未開放クエスト
「陽さん、一つお願いがあるんやけど」
夕食が終わり、淹れてもらったお茶を飲んでいると夜見さんから突然のお願い発言が出てきた。これまでほとんど夜見さんの方からお願い事なんてなかったし、いつも美味しいご飯を作ってくれているから、ここは是非とも叶えてあげたいと思うところだ。
「うん、いいよ。俺にできることならなんでも協力するよ」
「おおきに、そないにややこしいことやないので、陽さんの協力があれば簡単にできます」
俺の協力で簡単にできることならばなおさら協力は惜しまない。
「了解、それでなにをすればいいの?」
「うちは陽さんと一緒にお風呂に入りたいです」
ゲホッ、ゴホッ
予想外のお願いに飲みかけのお茶が入ってはいけないところに入り、咳き込んだ勢いで今度は鼻まで戻ってしまいツーンとする。
「だ、大丈夫ですか?」
「ちょっと、大丈夫じゃないかも」
呼吸を整えつつ、唾液を飲み込んだりして鼻のツーンとした痛みを落ち着かせる。夜見さんも心配してか背中を擦ってくれている。労わってくれていますが犯人はあなたですよ。
「はー、はー、ありがとう。もう大丈夫。ど、どうして急に一緒にお風呂なんて入ろうと思ったの?」
もちろん、理由はどうあれ混浴は阻止したい。これは恥ずかしいとかそうでないとかという問題ではない。俺たちは一応、同居人以上許嫁未満という間柄で、そんな関係にある二人にとって混浴というクエストはまだ解放されていないはずだし、解放されてはいけない。
さらに今日、勝又から耳より情報として、夜見さんは意外と着痩せするタイプだから脱ぐとすごいはずというどうでもいい情報までも入ってきている。
ちなみに勝又には服を着ている状態からでも女性のスリーサイズを当てることが出来るという使い道のないスキルを持っている。
「今日は陽さんがとてもお疲れのようやさかいお背中を流したり、シャンプーをして癒して差し上げたいと思てます」
頑張りますという様子で両手を結びガッツポーズのようにしているが、俺はそんなことをされては緊張でますます疲れてしまいそうな気がする。
「それに陽さんはさっき俺にできることならなんでも協力するって言うてくれはりましたよね」
夜見さんはちょっと意地悪そうににっと口角を上げて笑っている。
あー、あの時の俺どうしてそんな危険な言葉をそう簡単に言っちゃったの。俺の気持ちがどうあれ一緒にお風呂に入るという行為は物理的には簡単にできちゃう。
こうなれば、一緒にお風呂に入ることはするものの精神の安寧秩序を保つための策を講じることで、このクエストを乗り越えなければならない……。
そして、夜見さんに一緒に入る条件を伝えると心を落ち着かせるために化学の元素周期表を順番に呟いた。
浴室に入り軽くシャワーで身体を流して夜見さんが来るの椅子に座って待っている。
こちらの装備は作り立てのアバターのように水泳の授業で使う水着だけである。
湯船とシャワーからの湯気によって温められた浴室にすーっと冷たい外気が入ってきた。
「お待たせしました」
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