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困難を分割

『ごめんなさい。放課後に陽君と大久保さんが話しているのを見てしまいました。気持ちが整理できないので、知合いのところにいます。心配をかけてすいません。これから帰ります』


 誰の所ということを書いていないのは、俺の知らない人の所か天明さんの言うとおり来て欲しくないからだろう。


 天明さんにもこのメッセージを見せて安心してもらった。


「美月がこう言っているし、これから帰ると言っているのだから心配しなくてもいいと思うよ」


「そうですね。とりあえずは身の危険もなさそうなので安心しました。あとは、大久保さんの方ですね。今日の様子だと今後も暴走するんじゃないかなって気がしてならないです」


 今日の大久保さんの様子はどう見てもおかしかった。付き合っていた時はあんな感じでなかったんだけど……。


「陽君の話を聞いた感じだと彼女も許嫁の御利益の被害者ようなものなのかもしれないね。自分が振った相手がその日にうちに別の子と付き合い始めて、自分にはしてくれなかったようなことを次々と新しい彼女にしているのを目の前で見せつけられるなんて耐え難いものがあるかも」


「でも、大久保さんは俺と付き合っている時に浮気をしていましたし、その相手と上手くいっているならそれでいい……、いや、上手くいっていないのか……」


「おそらくそうだろうね。彼女は陽君と付き合っている時に浮気をしたことを悪いとは思っていた。だから、浮気相手とも手を繋いだりすらしなかった。彼女なりに葛藤があったんだろうね。でも、振った元カレはすぐに彼女を作ってすごく楽しそうにしているのに自分は上手くいかない。または、振ってからやっぱり陽君の方が素敵だと思うようになった。隣の芝生は青いって感じかな。そういうことが重なって彼女は精神的に追い詰められていたのかもしれないね。そして、陽君と付き合っている時に現れた浮気相手は美月が君と別れるように差し向けた罠だと思うようになった」


 大久保さんから送られてきたスマホのメッセージは彼女からのSOSだったのかもしれない。俺はそれを見ることもなくスルーしたから結果的に今日の出来事に繋がってしまったのだろう。


「天明さん、俺は大久保さんにどうすればよかったんでしょう」


「わからないね。どうすればよかったかなんて。今回の場合どんなifルートを進んでも誰かが辛い思いをすることになるんじゃないのかな。時として最善の一手を打ち続けたとしても上手くいかないということはあるからね。それに浮気相手をハニートラップだと思って精神的に追い詰められているとなると普通に話してもおそらくわかってくれないだろう」


 初めて天明さんが寂しそうな顔をしているのを見た。


 努力すれば、一番いい方法を取れば世の中のことが全て上手くいくわけじゃないなんてことはもうわかっている年齢だ。でも、自分の身近でそんなことが起きた時に自分がどうすることも出来ないのはやはり無力感を感じる。


「しかし、陽君はいつまでもしけた顔でいるわけにはいかないよ。両方の問題をどうにかしないといけない。」


 一瞬にしていつもの陽気な天明さんに戻る。この切り替えの早さをちょっと見習いたい。


「でも、両方をいっぺんに片づけるのはちょっと大変だと思うから、美月のことについては陽君にすべて任せるよ。こちらはきっと僕の出る幕はないし、何より陽君が解決しないといけないと思うからさ。その代わり、大久保さんの方は僕が何とかしよう」


 相変わらず発言がイケメンである。どこまで期待に応えられるかはわからないけど、夜見さんとのことばかりは俺が何としないといけない。でも、天明さんは大久保さんと面識がないけれど、どうやって大久保さんの方を何とかする気だろう。


「そうだね。例えば僕が陽君の姿に化けて、その姿で大久保さんに話をするのはどうだろう。まずは、大久保さんに連絡を取って直接話せるかだね。この時間だけどうまく呼び出せるかな」


 天明さんに促されて、大久保さんにこれから話がしたいとメッセージを送った。するとすぐに返事が返ってきたので段取りは簡単に出来た。場所は大久保さんの家のすぐ近くの公園で時間は三十分後だ。


「それでは、この夜見天明が陽君の代わりに話をまとめてこよう。美月にもよろしくね」


 天明さんはウインクをしながら手を振って部屋から出て行った。


 迂闊にもちょっと惚れるかもと思ってしまった。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただけると活力になりますのでよろしくお願いします




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