夜見さんに会いたい
一度、昇降口に行って夜見さんの靴を確かめると上靴しかないので既に校舎の外に出ているのだろう。そこからいつもの通学路を通ってうちまで帰ったけど夜見さんの姿はなく、うちに帰った様子もない。
スマホを確認するも特に夜見さんからの連絡はない。
電話を掛けるが呼び出し音はするけど応答はない。
連絡をくれるようにとメッセージを送るが既読はつかない。
このままじっとうちの中で待っているのは不安でしかたないので当てはないが夜見さんを探しに行くことにした。
近くの公園やカフェ、繁華街など手当たり次第に夜見さんを探した。
気が付くと夕暮れ時を過ぎて街灯が灯りはじめる時間になっていた。スマホも確認するも返信も既読もない。
一縷の望みを抱いて一度家に帰ると室内は真っ暗なままだった。一体夜見さんはどこに行ってしまったのだろう。いつもなら夕食を一緒に食べ始める時間であるが今日は広い部屋に一人だ。誰かの家にお邪魔しているのならいいけど、歌舞伎町とかで家出した子みたいになって、いかがわしい人に連れられていないだろうか。
どうしても思考がマイナスの方向に進んでしまう。
ダイニングの椅子に座り夜見さんが行きそうなところ考える。そうは言っても夜見さんの交友関係を詳しく知っているわけではないので考えられる先は限られる。
暮方さんのところだろうか。暮方さんのところなら俺と大久保さんの様子を聞いた暮方さんから怒りの呼び出しがあってもおかしくない。
他の当てはあるだろうか。俺が知っているのはあと一人だけ……。
昨日登録したばかりの連絡先をタップして電話を掛ける。こんなことになって頼るのが夜見さんの家族だなんて……、どう説明すればいいのだろう。いくらあの人の良さそうな天明さんでもめちゃくちゃ怒るかもしれない。でも、今はいち早く夜見さんを見つけたいし会いたいと思った。
連絡をしてから三十分ほどで天明さんは我が家へやって来た。都内に住んでいるとは聞いていたけどけっこう近いところなのかもしれない。仕事の帰りなのか天明さんは今日も三つ揃いのスーツを着こなしている。
「こんばんはって、陽君大丈夫? かなり疲れた顔してるけど」
玄関に入るなり昨日と変わらない軽快な声だ。
大丈夫かと言われれば大丈夫ではない。夜見さんとは連絡が取れず、彼女を探し回って疲労もそれなりにある。
とりあえず、ダイニングテーブルに着いてもらい、大久保さんと俺が旧校舎裏で今日話したこと。それを夜見さんが見ていたこと。大久保さんが元カノであることも正直に話した。あと、五年前のことについて夜見さんから聞いたことも伝えた。
「なるほどね。その様子を見ていたと思われる美月は現在行方不明ってわけか。それは困ったものだね」
天明さんの口ぶりはそこまで困った様子も俺に対する怒りとかも感じられない。どんなだけこの人は出来た人なのだろうか。それとも行方不明については過去にも家出とかしたことがあるのだろうか。
「本当にすいません。俺がしっかりしていないというか、甲斐性がないというか、いろいろ迂闊なところがあって」
「まあ、なんというか、みんなが初めての彼女・彼氏っていろいろ拗らすからね。美月にとって陽君は初恋の人で初めての彼氏、陽君と大久保さんはそれぞれが初彼氏彼女だからね。全員が拗らせてるね。でも、何とかこの問題を解決しないとね」
「天明さんは美月さんが行きそうな場所の心当たりってありませんか」
もう時間も遅いしこれ以上当てもなく探すのは難しい。少しでも可能性が高いところを探したい。
「心当たりが全くないわけじゃないけど、そこに美月がいたとして陽君はどうするんだい?」
「それはもちろん、誤解を解くっていうか、きっと美月さんは俺と大久保さんのことを誤解していると思うからちゃんと説明しないといけないじゃないですか」
「どうだろうね。ここに帰ってこないってことはそんな説明も聞きたくないんじゃないのかな。今はいくら陽君が説明して弁明したところで、美月がそれを理解して受入れられるかな」
たしかに頭に血が上ったりしている時には何を話してもいい結果にはならないだろう。むしろ、顔も見たくないなどと言われてしまうかもしれない。
「ただ、美月さんが無事かどうかだけは知りたいです。深夜まで繁華街を制服姿でうろうろしているのは危険ですから」
ちょうどその時、俺のスマホが振動してメッセージの着信を伝えた。画面を見ると夜見さんからで急いで本文を開いた。
『ごめんなさい。放課後に陽君と大久保さんが話しているのを見てしまいました。気持ちが整理できなくて、知合いのところにいます。心配をかけてすいません。これから帰ります』
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