教会を追放
「聖者候補のアスタ! あなたを追放します」
はっ?どういうこと?
そう言ったのは王女のマイン様。
美しく整った顔に怒りを浮かべている。
彼女の周りには、教会の他の聖者候補や聖女候補たちが並んで立っている。
そんな彼らが揃って俺を睨みつけるような目で見ているんだが――
理由がさっぱりわからん。
「えっと、マイン様。 追放とはいったい……」
「とぼけないで! 聖者候補たちから聞きました!」
「聞いた? 何を聞いたのです?」
「あなたが聖者候補という立場を利用し、聖女候補たちを食い物にしていると!」
「……はっ!?」
まったく身に覚えがないんだが!?
マイン様は視線を聖女たちに移す。
「彼女たちにもきちんと話を聞きました。間違いなく、あなたに純潔を捧げたと! そうですね!?」
「その通りです!」
聖女候補たちは一斉に合唱する。
待て待て待て。なにを言ってる。
「な、何かの間違いです! 俺はそんなことはしてないです!」
物心つく頃から教会に引き取られ、十七歳になるまで、ひたすら祈祷だけをしてきた人間だ。
正直、その手の経験なんてまったくない。
むしろ、そういう事をやっているのは他の聖者候補たちだったような。
(そういえば、ここにいる聖者候補と聖女候補たちって皆そういう関係だったような……)
いやーな予感がするな。
「マイン様。その噂は、誰から聞いたのです?」
「あなた以外の聖者候補たち全員です!」
「……全員? 他の聖者候補たちが、全員そう言ったのですか?」
「そうです!」
なるほどな。俺以外の聖者候補たちが揃ってですか。
マイン様から視線を動かすと、聖者候補たちがニヤニヤ笑みを浮かべている。
なるほどな。そういうことか。
彼たちは俺を嵌めたのだ。
(……そうまでして聖者になりたいのか)
この世界には、全知全能の神ザウスの力を授かった特別な子供が産まれる。
それが聖者候補――俺たちのことだ。
候補たちは世界中から探し出され、この王都にある教会に集められる。そして、18歳の誕生日にもっとも力が強かった者が聖者や聖女になれるのだ。
聖者に選ばれた者は、王族に名を連ねて好きな事ができる。妻を何人持つのもよし、湯水のようにお金を使ってもよし、贅沢三昧の日々が送れる。
ほとんどの聖者候補や聖女候補たちはそれが目的できている。
……そして、俺がいま追い込まれている原因もそれだ。
俺は聖者候補の中でも特に魔力を持っているらしい。だから、十七歳の誕生日に聖者として、仮契約を結んだ。自分ではあまり自覚がないが……。
十八歳の誕生日までに他の候補たちが俺よりも強い魔力を扱えるようにならなければ、俺が聖者になる予定だった。
そんな俺はあいつらにとって邪魔者でしかないだろう。
俺を排除するために、あいつらの誰かがヘレナ様に悪評を言ったに違いない。
まったく、子供かあいつらは……
……はぁ
俺はため息を吐く。
「あなたのような下品な方がいてはこの教会……いや、私の王家の品位に関わります。今すぐ荷物をまとめて出ていきない!」
あまりの言葉に呆然としてしまう。
「ま、待ってください! 俺がいないとこの王都を守っている祈りが足りなくなる!」
聖者候補たちは、この地に眠る魔王を鎮めるために毎日祈りを捧げている。
それが不足すると魔王が復活し、この世界に五つの災いを齎らすとされている。
その中で、聖者候補のチャールズが俺の言葉を鼻で笑って言った。
「ふん、聖者候補が一人いなくなったところでなにが起きるわけがないだろう」
いや、起きるんだが…
というのも、俺は毎日他の聖者候補たちよりも長い時間祈りをしている。俺が抜ければ国が滅びますよ。
それは自覚してる……よな?
他の聖者候補たちは口を揃えて言う。
「チャールズ殿のおっしゃる通りだ!」
「お前みたいな悪男が一人いなくなった所でなんの問題もない」
「マイン様、私たちだけの力で十分です! 聖者に本当に相応しいのは誰かお考えください」
あっ、ダメだ。
どう言っても俺を悪者に仕立て上げたいらしい。
「マイン様、どうかお考え直してください! 祈りが足りないければ国が滅びます!」
「黙りなさい! あなたはもう聖者候補ではないのです」
「衛兵! この人を摘み出しなさい!」
「「はっ!」」
衛兵たちは俺の腕を掴み、有無を言わせず協会の出口に連れて行く。
そして俺は荷物と共に放り出され、教会を追放されたのだ。