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デートに着ていく服は悩みます

 陽君と会える日までそわそわとした日が続いた。


 塾で勉強している時ぐらいは集中しようとしたけど、あまりできていなかったと思う。


 その様子はお母さんにも伝わったらしく調子でも悪いのと聞かれたりしたが、そこは別にとだけ答えた。思春期に入ってきた可愛げのない娘に見えたかもしれない。


 前日の夜からは当日に何を着て行くかについて服を並べながら考える。おしゃれに興味が無かったわけではないが、これまではお母さんと一緒に適当に選んでいたので、これならバッチリきまるというようなものはない。今ある中から一番マシな組み合わせを考えた結果、薄ピンクで花柄のオフショルダーのワンピースに黒いリボンのついた麦わら帽子を合わせることにした。


 当日の朝、このコーディネートで友達と遊んでくるとお母さんに告げると、何やら察知したらしく、普段なら特にお小遣いをくれたりすることもないのに、無駄遣いしないようにとお金を渡してくれた。ちょっと嬉しそうな表情をしているところを見ると、帰ってから何か聞かれるかもしれない。


 お父さんは土曜日だというのに朝から仕事関係で出ているということだ。相変わらず仕事熱心だと思う。


 外に出るとむわっとした空気が肺に入り込む。

 午後からだと暑すぎるかと思って午前中の待ち合わせにしたのだけれど、すでに外は暑く、セミの声がそれを助長する。


 待ち合わせ場所の四条大橋から見える鴨川の土手沿いは、まだ午前中ということもあって、カップルが等間隔で語り合っている様子はない。今まではあんなところで何を話すのだろうと思っていたが、今ならその気持ちがわかる気がする。


 ただ、自分と陽君は付合ってるわけではない。自分が一方的に好きだと思っているだけだ。


 そういえば、先日の電話の時はこちらより落ち着いている様子だった。もしかしたら、女の子を誘うことに慣れているのかもしれない。今まで考えてもいなかったことが浮かんでしまい気持ちが落ち込んでしまう。


 あかん、あかん、これから、陽君に会うのにうちは何考えてるんやろ。


「夜見さん、遅くなってごめん」


 うちの中に浮かんできた不安な気持ちを陽君の声が掻き消してくれた。


「まだ、待ち合わせの時間の十分以上前やし、うちも今来たところやさかい気にせんで」


 陽君は白と黒のボーダーのシャツに白の七分丈のズボンとショルダーバックというスタイルだった。


「……夜見さん、何というか、こないだとだいぶ雰囲気違うね」


 そう言いながら、陽君は斜め下の方に視線を落として、頭を掻いている。


 えっ⁉ 今日の服なんかおかしかったやろか? 先日はTシャツにジーンズというようなラフな服装だったけど……、今日は意識し過ぎてる感じが出ているのだろうか?


「ああ、変とか、そういう意味じゃなくて……、その……、と、とても可愛いと思います」


 言われた瞬間に温風のストーブを直接浴びたかのように顔が熱くなったのがわかった。


「お、おおきに」


 嬉しかったけどそれ以上の言葉を続けなかった。何を言ってもどんどん恥ずかしくなる気がしたし、今は陽君の「可愛いと思います」をそのまま噛みしめていたかった。


 ただ、その場に突っ立っていては不自然なので、とりあえず、最初の目的地の方へ足を進めることにする。向かう先は四条大橋を東に進んだ先の祇園さんこと八坂神社だ。


 うちからすると祇園さんは普通に近所の大きな神社という感じで特別新鮮な気持ちはない。電話でどこに行くかを話した時に水族館とかも候補に入れていたのだけど、そこだとお金もかかるし、何よりすごくデート感が出過ぎではないだろうかと思った。だから、うちが近くの名所を案内するという形にしてデート感を和らげることにしところだ。


 祇園さんを希望したのは陽君やけど、なんで祇園さんにしはったのやろ?


 祇園さんといえば、一番は厄除けやけど、縁結びも大国主社がある。


「じいさんに聞いたんだけど、八坂神社の本殿の下には青龍が住んでいるんだって。それで、青龍は四神のなかで東を表すから「太陽」とか「始まり」を表すらしいんだよね。俺の苗字も名前も両方とも夜明けや太陽の意味だから何となく親近感があってさ」


 陽君は思っているよりも勉強好きなのかもしれへん。だって、青龍の話は初めて聞いた。果たしてうちはガイドができるんやろか。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただけると活力になりますのでよろしくお願いします。

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