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京都迷宮案内Ⅱ

「あ、あの、よかったら、うちも付いて行ってええやろか? たぶんそこは八兵衛明神ほど道はややこしくないと思うけど、うちはどっちも行き方を知ってるさかい」


 なんでこんなん言うてるんやろう。普段なら絶対に言わへんのに。


 さっき会ったばかりの子と一緒に行動をともにするなんて普段の自分なら考えられない。魔がさしたと言えば悪いが、同級生とはちょっと違う彼に興味を持ったのだと思う。


 もちろん、両親から知らない大人について行かないように等という誰もが言われていることはうちも言われている。屁理屈を言えば、陽君は知らない大人ではなく、ほとんど知らない子供だ。


 仮に彼が悪い人でうちを誘拐しようとしても彼になら勝てる気がする。これでもちょっとは護身術的なものは教わっている。それにこれから向かう先は商店街の中を歩くので常に人の目がある。何かあればすぐに大きな声を出して助けを呼べばいい。


 陽君からの返事が返ってくる前から自分の言動についての脳内会議を急ピッチで進めていた。


「えっと、俺と一緒に行くのはいいけど、夜見さんは地元の人だからそんなに面白くないかもよ」


 たしかに錦天満宮は知っている。でも、彼と一緒に行くと今まで気づかなかった八兵衛明神を知ったように、錦天満宮でも初めて知ることがあるかもしれない。普段自分が見ている世界を別の視点で見ている彼と一緒なら、そこは初めて行った場所のように感じるかもしれない。

 そんなちょっとしたわくわくがあるかもと思った。


「それならいいけど、俺も道を知っている人が一緒の方が心強いかな」


 柳小路を抜けて左に曲がり突き当りまで進むと寺町通りの商店街で、今度はそこを右に曲がるとすぐに錦天満宮だ。


 京都で天満宮といえば北野天満宮であるが、この錦天満宮も菅原道真公を祀る天満宮の中でも由緒のある二十五社に選ばれているなんてことをお父さんから聞いたことがある。


 本殿で手を合わせて参拝を済ませると陽君は境内にある日之出稲荷神社に向かった。

「ここもお参りしはるの?」

「うん、稲荷神社を見ると何となくね。俺のじいさんはなんでかわからないけど近所の稲荷神社に毎日お参りしているんだよね。それも毎日油揚げまで持って行ってさ。俺も何度も一緒に行ったことがあるんだけど、どうしてそうしているかは教えてくれないんだよね。きっとそのうちいいことがあるかもって程度でさ」


 油揚げまで持参して毎日お参りするなんてなかなか信心深い人だ。なにか商売をしていて商売繁盛でも願っているのだろうか。


 錦天満宮を出て寺町通りを再び市役所方面に進んでいく。商店街は夏休み中ということもあってかそれなりに人通りがある。


「陽君はおじいさんの影響で神社とか好きなん?」


「うーん、神社が好きというよりも歴史が好きなのかな。きっかけは漫画とかゲームだと思うけどね」


「ゲームとかするんや。うちはあまりせえへんけど、兄さんはよくやってはるわ。今は受験生やさかい勉強ばかりやけど」


「高校受験?」


「ううん、大学受験。東京の大学に行きたい言うて頑張ってはる」


「俺は一人っ子だからあまりわからないけど、やっぱり気を使うよね」


「そうやね、今日も家におると気ぃ使うさかい出かけてきたとこ」


 二人で歩きながらそんななんてことはない世間話をした。


 うちは初めての人と話すのはそんなに得意ではないけれど、不思議とすらすら話せて会話が続いた。それは陽君の持っている雰囲気とか、こちらが話しやすいように会話を進めてくれたというところがあるかもしれない。


 でも、そんな時間はあっという間に過ぎて、目的地であるスマート珈琲に到着した。


 商店街の一角にある老舗の喫茶店でランチ時には行列ができることも珍しくない。今はランチ営業の終わった時間なので外から見るとちらほらと空席が見える。


「ここがスマート珈琲。帰り道はさっき来た道でほぼ一直線やから迷うこともないと思います。陽君と話せて面白かったです。それじゃあ、またね」


 ちょっと寂しい気もしたけど、これ以上うちが関わることは図々しいと思った。


 来た道を戻るべく、向きを変えて一歩踏み出したところで、肩を掴まれた。


「待って、お、お礼、せっかくここまで案内してくれたから、お礼に何か飲み物でもどう? 今日も結構暑いから喉乾いていない?」


 陽君は斜め下に視線を落とし、とても恥ずかしそうにしている。


「本当にええの? ここそないに安ないよ」


 またねと言いながら、何か声を掛けてくれないかと少し期待していた自分がいた。


 そして、声を掛けてもらったのにすぐにありがとうと言わなかった自分の素直じゃない感じが嫌だったけど、自分からぐいぐいいったら陽君に引かれるのではないかとも思っていた。


「飲み物ぐらいなら大丈夫。そ、それにもう少し夜見さんと話したいから……」


 顔をさっきよりも朱くして、終わりの方はぎりぎり聞き取れるくらいに声が小さくなっていた。陽君がいっぱいいっぱいで話しているのが伝わった。


「そ、それじゃあ、ご馳走になろかな。うちも陽君と話すの面白いし」


 自分の顔もきっと朱くなっているだろう。だって、顔の内側がさっきよりもずっと熱い。

 これはきっと夏の暑さのせいじゃないと思う。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただけると活力になりますのでよろしくお願いします。

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