あれってプロポーズですか
大久保さんが去った公園にはうちと陽君以外の姿は見えない。大きな通りからは少し入った夜の公園は寂しいくらい静かだ。
「ねえ、兄さん、そろそろその姿やめてくれへん。いつまでも陽君の姿でいられるの嫌なんやけど」
「夜見さん何言ってるの? 俺は本物だよ……」
ジト目で陽君の方を見て言ったら陽君は首を傾げて、人差し指で自分を差しながらフリーズしている。
えっ⁉ この陽君は兄さんが化けてる姿やないの‼ だ、だって、大久保さんのこと名前で呼んではるし、いつもより優しく柔らかい感じで話して全然普段の陽君とちゃうのに。
「それはだね、美月――」
陽君と大久保さんが座っていたベンチの後ろの大きな木の陰からぬっと長身の兄さんが現れた。そこはさっきまでうちが隠れとった場所のすぐ近くだ。
「僕が陽君にどんなふうに大久保さんと話したらいいか事前にレクチャーしていたからだよ。大久保さんの話を優しく受け入れながら聴いてあげて、少しずつ彼女のストレスを和らげていこうって作戦。カウンセリングみたいな感じかな。でも、もし、放課後の時みたいにまたキスとかされても困るからそんな雰囲気が出たら頭を撫でるようにして押さえて、それ以上近づかせないようにって話していたんだ」
じゃあ、あの頭を撫でようとしたポーズはお互いに目が合うて、もしかして大久保さんからキスとかを仕掛けられるかもしれへんと思うて、それを押さえようとしたタイミングやったの。
あぁぁぁ、完全に兄さんやと思うてた。大久保さんとぶつかった時に兄さんの前やったら恥のかき捨てやと思うてあんなこと言うたのに。お慕いしていますとか寄り添うて行きたいとかなんて告白レベルちゃうプロポーズレベルや。
あかん、あれ全部陽君に聞かれてる。どないしよ恥ずかしいなんてもんやない。
そのことに気付くと一気に身体が熱くなってきた。隣にいる陽君に見られるのも恥ずかしい。
「夜見さんどうしたの? 急に朱くなって。顔も手で隠したりして」
「それはね陽君、さっき美月が言っていtヴぇぇ」
「兄さん、そろそろお口チャックしよか。陽君、もう遅いからはよ帰ろ」
これ以上は言わせないために兄さんの鳩尾に一発入れておいた。
「う、うん。夜見さんって意外と武闘派なんだんね……」
「そないなことないよ。ちょっと護身術習っていたぐらいやから」
陽君の顔がいつもよりも青白い気がするのは月明りのせいだろうか。
◆
天明さんとは公園からの帰り道で別れて、今は俺と夜見さんの二人で歩いているが俺たちの間に会話はない。
大久保さんの方の問題は一旦の解決を迎えたが夜見さんの方はこれからだ。
まずは夜見さんに黙って大久保さんと二人きりで会ったことを謝らなければいけない。
そして、放課後に何を話していたのか。あのキスは俺の本意ではないこと。これらのことを嘘をつかずちゃんと話さないといけない。
でも、正直に話したところで許してくれるだろうか。先ほどの天明さんへの一撃くらいで済むならいいだろう。下手をすれば大久保さんが言ったみたいにスカイツリーからのひもなしバンジーの刑になるかもしれない。
家に帰った時間が遅いこともあってその日は簡単にお茶漬けで済ましたが、空気の重さからお茶漬けの塩気さえ感じなかった。
黙っていてもいけないと思って、ご飯の後に夜見さんに何があったのか順を追って話した。
夜見さんは終始うんうんとだけ頷きながら話を聞いて、特に俺を責めたり怒ったりすることもなかったが、笑顔で許してくれることもなかった。
話が終わると今日は先にお風呂に入ると言って浴室に行ってしまい、お風呂が終わって出てくるとちょっと疲れたから先にベッドに入っていると言って寝室に行ってしまった。
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次回が最終回になります。




