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学校でもうちの隣にいてください

「そ、そうですね。うちは本当なら許z……でも、そこは陽さんもまだ気持ちの整理できてへんやろから……、恋人がいいです!」


 えっ⁉ ここにきて想定外のボールが飛んできた。キャッチボールしてたら野球ボールがボウリングの球になって飛んで返ってきたぐらいの衝撃。


「こ、恋人ですか!」


 俺たちは現在、正式に許嫁でもなければ、恋人でもない。挨拶をかわすかどうかのレベルのクラスメイトだった二人が急に昨日から一緒に暮らしているという関係だ。

 連休前まで全く接点がなかった二人が連休明けに急に恋人になっているって展開早くありませんか?


「そううても、うちは今まで告白を断った人に「友達でいよ」みたいに言うてたさかい、友達にすると陽さんも断った人と同じになってしまう。それは嫌や。」


 夜見さんはしっかりと意志の強そうな目で俺を見据えている。これはちょっとやそっとの反論では動きそうにない。


「それに、うちらはただの高校生なんやから、付合っているってことになっても大したことありません。たしかに最初は少し騒がしくなるかもしれへんけど、台風とかと一緒で数日もすれば波も収まり、それが日常の風景になると思います」


 そんなものだろうか。たしかにゴシップ的な話題は盛り上がるが賞味期限は早い気がする。


「で、でも、告白とかしてないし、急に恋人と言われてもどう接していいかわからない」

「告白なんて必要ありまへん。陽さんさっき自分で言うてたじゃないですか。役割とか設定って。つまり、学校にいる間だけ恋人の役を演じるだけでええわけです。接し方だって、今、うちに接しているようにしていればええと思います。恋人だからって特別なことはいりまへん」


 自分で役割、設定と言ってしまったためこれに対する反論が難しい。


 ラノベでは、恋人を演じる時って、ヒロインが告白されまくるからそれを防ぐためとか、恋人がいないとお見合いをさせられるとかで演じるパターンがよくあると思うが、俺たちの場合は何だろう……。


 クラスでの立ち位置を決めるだけのはずだったのにいつの間にか夜見さんに丸め込まれて、こちらの逃げ場がどんどんなくなっている気がする。


 しかし、いきなり恋人というのは何だか抵抗がある。俺は昨日振られてフリーの身の上なので、夜見さんと付き合っているという設定自体は問題ない。


 ならば、俺の胸の中でつっかえているのは何だろう?


 それはきっと自分の中の漠然とした自信のなさだ。どう見たってクラスで一番どころか学年でも三本の指に入るような美少女の夜見さんと特に誰の目にも止まらないような俺が設定上とはいえ恋人になるのは周りが見たときにどうなのだろう。

 それにもう関わらないでくれと言われたけど元カノだって同じクラスにいる。彼女が俺と夜見さんを見たときどう思うだろう。


 要は好奇の目にさらされるのが怖いのだ。


「俺じゃ、夜見さんの恋人は無理だよ……」


 自分にだけ聞こえるような小さな言葉が転がり落ちた。

 転がった言葉を眺めるように俯いていると後ろから夜見さんの白い手が伸びて身体に回され、同時に彼女の双丘が背中に押し付けられて、肩にぴとっと顔を乗せた体勢になった。


「自信を持ってくださいとか、胸を張ってくださいなんて言いません。ただ、学校でもうちの隣にいてください。もし、陽さんを傷つけるような人がいれば、うちが守るさかい安心してな」


 耳の後ろから呟かれる彼女の言葉で一気に心拍が上昇する。きっと彼女も俺の心臓がバクバクしているのを感じているはずだ。


 ずるい、ずる過ぎる。ここまで言われて恋人演じるのは嫌ですなんて言えるわけがない。昨日も今日もベッドの上にいると全く夜見さんのいいようにされている。


「ありがとう。それでは恋人ってことで。でも、俺は周りに砂糖をまき散らして、クラスメイトを糖尿病に陥れるようなバカップルぶりは苦手だからそこだけよろしく」


「ええ、もちろんです。うちも節度をもったお付き合いって感じの方がええです」


 こうして、俺と夜見さんの学校での関係は〝恋人〟ということになった。


― ― ― ― ― ―


 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただいた読者の方感謝です。

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