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あーんでご飯を食べさせることはしません

 昼休みになるとすぐに四人で食堂に向かった。


 食堂に向かう道すがらでも俺は周りの生徒に指を差されているような気がしてならない。だって、この四人の組合せどう見たっておかしいから。


 銀髪碧眼の美少女とスタイル抜群のギャル、オールバックのメガネ、路傍の石の組合せだ。食べ物なら食い合わせが悪すぎて途中で胸やけがしてリタイヤするかお腹を下すかのどちらかだろう。


 お弁当組である俺と夜見さんが先にが座って四人席を確保することに成功した。ちなみに確保した席は丸テーブルで、席順は俺→夜見さん→勝又→暮方さんとした。これは暮方さんの向かいに勝又を置いておくと、ずっとその無防備な胸ばかりを見る可能性を考慮したものだ。


 勝又と暮方さんを待っている間も周りから見られている視線を感じる。というか、絶対に見られている。

 夜見さんはこの視線に気づいていないのだろうか。いつもと同じように平然としている。俺は彼女の方に顔を近づけ、周りに聞こえないように話した。


「ねえ、俺の思い過ごしではないと思うのだけど、さっきから俺達やたらと見られてない?」

「そうですか? うちとしてはいつもと同じような気がしますけど」


 えっ⁉ 夜見さんいつもこんなに視線を集めているの! まあ、確かに夜見さんは可愛いし、学内でもかなり人気が高いことは俺でも知っている。でも、そのレベルになると普段からこんなに視線が飛んでくるのか。


「こんなにじろじろ見られる感じって嫌じゃないの?」

「うーん、最初は少し戸惑いましたけど、今はもう慣れました」


 慣れるものなんだ。意外と夜見さんって度胸が据わっているというか、動じないところあるな。


「お二人さん、何をそんなにイチャイチャ話しているのかな?」


 悪戯っぽく声を掛けてきたのは、ランチを手にした暮方さんだった。その顔は新しい玩具を見つけた子供のようにワクワクとした気持ちを隠し切れないといった様子だ。


「別にイチャイチャしてたわけじゃないから。ほら、周りからけっこう見られてるなって気がして」

「あー、それは仕方ないよ。美月が朝からあんな熱いハグをみんなのいる教室でやったんだから。きっと、他の学年にまで噂は広がっていると思うよ。美月のファンは上級生にも多いからね」


 ランチの乗ったトレーを置きながら暮方さんが教えてくれた。

 やっぱり、朝の一件が原因じゃないか。飛んでくる視線に怨恨と妬みが絡みついていたからそうだと思ってた。


 ほぼ当時に勝又もランチを持って帰った来た。

 二人とも日替わりランチを選択したということで、今日のメニューはチキンサルサソースだ。


 俺のお弁当を夜見さんが鞄から取り出して渡してくれた。

 うちには弁当箱なんてないから適当な透明のタッパーに詰められている。透明だからなかになにが入っているかもわかる。ご飯が入っている方には、昨日のお稲荷さんのお揚げの残りと錦糸卵で作ったいなりちらし寿司、おかずのタッパーには煮物やウインナー、卵焼き、プチトマトなどが入っている。


 タッパーが透明でよかった。もし、中身が見えない容器に入っていて、ふたを開けたらご飯の上に桜でんぶでハートとか描かれていたらどうしようかと思う。


「美月、相変わらず料理うまいね。今度、わたしにも教えてよ」

「ええけど、うちの指導は厳しいから覚悟しといてな」

「マジ⁉ それなら味見と試食と実食を担当するよ」

「それ、ずっと食べてるだけやないの」


 綺麗どころ二人のじゃれ合いは眼福だ。ああ、生きててよかった。


 ちらりと向かいの勝又を見ると彼もまた俺と同じ気持ちでいるようだ。ということは俺もまた勝又のようにあんな鼻の下を伸ばしたような顔をしているということか。それに気づいて、いつもの表情に意識的に戻した。


「さあ、冷めないうちに食べようか」


 夜見さんのご飯が美味しいことはもうすでによくわかっている。特に昨日のお稲荷さんは格別だったので、それを使ったちらし寿司もまたうまい。煮物もしっかりと味が染み込んでいているが素材の味もしっかりとしている。やはり、夜見さんの料理の腕はかなりなものだ。


「陽、俺にもそのちらし寿司一口くれよ。ただとは言わん。チキン一つと交換だ。とても魅惑的な提案だとは思わないか」

「あー、わたしも欲しいな。美月のちらし寿司」


 勝又だけなら、やらんと一蹴するところだけど、暮方さんまでが欲しがるとそういうわけにはいかない。言っておくけどこれは差別ではないからね。というか誰だってそう思うだろ。


「茜にはうちがあげるさかい、陽さんも勝又さんに分けてあげてください。陽さんには今度たくさん作ってあげます」


 夜見さん俺の心を読みすぎだよ。それにその言い方、子供に言い聞かせるみたいな感じじゃないか。


 あーんと大きな口を開けた暮方さんに夜見さんが食べさせている。しかし、俺がそれを勝又とするのは軽いホラーになるので、俺は勝又の茶碗に入れてやった。


「んー、これ美味しい。美月、あんたマジですごいわ」

「うわ、これ美味い。お店のレベルじゃん」


 二人とも「うまーい!」と叫びながら全国各地の名産品を使った料理を食べる某青空食堂的テレビ番組のようなリアクションで幸せといった表情だ。


「そ、そんな褒めんといてください。恥ずかしいわぁ」

「美月はいつから料理するようになった? わたしはたまにお菓子作るくらいだからこういうのは全然作れないんだよね」

「小学校の六年生くらいからやろか、お母さんに習いながらちょっとずつ覚えました。でも、うちも最初は手際も悪かったし、上手くいかんことも多かったんやけど、やっていくうちにだんだんとようなってきました」


 実家とはあまり折り合いが良くないって言っていたけど、料理をお母さんから習っていたならお母さんとは仲が悪くないということだろうか。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただいた読者の方感謝です。



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