戦う夜見さん【後編】【夜見さん視点】
「大久保さん、どうしてうちが陽君の弱みを握ってる思う?」
「そんなの当り前じゃない。みんなの前で交際宣言したら陽は嫌がる性格なのにあの時、陽が嫌がる素振りをしなかったのは事前に陽を脅していたからでしょ」
「あの時のことちゃんと覚えてはる? うちが陽君と付き合ってるって言う前に別の男子から時間を作ってくれってみんなの前で迫られてたさかい、それを陽君が助けてくれはった。でも、相手が引き下がらんようやから、ああやって付き合ってる言うたんよ。せやから、陽君の方からみんなの前に突発的に出てうちを助けてくれたんやから事前に脅すなんてことはできひんて」
「そ、そうなの陽?」
「あの時は夜見さんが困っていたからね。一応彼氏だから助けに行かないとと思ってさ。でも、助けに行けば嫌でも目立つからそれは覚悟の上だし、直ぐに相手が引いてくれなかったから夜見さんが付き合っているって言ってくれて逆に助かったよ」
やっぱり、あん時は陽君かなり勇気出してくれてたんや。まだ設定上彼氏だったから助けに来てくれへんかもって思っていたからほんまに嬉しかった。
「で、でも、放課後に聞いた時は陽が嘘をつくときの癖も出てたし……」
「それは……、夜見さんが告白の時に不退転の覚悟で告白したことを思い出したからその時の気迫を思い出しちゃってね。そのことをちゃんと説明しようと思ったら、夕が急にキスしてきたから……」
途中から言葉が続かなくなった陽君が横目でうちの方を見たのでちょっと意地悪でプイっと横を向いた。一応、陽君から望んでキスをしたわけではないことはわかるが、まだそのことを許したわけではない。
「そ、そんな、だけど、夜見さんは私が浮気するように別の男子を差し向けるようなことをする子なのよ」
「大久保さん、なんでうちがそないなことするの。うちにとっては陽君が幸せであることが一番大事。だから、陽君と大久保さんが付き合ったって知った時は辛かったけど、これが陽君にとって一番だと思うとった。それなのに大久保さんは別の人に心移りしはった。うちはそんな相手を送り込んで浮気なんかさせて陽君が悲しむ顔なんか見たない」
「そんな綺麗ごと言ったって、結果として、夜見さんは私がちょっと陽から目を離した隙に直ぐに横から奪っていったんじゃ――」
「なら、なんで目を離しはった。そないに大事な人ならなんで目を離すようなことしはった。うちは絶対に離さん。うちはずっと陽君のこと好きやったけどなかなかその隣にいることが出来へんかった。大久保さんは陽君の方から隣に居てって言われたのになんで自分からそこを離れはった」
大久保さんは強く結んだ拳をわなわなと震わせながら涙目になって続ける。
「夜見さん、あなたはなんなのずっと陽のこと好きなのに遠目から見ていたかと思ったら、私がちょっと別に興味を持ったらすぐに陽の隣りを取りにくるし、付き合って数日で一緒に昼ごはん食べたり、手を繋いで学校に来たり、こっちのアドバイスを受入れさせたり」
「うちはただ――」
一度ちらりと陽君の方を見るとその顔には「許嫁って言っちゃダメ」と書かれているようだった。たしかに許嫁なんてことはここで言わんでええ。うちが陽君のことをどう思っているかだけを伝えればそれでええ話や。
「うちはただ陽君のことをお慕いしているだけです」
「な、なにを言っているの。私達まだ高校生だよ。いろんな人と恋愛して引っ付いたり離れたり、告白して振られてがあって、好きの延長で付き合ったりするもんじゃないの」
「確かにそないな考えもあると思います。でも、うちは自分の気持ちを信じて進んできて、悲しければ一緒に泣いて慰めて、危ないことがあればお互いに助け合って、ちょっと嫉妬することがあってもうまく解消して、時にはちょっと強引に距離を縮めたりしながら、ずっと一人の人と寄り添うていきたいんです」
大久保さんは結んでいた手を緩めると、はぁー、と大きなため息をついてから陽君の方を見た。
「ねえ、陽、本当にいいの。夜見さんは陽のことを恋人っていうよりも許嫁ってレベルで好きみたいだけど。夜見さんと付き合っている時に浮気なんてしたらスカイツリーの展望台からひもなしバンジーの刑に処されるわよ」
許嫁って言葉にドキリとしながらも陽君の方を見ると陽君もうちの方を見てニッと笑った。
「俺はオタクで陰キャで理屈っぽいから普通の恋人って感じよりも許嫁って方がいいのかもしれない。浮気はしないよ。こんなに俺のことを慕ってくれるのは夜見さんくらいだから」
ならよかったと大久保さんは言うと顔を伏したままくるっと公園の出口の方に向きを変えてた。
「そろそろ、帰らないとこんな時間だからあんまり長いと親が心配するし。……夜見さん、今度、陽を堕としたテク教えてね。あと、夜見さんが陽から目を離すことがあったら私直ぐに取りにいくから」
大久保さんはもう一度大きくため息をつくとそのまま出口の方へ歩いて行った。
うちも陽君も嗚咽の混じっている大久保さんの背中を最後まで見つめていた。
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