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冥府の力

「ダークカッター」


 ――その言葉と同時に剣から放たれた黒い斬撃は、レグロスの口の端を切り裂き、小さく鮮血を噴き出させた。


「ガアアアア!」


 明らかに、俺の攻撃魔法によって受けたダメージに怒ってるな。今まで空の王者として君臨してきたプライドを傷つけたか。俺はドラゴンのダメージを受ける姿を見て、身体の中から高揚感を感じた。


「……すご、聖者が冥府の力を使いこなしてる……」


 イナンナが呆然としながら呟く。イナンナも聖者が闇の力を使用している人間を見るのは始めてな感じだ。


「イナンナ、隠れてろ! 」

「分かったわ!  死ぬんじゃないわよ!」


 長い長い窮屈な生活と、裏切りという絶望の果てに。

 ようやく掴んだ俺の自由な人生。

 こんなドラゴンごときに、止められてたまるか!

 俺はウィンシールドを張り、剣を振り下ろす。


「ダークカッター」


 俺は斬撃を撃ち出しながら、レグロスの周りを走り抜ける。レグロスも素早くこちらに振り向くように脚を動かしながら、俺目がけて口から火を吹いた。

 その攻撃タイミングで、俺は止まって攻撃を受けた。


「効かないな」


 闇の魔力によってさらに強固なバリアになり、レグロスの火を受けてもバリアが壊れなかった。


「ダークカッター」


 俺は壊れない事を確認すると、レグロスの口の中に叩き込む様に、高威力の闇斬撃を叩き込んだ。

 同時にレグロスの口から鮮血を撒きながらも、こちらに向かって炎の息を吹き付ける。

 レグロスの炎はもちろん、俺のウィンドシールドに防がれている。今まではドラゴンの炎さえ防げなかったが、今はドラゴンの攻撃すら防いでいる。

 俺はさっきと同じように、レグロスの後ろに周りながら闇の斬撃を放つ戦略で相手の体力を削っていく。

 火による攻撃はシールドで防ぎ、ドラゴンの爪による直接攻撃は、距離を取りながら回避する。

 しばらくそんな攻防を繰り返していると、レグロスがしびれを切らして、不安定な姿勢から攻撃を仕掛けてきた。


「グガアアア!」

「いッ――!」


 俺は、レグロスの体当たりを受けて吹き飛び、岩壁に強打した。


「アスタ!」


 だが俺は、岩壁にぶつかる直前にウィンドシールドをかけ衝撃を緩和し、さらに俺は聖者の回復魔法(ピュゥアラァフィケェィシャン)を使い、ダメージはほぼ受けなかった。


「問題ない!」


 今の俺なら、どんな敵にだって負ける気がしない。


「おい、たかが聖者1人にその程度か? 俺はその程度の攻撃じゃ、絶対に倒せないぞ」

「グアアアッ!」


 挑発しているのがわかるのか。

 遠距離攻撃から直線的な攻撃をするレグロスに、再び斬撃を放つ。俺は攻撃を受けても回復魔法を使用し、無傷で立ち上がる。

 その繰り返しをしているうちに、レグロスも体力の限界がきたのか、一瞬怯んだように見えるた。


「どうした、空の王者? もう攻撃手段はないのか?  お前がどんな攻撃をしてこようと、俺は無傷となって立ち上がり続けるぞ」


――攻防を繰り返しているうちに、いつの間にかレグロスは全身から血を流しながら動きを鈍くなっていた。

 このままいけそうではあるが……まだ、決定打にはならないな。

 レグロスは、今までの怪我の蓄積も重なって、僅かに反応が遅れた。


「これで……終わりだッ!」  


 俺はドラゴンの首目がけて跳び、手に持っていた剣を両手持ちで思いっきり振りかぶった。


 闇の魔力を纏った剣は竜の首を易々と切断し、有り余った斬撃は、天井まで跡をつけた。 そして……俺は竜の首から噴き出す血によって、全身血まみれになった。


「うわ、汚ったね」  


 ……勝った。俺が、ドラゴンに勝ったのだ。実感としては喜びよりも、安堵の方が強い。

 レグロスの討伐を確認したイナンナが、安全を確認しこちらに歩いてくる。

 イナンナは俺のローブを手に取る。


「……どうした? 」

「レグロスの血は熱に強くて繊維に染み込ませば、服の耐衝撃が上がる効果がある事から、レグロスの血は、それ以上の高価な染料なのよね」


 この唐突さは女神特有のものなのか……?   

