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是夕  作者: 鰹会
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第四話 祐瑪蒲一家変死事件



「木城君は、家の都合で転学という事になりました。·····突然の事で残念ですが、────」


 亜樹は学習机に頬杖をついて、「至極無念」と言った顔で話す担任教師を見詰めていた。


『嘘だ。』


「それと、しばらくの間は、密集した集団下校を心掛けること。先生達も見守りにつくが、不審者の目撃情報があるからな。」


付け加えられた言葉に、常に刺激を好む小学生達はざわめき、口々に好き勝手な事を言い始めた。


 いつもならば、教師の話に適当な憶測を投げかける亜樹だが、今日はただ静かに前を向いて追い詰められた顔をするだけだった。


それは亜樹だけでない。

晃も、鈴木も、翔也も、いつもニヤけた笑みを絶やさない龍太郎も─────、怒りと不安と欺瞞の表情のまま、心の中で叫んだ。



『『『嘘だ!』』』



木城は転校なんてしていない。もしそうなら、俺達が知らないはずがない。


 恐らく·····、恐らく木城は─────、



 『本日未明、市内で居酒屋を営む木城さん一家(父 母 息子)三人が、遺体として発見されました。祐瑪蒲(ゆめうら)市警は、殺人事件の可能性が高いとし─────』



·····。決まりだ。


 木城は死んだ。



「殺されたんだ。」


いつも集まる公園で、亜樹は暗い声で言う。


「で、でも、まさか·····」


「誰に?」


 わなわなと体を震わせる鈴木を無視して、晃が聞いた。


「お前ら、心当たりでもあるのか?」


亜樹と龍太郎を見て、晃が怪訝げに続ける。



···。


 「ラジオだ。」


重苦しい沈黙の後、ボソリと龍太郎が呟いた。


「·····ラジオ?」





◇◇◇


 公園から裏山に場所を移し、建設中で屋根のない秘密基地の床に胡座をかく。

床には一昨日の雨の湿り気が多分に残っていたが、誰も気にしなかった。


「·····いくぞ?」


「ん·····」


 全員に合図をした龍太郎は、一瞬、躊躇いの色を見せてから、ラジオのスイッチをひねった──。


 〝ザザザ·····〟


不気味な静寂の中に、ささくれたラジオのノイズが流れ出す。


 「何も聞こえな·····ぇっ!?」


鈴木の疑念の声をさえぎって、突然、ラジオから音楽が流れ始めた。


 その古く霞んだ音色に合わせて、感情のない女性の声が、歌う。



〝於朝倉山上有鬼 着大笠臨視喪儀 衆皆嗟怪··········〟


古文のようであり、歌舞伎のようだと亜樹は思った。


〝その名、ぜ─────ザザザ、ザザ·····〟


「ぜ·····なんだよ?」


 晃がラジオに向かって、茶化すように尋ねかえす。

その強そうな態度に、亜樹と鈴木は笑い、ホッとした。


 「終わりじゃない。」


龍太郎が一人、真顔で呟く。

その目は、ラジオを透かして地面を見詰めていた。


「木城は、この後に脅迫文が来たって言っていた。」


 「脅迫文ってお前·····」


 木城の怯えた顔を浮かべながら、龍太郎は無言のまま待っていた。···塾でいない翔也と、いなくなった木城。二人居なくなっただけなのに、恐ろしい程に寂しい。


その静寂の中へ、音質の悪いお囃子の音がぶつかってきた。


〝オ前、ら、〟


酷く音痴だ。

まるで、寄せ集めた音の中から、使いたい部分を切って継ぎ接ぎしたような·····。


〝オ前、ら、ワ、三日、ゴニ·····〟


 〝 シ ヌ 〟




 鳥肌が、全身を駆け抜ける。

龍太郎がゴクリと唾を飲む。晃はカッと目を見開いて、鈴木は見たことも無いくらい真っ青になって震えている。


「嘘だろ···?」


晃が掠れた声で呻く。


 「じゃぁ木城は、このラジオに·····呪い殺されたって言うのか?」






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