄ると──
「ああ、もう、鬱陶しいな。聖女様の言う通りだよ。俺はあんた以外の女もさんざん抱いたよ。俺はあんたが王族の娘だったから尻尾を振ってただけで、王族でもない今のあんたにはもう用はない」
舌打ちをして、チャールズはとうとうそれを認めた。 おいおい、人格が変わったぞ。
マインに至っては呆然としてしまっている。
きっとマインは今の態度のチャールズを知らないから、衝撃が凄まじいのだろう。
チャールズは吐き捨てるように続けた。
「だいたい、女でも抱かなきゃ教会でなんか正気でいられないぜ! 毎日毎日祈りをやらされるせいで、頭がおかしくなりそうだしな」