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手繋ぎ登校

「おはよう、夜見さん」


 目を覚ましてリビングに向かうといつものとおり俺より先に起きた夜見さんがお弁当や朝食の用意をしている。


「おはようさんです」


 彼女と一緒に暮らすようになってから特に変わらないいつもと同じ朝だ。


 一応、誤解があったらいけないのだが、俺と夜見さんは清いお付合いをしている。

 でも、清いお付合いの線引きというのは人それぞれに違うと思う。手を繋ぐ、ハグする、キスをするなどどこで線を引くかという問題はあると思うが、俺の中ではキスまでは清いお付合いと思っている。つまりはAまでということだ。


 もしかしたら、昨夜のかなり盛り上がっている俺たちの様子から何やら不純な想像をしているかもしれないが、俺の大阪城や小田原城にも引けを取らないくらい強固に守られている理性は健在である。


 昨日と今日で何が変わるかと言えば、昨夜、お互いにきちんと好きという気持ちを伝えたことで〝恋人設定〟がなくなり〝恋人〟として通常営業を始めるということぐらいだ。


 えっ⁉ まだその設定いきてたのと思うかもしれないが、〝恋人設定〟終了のお知らせが出てない以上は継続である。


 まあ、設定が取れたところで特に変わらないかもしれないけどね。

 夜見さんの美味しい朝食をいただき、身支度を済ませると登校時間だ。


 今日から登校時は手を繋ぐことになった。というより、昨夜、俺がそう言ってしまった手前、夜見さんから手を差し伸べられた時に断る理由がない。


 ただ、これが思っていた以上に恥ずかしい。幼稚園児や保育園児のお散歩ではない。こちらは高校生の登校だ。手を繋いで登校すれば他の生徒の注目は今まで以上で、収まりかけていた俺への怨みや妬みを存分に含んだ視線が次々に飛んでくる。


 一方、夜見さんはそんな事お構いなしなのか気分がお花畑なのかわからないが、とても嬉しそうに歩いている。この顔を見れるならそんな視線が飛んできても悪い気はしない。


「あれれ、美月どうしたの? 手を繋いで登校するなんて何かあったの?」


 教室に一歩足を踏み入れると同時に暮方さんが通る声で話しながら近づいて来た。

 そして、暮方さんの声をキャッチしたクラスメイトがピクッと反応して、こちらに視線を向ける。


 みんな、そんなにこっち見なくてもいいじゃん。今までだって付き合って(設定として)いたんだから手ぐらい繋いだっておかしくないだろ。


「それに、東雲君は髪がさっぱりしたね。うんうん、やっぱり私の思った通り今の感じの方がずっといいよ」


 朝から元気いっぱい、フルスロットルというような暮方さんに勢いに圧倒されてしまう。


「茜もそう思うやろ。やっぱり陽君はこれぐらいの長さの方がええよ」


「美月、いつから東雲君のこと陽君なんて呼ぶようになったの? 急に手繋ぎ登校に君付け、東雲君はイメチェン、これは何かありましたな」


 今度は先程までとは違い俺たちにしか聞こえない声で話すとそのまま夜見さんの腕持って連れて行ってしまった。おそらく、小さな声で話したのは暮方さんなりの配慮だと思う。


 残された俺は自分の席へと向かうのだが、そこにはすでに勝又が冷めた目でこちらを見ながら待ち構えている。


 あー、これ、朝から面倒なことになりそう。


「おはよう、勝又」

「ああ、おはよう。……陽、朝から見せつけてくれるじゃないか。髪型もさわやかな感じにして、それ夜見さんチョイスの髪型だろ。なんだか急に二人の距離が縮まってないか?」


 勝又はいつもより少し低い声で冷静にあまり抑揚なく話す。


 そんなに手を繋いで登校している姿というものはショックがでかいのだろうか。そして、一度、メガネをくいっと上げてさらに続ける。


「それに、夜見さんの顔見たか? 昨日までとは違って嬉しさが溢れてるって感じだったぞ。なあ、お前さん、やっちまったんだろ。大人の階段昇っちまったんだろ」


 なるほど、俺と夜見さんの関係がそういうところまで進んだと思って、それがショックだったわけか。だが、その期待には応えられない。俺と夜見さんは決してそこまで進んだ関係ではない。


「本当か⁉ 本当にそうなんだな。俺は陽だけがどんどん先のステップへ進んでいくことを悲しく思っていたんだ。第一、俺と陽は一緒に手を繋ぎながら童貞を卒業するって誓いを立てたもんな」


 勝又はいつもの甲高い声に戻って、元気が出てきたようだが、俺はお前とそんな気持ちの悪い誓いを立てた覚えはないからな。一緒に手を繋いで童貞卒業ってどんなシチュエーションなんだよ。マラソン大会で一緒にゴールするのとはわけが違う。こんなこと夜見さんの前で言ったら春画のコレクションを全部燃やすぞ。


「ちょ、ちょっとした冗談だよ。もー、そうやってすぐにマジになるんだから。まあ、兎にも角にも陽と夜見さんが上手くいってくれれば、俺は暮方さんを近くで観察できるチャンスが増えるからいいんだけどさ」


 勝又にとって暮方さんの観察チャンスは本心だろう。一緒に昼飯を食べている時も平穏を装いながらも暮方さんをしっかりとウォッチしている。


 最近は昼食を俺と夜見さんに暮方さんと勝又を加えた四人で食べることがスタンダードになっていて、おそらく、今日もそうなるだろうから勝又にはその時間まで大人しく待っていて欲しいものだ。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただけると活力になりますのでよろしくお願いします。

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