スキンケアってみんなやってるの
「そんなこと言うてますと、染みだらけのお顔になりますよ。ちょっと待ってて」
夜見さんは洗面所から自分のスキンケアグッツを持ってきた。いろいろな液体がボトルに入っているようだが、ぱっと見どれが化粧水なのかさっぱりわからない。
慣れた手つきでコットンに化粧水を染み込ませて、小鼻の横から外側に向かって優しく滑らせた。
化粧品のCMでよくあるような表現だが、肌が化粧水をごくごくと飲んでいるというか吸収している感じがわかる。それだけ俺の肌が潤いを欲しているのだろう。
化粧水が染み込んだところは肌が潤ったからだろうか火照った感じが無くなりひやりと冷たい感じがする。でも、それは表面的なところの問題で、内側は夜見さんが近いのと風呂上がりの濃くいい匂いとでカーッと熱くなっている。
普段なら恥ずかしさからどこかに逃げたり、彼女の方を見ないということも出来るけど、今はソファーに座っている俺の前を彼女が塞いでいるから逃げ場はない。その追い詰められた状態で化粧水塗られてることにドキドキする俺は変態なのだろうか。
「どうです。潤うのがわかります?」
「う、うん、めっちゃ潤ってるって感じがする」
「あと、乳液も塗っておきますね。これで潤いをキープします」
おそらく恥ずかしさで耳まで紅くなっているはずの俺に気付いていないのか、それとも気づいていてもわざと何も言わず続けているのか。夜見さんは特に俺の様子に触れることなく乳液を手に取る。
乳液は化粧水のようにコットンに染み込ませないで、指で直接塗るので、夜見さんの柔らかな指が俺の頬をぬるりと滑るたびにちょっとゾクッとする。
目を開けていると夜見さんの顔が嫌でも視界に入りそれだけでも近い、近いという思いになるので目をつぶりその情報を遮断することで落ち着こうとした。
しかし、視覚が無くなったことでよけいに指の動きによる甘い刺激が強くなるという副作用が発生。完全に墓穴を掘った形になった。
「んん」
そしてついに顎のラインを指が撫でたときに思わずくぐもった声が出てしまった。
やばい、スキンケアをされながら声が出るって俺はどんだけ変態なんだよ。絶対に夜見さんから軽蔑の眼差しで見られて、ドン引きされているに違いない。
「くすぐったかったですか」
いや、この声色は俺の反応を見て楽しいんでいる。ということはさっきの顎のラインを撫でたのもわざとなんじゃないか。
「最後に目の周りを塗りますね。意外にこのあたりも乾燥するさかい」
目の周りを指が滑らかに撫で、そのまま頬の方に流れたその時、唇に柔らかな感触が走る。
思わず目を開けると目を閉じた夜見さんが唇を重ねていて、俺の顔は彼女の手で逃げられないようにホールドされていた。
夜見さんはそのまま小鳥が餌をついばむように三度唇を重ねるとようやくホールドを解いてくれた。
「それじゃ、うちはドライヤーしてくるさかいゆっくりしててください」
スキンケアのセットを持って夜見さんはドライヤーのある脱衣所方へ行ってしまった。
な、何だったんだ今のは……、夜見さんからは今朝もキスがあったけど、その時も特に変わった様子はなかったよな。もしかして、キツネの界隈では欧米と同じような感じでスキンシップをするのだろうか?
大きくなった心臓の鼓動は胸に手を当ててもわかるほどで、それを落ちつかせるべくソファーにもたれて目をつぶり素数を数えることにした。
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