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是夕  作者: 鰹会
2/6

第二話 宴の席で



 商店街を抜け、人通りのある住宅街をひとしきり進んだ所に、こじんまりとした居酒屋はあった。


 晃が、横開きの扉をガラガラと開けて店に入る。鈴木、俺、翔也とそれに続く。


いらっしゃいませー、という挨拶と共に、飲食店特有の喧騒がワっと身を包む。

 外装からは分からなかったが、中はそれなりに広いようだ。


 案内について、店の奥へ進む。


どうやら晃は座敷席を予約した様だ····。



 襖を開けて敷居を上がると、先に座っていた一人の男が立ち上がる。


 「久しぶりだな、お前ら」


 驚きの表情を多分に混ぜて、それでも、とても嬉しそうな微笑みを浮かべた男····───、荒木あらき 龍太郎りゅうたろう が皆に座布団を勧めた。



 「おぅ亜樹ぃー!久しぶりじゃねぇか!」


「おう」


 4人の仲間の内、俺と龍太郎は特に仲が良かった。家が隣だったし、何より気が合った。

 目付きの悪い天パの男····。輪郭は多少崩れてはいるが、その顔は驚く程当時の面影を残していた。


 自分が思っているよりも、人というのは変わらないものなのかもしれない····そんなことを考えながら、熱いおしぼりで手を包む。



 「元気だったか?」


 龍太郎の言葉に頷く。


「まぁまぁってとこかな、可もなく不可もなく····普通のサラリーマンだからな」


 「おいおい、宇宙飛行士になるんじゃなかったのか?」


 破顔して茶化した龍太郎に、思わず唸る。

宇宙飛行士····そういえばそんな夢を持っていた頃もあった────気がする。



 「生ビールでいいよな?」


やがて酒が届き、皆が枝豆を齧りだしたころ、話は盛り上がっていった。



 小学校の先生を落とし穴に落として廊下に立たされた事、よく隣町まで遊びに行ったこと、皆で野良犬と戦ったこと、肝試しで鈴木が気絶した事·····


 もう長いこと忘れていたエピソード達が、ビックリするほど鮮やかに脳裏に蘇ってくる。



 「覚えてる?いつも空き地で酒呑んでたおっさん····急にキレてチャイナに帰れ、って叫び出す奴」


 「!あれか!土日チャイナジジィ!昔、皆で水鉄砲で水掛けた奴だ!」


 「そうそれ!それでさ、晃だけ逃げ遅れて···」


「散々ひっぱたかれてビール瓶で殴られかけたとこを俺が助けたんだよな」


 ビールジョッキを片手に、胸を張る翔也に、晃が口をすぼめて返す。


 「でもお前さぁ、その後なんかある度に〝あの時助けてやったろ?〟、って言いまくってよぉ····」


 「え?言ってた?記憶にないなぁ····」



 ちゃっかり頼んでいたのか、日本酒を猪口に注ぎながら、翔也が満面の笑みで答える。



 「そういやさ····」


「ん?」


 龍太郎が、俺に向かって問いかける───、



 「覚えてるか?木城きしろの事····」


「──····」


 座敷の間が静まる───。晃達にも聞こえていた様で、三人も呆気に取られた顔をしている。



 「なんで忘れてたんだろう·····」


 我に返り、グラスを机に置いた晃が、力なく呟く。

確かにそうだ····もう会うことのできない仲間の一人だった····。



「木城·····木城 悠太ゆうた


確かめるような翔也の呟きが、居酒屋の背景音にかき消される。



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