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思考の紙飛行機

 午後の日本史の授業はいまひとつ身が入らずにいた。


 ただ、ありがたいことにこの日本史の教師は板書をあらかじめプリントで渡してくれるので、あとは話を聞きながら自分が必要と思ったことを書き足していけばいい。


 そんな授業だから生徒によってはこの時間に数学の課題などを内職のようにせっせと片付けようとしている者もいる。

 そういう生産性のあることをしているならまだしも俺は特にペンを走らせるわけでもなく、五月晴れの雲一つない青空を見ながらぼんやり考え事をしている。


 それもこれも原因は本日急浮上で危険人物リストに名を連ねた暮方さんのせいだ。


 旧校舎から帰るときに彼女が言った。『美月は君のことが大好きだと思う』という言葉がどうも頭の中をぐるぐると回っていてすっきりと消化できないでいた。


 夜見さんと一緒に暮らすようになってから今日で三日目、夜見さんは初日からキスをしたりハグをしたりしていたけど、おそらくこれまで一度も俺のことを〝好き〟だなんて言ったことがなかったと思う。逆に俺のことを〝好きにさせてみせます〟とか〝うちなしじゃダメなくらいにします〟ってことは言っていた。今朝の交際宣言の時も〝好きな人〟じゃなくて〝とても大切な人〟だった。


 そういう考えが浮かんでくると、今度は弱みを握っているのかという言葉が現実味を帯びてくる。


 つまり、〝とても大切な人〟=〝私の命を左右する人〟ということなのだろうか。〝好きにさせてみせます〟や〝うちなしじゃダメなくらいにします〟は俺が夜見さんのとりこになれば、自分の命が安泰だからという意味なのだろうか。


 思い出すと、最初に御利益の説明を受けた時に、こんな俺の許嫁でいいのって聞いたら、いいとも嫌とも言わずに、顔も知らない相手と結婚することは昔は普通にあったなんて感じではぐらかされていた気がする。


 夜見さんの行動は全て、大蛇の生贄に差し出された娘が大蛇に食べられないように相手の機嫌を取っているようなものなのだろうか。


 夜見さんは本当に俺のことが好きなのだろうか?


 このことについて、夜見さんを問いただしたところで、そうですなんてことは言わないだろうし、問いただしてしまったらもう元の関係には戻れないに違いない。


 そう、聞いたところで誰も幸せにならない。


 夜見さんとの今の関係は自分にとってはあまりにも恵まれすぎているものだ。きっと、今後の人生において夜見さんより可愛く、気立てもいい人と付き合うようなことはないだろう。


 ならば、このことには蓋をしてどこか遠くにやった方がいい。


 俺はこの思考を紙飛行機にするとそのまま青空に向かって飛ばした。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただいた読者の方感謝です。

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