第五話 時限爆弾
「เหจวเขขจาลมชา่จบอเจ·····」
亜樹達を神社の中へ案内した若いお坊さんが、お経を唱えながら白い紙を束ねた棒を振り、ゆっくりと左右へ体を揺らす。
その神聖な姿に、四人はここへ来た理由などすっかり忘れて見惚れる。
◇◇◇
「まぁ、こんなもんやろ」
「うん。バッチシ」
四人を見た老坊主が、そう言って親指を立てる。
「祓えたんだですか·····?」
「いや、無理や」
「「え?」」
若い坊主の言葉に、四人の動きが固まる。
自分達に付いた悪霊(?)を祓うためにここへ来たのに、あっさりと無理と言われてしまった。
「お前さんらを追ってるバケモンはな、半端ねぇぞ」
「執念深い」
若い坊主の言葉を引き取って、老坊主が言った。
「そして狡賢い、現時点で祓うのは不可能だ。」
「君達にかけられたのはマーキング·····いわば〝目印〟だ。本体はもっと別の場所にいる」
「だから、その〝目印〟に細工をした。」
老坊主は四人を指さして言った。
「その目印の機能の発動を二十年後にズラした」
◇◇◇
「·····ッッ!!はぁ、はぁ·····」
唐突に意識が浮上して、亜樹は鏡の中の自分と向かい合った。思い出したのだ···何もかも。ラジオも、神社も。
居酒屋のトイレの薄暗い洗面鏡に写った、自分の目を見つめる。
なぜ忘れていた·····?
そして·····何故今思い出した?
ともかくこうしてはいられない。三人に知らせないと。
、、、三人??
三人だよ、晃と鈴木と龍太郎だ。
待てよ·····翔也はどうした?
店に入る時は一緒にいた、昔の思い出話も一緒にして·····。そこから·····俺達が盛り上がっている時に翔也は·····。
いない────どこで消えた?どこだ?
いや、確認した方が早い。
思考と共にだんだん下向きになっていた視線を持ち上げて、座敷へ戻ろうとした瞬間、体が動かなくなる。
ゆっくりと、鏡の中の自分と睨み合う。
なんだこれ·····金縛り??
鏡の中の自分の目玉が、ギョロリと回った。
口が付け根から引き裂かれて、広がっていく。二本の犬歯は大きく異形の牙へと変貌を遂げ、涎に光る。
「な、んだよ·····なんだよっ!!」
年甲斐も忘れて、慌てて自分の口元を確かめるも、いつもと変わった様子はない。どうやら自分の顔が実際に異形に変わっている訳では無いようだ。
じゃぁなんだよ、幻覚か?酔い過ぎた?
それとも·····。
鏡の中で、耳まで裂けた口の中で二度、三度、これまた明らかに人間のものでは無い舌を遊ばせた後、その〝怪物〟は言葉を発した。
「ミ ツ ケ タ」