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「ワタシのこと?」


 黒い影で不気味だが、綺麗な女のような声を出す。

 

「ワタシかぁ、ワタシはダレタ? 改めて聞かれるとムズカシイ。憎しみ?災い?怒り? 色々な名前がアルナ」


 なんだこいつ?

 黒い影は俺からの問いかけに真剣に考えている。


 「だから、お前は一体誰なんだ!?」  


 俺は意味不明な謎の影の独り言に思わず声を荒らげる。

 影は「アア」と返事をすると、思いついた様に手を叩く。


「ハジメまして。ワタシはこのダンジョンの製作者にして、魔界の王ダヨ」

「魔界の王だと……?」


 魔王――それは、圧倒的な権力や暴力をふるう者、常人離れした才能・能力の持ち主。圧倒的に強い、人類の敵など。

 それが、今眼前にいるこの影だというのか?


「……ンン ~、君たち、なんだかテンション低いネ。ワタシに会えたんだから、もっと楽しまなくチャ」


 つまらなそうに言ってくる、眼前の黒い影。魔王が、第二層から現れるなんて、あまりにも想定外の事態だ。

 俺は、勝てる……のか? ……いや、こちらからいきなり仕掛けるのは良くないだろう。

 少なくとも向こうは何かしらの会話をしたがってる様子。なら、下手に戦いを挑むよりかは会話をする方が良いいだろう……っておい、

 イナンナが火の槍を黒い影に打ち込んだ。


「《ファイヤ・ランサー》ッ!」


 影に向かって飛んで行った炎の槍は影の前でとまり砕け散る。やつは防御魔法でも使ったのか?


「バカっ、こっちから攻撃を仕掛ける事ないだろ」

「………」


 俺の怒号にイアンナは無言だった。

 イアンナの方を見ると、緊張がわかる様に手は小刻みに震えていて、目を見開いている。


「いいね、いいネ! そうこなくっチャ!」

 

 急に声のトーンを上げて嬉しそうに話し出す魔王と言う影。


「挨拶にワタシの力を少し見せてあげよう」


 黒い影はそう言うと、前に出した指に黒い渦がが集まっていく。その渦は球体となって俺に目掛けて飛んできた。


 瞬間、キンッ、という音が響いた。


「え?」  


 次の瞬間、魔王の首を斬るはずだった俺の剣が粉々になった。


「そんな……!」

「ワタシを斬れる思ッタ? 残念ダッタネ」


 俺はその場に膝から崩れた。 

 あり得ない。一瞬で圧倒的な力、絶望、恐怖を植え付けられた。


「……お前の目的は、何だ?」


 俺の設問に黒い影はゆっくり話し始めた。


「君達人間はワタシらを倒して、ダンジョンを破壊しようとしていルネ。だからワタシは、その中でもっとも厄介なところから攻めようと思ったわけだヨ」


「……厄介なところ?」

「フフフ、こんなに話すのは久しぶりだから楽しイ。厄介なところというより、問題の要素の排除、だヨ」


 問題な要素だと?

 嫌な予感がする。


「お前の言う、問題な要素の排除とはなんだ?」

「あのドリアの村だヨ! 特にあの修道院は危険だねエ!」

「……修道院、だと?」

「アア、そうダヨ! 修道院には神の力を授かった子が集まるんだよねエ」  


 くそっ、嫌な予感が当たった!  

 こいつの狙いは……聖者だ。


「なぜ、ドリアの修道院なんだ? 修道院なら他にもあるだろ?」

「ンン。そうだね~。あの村は特別なんだ!」

「特別……だと?」


 魔王と名乗る影は、ニタァと笑いながら薄気味悪い声で笑っている。


「お前は、俺達をどうするつもりだ? 俺に魔王討伐できるような力はないぞ……」  


 こいつが直接、襲ってくるのは避けたい――そう念じながら、相手の出方を見る。  

 

