夜見さんより重要なお知らせ
「あとでちょっと話したいことがあるさかい、お風呂から上がった後、今日は寝ないで待っててください」
夕食の片づけをしている時に夜見さんからそう言われて、ソファーに座りながら日本史のハンドブックを読んで待っているがほとんど内容が頭に入って来ない。
改まっていったい何の話だろう。やっぱり、襟巻の件だろうか。
俺はこれからも夜見さんをここから追い出したりしないって言ったけど、夜見さんはこれからもここで暮らしたいなんて言っていなかった。
今までは御利益を果たせずに出戻りになれば、襟巻にされるということでここから出て行くという選択肢はなかったが、それがないとわかった今なら出て行くことも可能である。
週末辺りに出て行くと言い出すかもしれない。正式には付合っていないので別れ話というわけではないがそれに近いものかもしれない。
何より、夜見さんは俺のこと好きだなんて言ったことはないのだ。夜見さんが優しくしてくれるから勘違いをして、浮かれてしまうこともあるがこれを忘れてはいけない。浮かれれば浮かれただけ別れた時のダメージは大きい。時々意識的に彼女への気持ちにブレーキをかけないとあとで痛い目に合うかもしれない。
「陽さんはいつもこの時間になると難しい顔してはるね」
お風呂が終わりドライヤーも済ませた夜見さんは紺色に白のラインが入ったパジャマ姿だ。丁寧にブローされたもふもふの尻尾は抱きしめれば夢見心地だろうなと思うけど、それは超えてはいけない一線のような気がして自重している。
お風呂上がりで喉乾いたでしょということで冷たいお茶を持って来てくれて、二人でごくりと喉を潤す。
「それで、さっき言っていた話って何ですか?」
この生活の終了が告げられるかもしれないと思うと無意識に畏まり敬語で聞いてしまった。
夜見さんはコップをローテブルに置くと、身体の上半身だけを俺の方に向けて口を開いた。
「襟巻の件はうちの勘違いってわかったやないですか。だから、今日のうちに話しておきたいことがあるんです」
やっぱり、そういうこのなのだ。まあ、こんなに可愛い女の子とおしゃれな部屋で一緒に暮らし、学校では恋人として生活できた。そんな生活を一週間も過ごすことが出来たのなら御利益としては十分でなかろうか。
「うちが、これから話すことを聞いたら、陽さんはうちとはこれからは一緒に生活するのが嫌になりはるかもしれません。今までこの話をせんかったのは、今までなら、陽さんは優しいさかい、うちを襟巻にしないために追い出したくても追い出さないと思てました。でも、今なら陽さんの正直な気持ちが聞けると思うんです」
あれ? 俺が思っていたことと逆のことを夜見さんが話し出した。一体何の話なんだ。俺が一緒に生活するのが嫌になるレベルの話ってなんだ。
夜見さんはもう一度お茶を飲むと気持ちを決めたのか話し始めた。
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