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サルサソースは蜂蜜味

「東雲君も幸せだね。美月のこんなに美味しい料理を独り占めできるなんて」


 暮方さんはイェーイという感じでサムズアップのポーズでウインクをした。


 さすが陽キャの代表格、なんとかこのテンションについていかなくてはこの場の空気が悪くなるかと思って俺もいつもよりテンションを上げるようにする。


「そうだね。特に夜見のお稲荷さんは格別に美味しいよ」

「ひ、陽さんまで……、うちが恥ずかしがるのわかってうてはるやろ。いけずやわぁ」

「そ、そんなことはないよ。ただ、夜見さんの料理はどれも丁寧に作ってあるから本当に美味しくて」


 ちらりと横にいる夜見さんを見ると手で顔を覆っているが、隠れきれていない首までが赤い。


「陽、夜見さん、そろそろ許してくれ。さっきからサルサソースなのに蜂蜜みたいになっているから、あと、周りの人もお前さんたちが気になって箸が止まっているから」


 勝又が息も絶え絶えにもがき苦しくようなポーズで俺たちに窮状を伝えた。


「えっ!」


 周りの席に座っている生徒を見渡すとそのほとんどがビクッと身体を震わせた。どうやら勝又の言うように本当にこちらの会話に聞き耳を立てていたらしい。


 あれだけ昨夜、砂糖を撒き散らすようなことはしないって話していたのに……、もしかして、暮方さんあたりにはすでにバカップル認定されているんじゃ。


「い、いや別に俺はそんなつもりはなくて、ねえ、夜見さん」


 夜見さんはまだ顔を覆たままでうんうんと縦に振って答えた。


「フフッ、超かわいいじゃん美月。東雲君、わたし一年生の時から美月と一緒だけど、こんな姿初めて見たよ。いったい君はどんな言葉で美月を口説いたのかな?」


 暮方さんはニシシと意地悪な笑みを浮かべている。まるで猫がネズミをいたぶるような感じだ。


「口説くなんて、俺はそんな……」


 口説くなんてことは一度もしてない。というか、夜見さんを不安にさせて謝っていることがほとんどな気がする。そりゃ、かっこいいセリフの一つでも言えるようになればいいのかもしれないけど、何分この性格ではそれは難儀といえる。


「東雲君もかわいいね。冗談に決まってるじゃん」


 しどろもどろしている俺も暮方さんにからかわれているようだ。


 ただ、不思議と暮方さんにいじられるのは嫌な気がしない。それは彼女自身のキャラクターによるものや彼女が発する言葉にこちらを傷つけようとする気持ちや馬鹿にする気持ちが含まれていないからだと思う。


 ちなみに俺の向かいには俺が暮方さんにいじられているのをとても羨ましそうに見ている勝又がいたことを追記しておく。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただいた読者の方感謝です。

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