「そうだね、久しぶりにボクが自らが喋ったんだ、ジブンの手で倒すのも惜しい気がするし、試したい事もあるからネ」


 ……よし、これ以上の戦いはなさそうだな。イナンナの方を見ると、あちらも「ふ ー……」と少し緊張を解いている。


「それジャ~ネ、君達を試してみよう思う」

「……試すだと? 」


 俺がその言葉の意味を理解する前に、地面が光り出す。光は形づくりながら大きくなって行くと、徐々に光が収まっていき、真っ赤な甲殻に身を包む巨大生物が現れた。

 その姿にビエラが震える声でその名を呟いた。


「レグ……ロス……」

「……なんだ、それ? イナンナ、おい」

「あいつは、あいつはダメ。レグロス。別名は――

『空の王』よ。ドラゴンの中で頂点に君臨する飛竜種で、魔界でも最上位級の火属性の魔物……」


 ドラゴン。まさか、こんなところでそんな存在が現れるなんて。


「アァ、じゃ、ワタシはしばらくは休む事にするヨ。人間とお話できて楽しかった、さようなラ」  


 陽気な言葉を発し、魔王はさっさと向こうへ消えてしまった。 残されたのは、俺とイナンナとレグロス。


「イナンナ! 逃げるぞ!」

「くっ、無理よ! 階段が塞がれてて逃げられないッわ!」


 悲鳴を上げるビエラの方を向くと、その後ろにある階段に光る壁で塞がれている。ウィンドバリアのような魔法の壁で、触ってもびくともしない。


『グルルル……』


 レグロスが、うなり声を上げながらこちらを見る。

  ……最悪の状況だ。魔王でなければまだ勝機があると思ってたが、とてもそんなレベルじゃない。  

 イナンナが得意な魔法は火属性だろう。

 あいつにそれを叩き込むヤツがいるとしたら、愚か者か勇者だな、正面から戦ってダメージを与えらるとは全くしない。なら、やることは一つ。


「走れ!」

「え、あっ……!」


 俺はイナンナの手を掴んで、猛スピードで洞窟の岩影へと隠れた。レグロスが口を大きく開け炎を吐こうとする姿が、岩陰の後ろに映る。


「《ウィンドシールド》!」


 俺のウィンドバリアは、レグロスの吹く炎と相打ちで、壊れる。

 炎のブレスで視界が遮られたからか、炎の壁の向こうにいるレグロスは、こちらを追撃してこなかった。

 岩陰の後ろで、俺とイナンナは音を立てないように深く息を吐く。

 はっきり言って、生きた心地がしなかった。本当に今、生きているのは奇跡的だな。

 しかし、このままじゃなにも変わらない。上への階段が塞がれているのだ。


 第一層を探索したから分かる。

 別の道があるとは思えない。それに、あの頭の回る魔王が、別の階段があったとして塞いでいないというのは考えづらい。

 レグロスを倒すしかない事は分かっているが……あまりにも無謀な戦いだ。

 どうすればいいんだ?


「本当は、マンタであなたのこと、見てた。もっと言うと、聖者全てを」

「……」

「アタシは、聖者に探してた。慈愛に満ちた聖者なのに、何かしらの恨みを持つ人間を。そして、その中でも一番気になっていたのが、あまりにも不当に虐げられているように見えたあんただった」


 イナンナは、俺のことを元々知っていたって事か?

 

「修道院で俺と出会ったのは、俺を狙っていたからなのか?」

「まさか。あれは本当に、たまたまレッドオオコウモリが子供を脅かしていたって聞いたから助けに入っただけよ」


 修道院で助けに入ったのは、目的とは関係ないんだな。


「だから、あんたがアタシを助けてくれたとき、運命かなって思ったの」

「運命?」

「そう」  


 イナンナは、そこまで言うと……うっすらと見える程度に、背中に黒い翼を生やした。  

 俺は驚愕に目を見開き、絶句する。


「アタシは、女神。その名も――『邪神の女神』よ」

「邪神の、女神……」


 予想外の発言に、呆然とその名を呟いた。美しい女だと思っていたが、俺の隣で肉を貪っていた女が、本物の女神だったとは。


「……やっぱり宗教勧誘じゃねーか」

「ふふっ、そうかもね」  


 イナンナは楽しそうに笑うと、再び真剣な表情に戻る。


「力が、欲しい?」

「……」

「教会に裏切られたあなたが、アイツらを見返せるほどの、圧倒的な復讐の力が欲しい?」  


……イナンナの真剣な表情に、冗談ではないのだろう。


「何が、得られる?」

「『闇魔法』。あなたの力を攻撃に換える。もしもあなたがアタシとの『冥府の誓約』を望むのなら、闇の攻撃魔法を、授けるわ」


 俺は仲間に裏切られ、誰も信じられなくなり、どうでもいいと思っていたが、ドリアの村の住人やこの国の住人は違う。死んでいい人たちじゃない。

 今この状況を変えるにはそれしかない。

 俺はイナンナの頭に手の平を乗せる。びくっと震えたが、今度は頭を優しく撫でる。


「わかった。あいつを倒そう」

「イナンナ。邪神の女神」

「あ……」

「改めてお前に『冥府の誓約』を願おう」  


 イナンナは目を閉じる……覚悟を決めたのか、もう片方の手を俺の手の上に乗せた。


「『邪神の女神』イナンナ。【聖者】契約にて、魔力変換【冥府の聖者】へ。《職業授与:【冥府の聖者】》」


 俺とイナンナの手の中から、眩い光が溢れ出した。それと同時に、自分の中にある何かが、変わっていくような感覚に囚われる。俺は目を閉じて、その感覚に身を委ねる。  俺の頭の中に、【冥府の聖者】レベルアップの声が響いた。

 粉々になった剣に黒い刃が現れる。

 これが、闇魔法か。

 よし、覚悟が決まった。それじゃ切り替えていくか。


『ヴォオオオオオオオ!』


「――今日が俺の始まりの日だ。《ダークカッター》!」


 その声と同時に、剣から黒い斬撃が竜の命に牙を向いた。  

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