好きは言えない
智慶高校に入学して、陽君と同じクラスになるかと期待していたけど、そこまで都合よく物事は運ばなかった。ただ、他のクラスの名簿を確認して彼の名前を見つけた時はほっとした。
もし、自分だけ合格していたらここまでの計画が無意味になってしまう。
クラスが違うというのは少しハンデになるかもしれないけど、今までのことを考えればなんてことはない。
陽君のいる教室の入り口から彼の姿を四年ぶりに見つけることが出来た。あの頃より背はだいぶ伸びている。髪型が大きく変わっていて、雰囲気も少し変わった気がするけど、彼であることは間違いなかった。
まずは、何か声を掛けて知り合い程度になろうと思って、休憩時間に廊下にいた彼に声を掛けようした。
でも、言葉が出てこない。
まるで喉に粘土でも詰められたかのようだ。
恥ずかしいとかではない。
頭では何を言うかわかっているはずなのに出てこない。
もし、声を掛けて迷惑そうな顔をされたらどないしよう。
陽君から拒まれるような顔をされればこれまでの日々が否定されるような気がしてな怖くてしかたがない。
結局その日は一言も話しかけることが出来なかった。
ならば、いっそのこと手紙とかで呼び出して告白する方がいいかもしれないと考えたけど、全く接点のない人からいきなり呼び出されて告白なんてされたら迷惑に思うのではないだろうか。
自分もそれまでほとんど関わりの無かった同級生から告白された時にかなり戸惑ってしまったので陽君もそうだろう。
今の自分は「好きです」どころか普通の会話すらできない。日常の会話の先にはきっと告白の言葉がある。その時に「好きです」を言ってしまったら最後、もう後には戻れないし、お断りをされたらすべてが終わってしまう。
それは嫌や。
この時は今はタイミングが悪いだけと自分に言い聞かせて、少しチャンスを待つことにした。
しかし、こうしてタイミングを見計らっていたことを三カ月もしないうちに再び大いに後悔することになった。
中学の時に許嫁のことを話していた友人から『例の許嫁コースを達成しそうな人の孫に好きな人ができたみたい。このまま付き合えば御利益は一時停止になるね』というメッセージが届いた。
小学校の時にあんなことになってしまったのは、自分も悪いが、お父さんも悪いと思っていた。今回は完全に自分が臆病風に吹かれて足踏みをしている間にこんなことになってしまった。
自分が積極的に行動しなかったから、早く気持ちを伝えなかったからこんなことになってしまった。
陽君に好きな人が出来てしまったのならもう今から自分がそこに割って入るのはあまりに難し過ぎる。
うちはこうして陽君との縁を二度も潰してしまった。
それから、うちは陽君に対して〝好き〟という言葉を怖がったり、言おうとしても喉に詰まるようになった。
それは許嫁として派遣されからも同じで彼に好きとは言えない。日常会話はなんとかなるが〝好き〟は無理だ。
せっかく、許嫁になったのに〝好き〟の一言を言ってしまったがために全てが壊れてしまう気がしてならい。
だから〝うちのこと好きですか?〟ではなく〝うちのこと嫌いですか?〟と聞いてしまう。
うちは好きな人に〝好き〟ということも伝えられなくなってしまった。
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