 青だったローブは、レグロスの血が混ざって黒になり、さらさらとしていた。


「まるでーー、漆黒の聖者って感じね」


 イナンナの可愛らしいウィンクポーズが決まったって顔している。

 イナンナは討伐したレグロスに近づき、剣でレグロスの方を指さした。


「胸のところを解体してくれる?」

「あぁ、別に構わないぞ」


 俺は闇魔力を剣に注ぐと、レグロスの皮膚の隙間に剣を入れていく。 ……よし、大幅に切り裂けたな。


「で、解体したけど今から何をするんだ」

「レグロスの一番の報酬よ」


 イナンナは血が溢れ出すレグロスの中に手を突っ込み、剣を身体の中で鋸のように往復させた。そして、小さなイナンナの手の倍の大きさの肉塊を俺に見せてきた。


「レグロスの心臓よ。これを生のまま食べる。レグロスの肉は劣化が早い上に冷凍・加熱は不可。討伐者だけが食べる事ができる言わば、ご褒美」


 そしてイナンナは躊躇なく半分に切り分けて血まみれの手を出す。


「あれ出してよ!」

「あれ?」

「塩よ、塩。加工したでしょ」


 俺はイナンナに塩を渡すと、心臓に軽くふりかけた。イナンナは心臓の半分をこちらに寄越してきたが……食べるとなると生の心臓ってのはさすがにグロテスクだ……。  

俺がためらっていると、イナンナは思いっきりかぶりついた。その姿は、女神って言うより山賊って感じだぞお前。


「……ん ~っ!  甘い!」

「甘い?」

「果物とかの甘さとは違うんだけど、なんていうんだろ、バターの焼き菓子みたいな?」


 半信半疑になりながら、塩をふりかけただけの目の前の血にまみれた肉片を齧ってみる。 


「――!? 」


 なんだこれ、滅茶苦茶うまいぞ。

 弾力はありつつも歯で簡単に噛み切れる柔らかさに、血はあっさりとした脂の味で、最高級の肉を食べている感じだ。

 なるほど、これは一番の報酬と言うのも分かるな。


「……完食してしまった。……ん?」


―― 【冥府の聖者】Lv5 ――


「レベルが上がったぞ……」


「そうよ。これがもう一つの報酬。契約した事によって、相手も同情してレベルが上がってくれるわ」


 イナンナの言ったことをぼーっと考えながら……ハっと気付いて正面の顔に震える指をつきつけた。


「お、おまえーっ!」

「レベル 15ですって! 上がったわねアタシ!」  


 こいつ、レグロス討伐の経験値、半分も持って行きやがった!

 ほんとこいつは、そういう所いい性格してるな、おい!

……まあ、イナンナがいなかったら、心臓を食うなんて発想は出なかったし、そもそも俺が闇魔法なんて使えなかったわけだから……まぁ、よしとするか。


「とりあえず、職業増やした分のお礼ってことにして置く」

「うんうん、そうこなくっちゃ。こちらとしては、【冥府の聖者】になってくれたこと自体が報酬みたいなもんだけど」

「そうなのか?」

「ええ。その辺りに関する話は後でするとして――」


 イナンナは、レグロスの大きな死骸を手の甲で叩いた。


「――さっ、帰って国王様に報酬をもらいましょ!」


 ーーこいつ

 俺はこいつのいい度胸に感心しながら、俺とイナンナは洞窟を後にした。

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