独りよがりの意見
キスをされた後にソファーに座りながら明日からのことを考えていた。
GWも今日で終わり、明日からはいつも通りの学校生活が始まる。
俺にとっては全くいつもどおりではない。別れた元カノは同じクラスにいるし、先日までほとんど話したことが無かった夜見さんとは今は同じ部屋で暮らしている。
明日からの学校はクラスメイトの顔ぶれは同じでも、見える景色が全く変わってくる。
学校では夜見さんに今までと同じように接して欲しいと思っていた。それは同じクラスにいながらもお互いに特別交わることのない存在でいること。クラス全体で何か行事をする時には必要なだけ関わるが、日常ではおはようの挨拶をかわすか、かわさないかレベルの関係。
そう、電車でたまたま同じ車両に乗り合わせただけの関係みたいなものだ。互いに特別話すことはなく、下車する駅までじっと過ごすだけの関係。
そういう関係でいれば、お互いの環境の変化は最小限で済む。
学校が終わってここに帰ったら一緒にご飯を食べて、時には一緒にテレビを見たりして過ごせばいいのではないか。俺は夜見さんをここから追い出すつもりはないので、とりあえずは襟巻にされることもない。そうやって過ごしていけばお互いに問題なく生活できるのではないかと思っていた。
でも、このことについての思考を巡らせているうちに見て見ぬふりをしている部分が気になって仕方が無くなった。
これがお互いにとって一番と思っているが、夜見さんの意見なんか実際にはちっとも聞いていない。俺がお互いにと思っている部分は俺が勝手に夜見さんの気持ちを推測して補完しているに過ぎない。つまりは俺の勝手な自己完結理論でしかない。
きっと、俺が夜見さんに今まで通りの関係を希望すれば彼女はそれに従うだろう。俺が彼女の生殺与奪の権を握っているといってもいいからだ。
果たしてそれでいいのだろうか? いいわけはない。
では、何を恐れたり、面倒くさがったりしているのだろうか?
それはきっと俺の考えていることと彼女の考えていることが違ったときにどう折り合えばいいのかがわからないからだ。
折り合いが上手くいかなければどちらかを傷つけることになる。それが嫌なのだ。
さすがにこのことに気付いていながら一方的な話はできない。
きちんと彼女と向き合わなくてはいけないと思い、どう切り出すかを考え始めた。
寝室のベッドの上に胡坐をかきながら夜見さんが来るのを待っていた。
「陽さん、また神妙な顔してどないしたんですか?」
寝室に入って来た夜見さんは隣に足を伸ばしたかたちで座った。
「いや、別に神妙な顔をして話すことではないのだけど……、学校でのことなんだけどさ。これからどんなふうに夜見さんと接すればいいかなと思ってね。お互いの立ち位置というか関係というか……、役割? 設定? ほら、今の俺たちってちょうどいい言葉が見つからないような関係だからどうしようと思ってさ。夜見さんはどう思ってる?」
待っている間に何度もどう切り出すか考えていたのにいざ話してみると全然上手く話せない。
夜見さんの顔をちらりと見ると虚を突かれたような顔をしている。そんなに意外だったのだろうか。
「う、うちは陽さんに合わせます。陽さんがええと思うようにしてください」
うん、これは予想通り。昨日今日の夜見さんの様子からして、最初から自分の意見を言うとは思っていない。
「そうじゃなくて、俺は夜見さんがどう思っているかを知りたいんだ。これから一緒に生活していくのにいつも俺に合わすようにしていたら夜見さんはどこかで耐えられなくなるんじゃない? だから、夜見さんがどう思っているかを聞いたうえでちょうどいいところに落とし込んでいきたいと思っているんだ」
夜見さんは完全に俺が想定外のことを話し始めたという様子であうあうというように言葉が出ないでいる。
あれ? 俺何か変なこと言ってる? 学校で接する関係なんて今まで通りのただのクラスメイト、友達、恋人とかしかないんじゃないか。そして、この三択ならとりあえずとして友達を選ぶのが妥当なところだろうと思っている。
「そ、そうですね。うちは本当なら許z……でも、そこは陽さんもまだ気持ちの整理できてへんやろから……、恋人がいいです!」
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