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いざ、新宿御苑へ

 朝食を食べ終わり片づけを済ますとピクニックの準備を始める。

 準備といってもお弁当はすでに夜見さんが準備しているので、俺の身支度がほとんどだ。白いシャツに紺のジャケット、黒のジーンズ、これが俺のなかでは定番の安牌コーデ。おしゃれとかよりも清潔感があればなんとかなるという理論の下ここにたどり着いた。


 一方、夜見さんはちょっとオーバーサイズ気味の黒のジップアップパーカーにブルーのジーンズだ。パーカーのフードには猫耳のような飾りもついていて可愛い。そういえば、夜見さんは昨日もパーカーを着ていたような気がする。


 玄関のドアを開けると一気に爽やかな空気が流れ込んでくるとともに抜けるような青空が広がっていた。この様子だと午後からはジャケットを着ていると暑そうだ。


「とってもええ天気やわぁ」


 にぱっと笑う夜見さんの足取りは軽いというより少しスキップ気味と言ってもいい。


「そうだな。ここまで空の青が綺麗だと気持ちいいね」

「ほんまピクニック日和やわぁ」

「夜見さんは京都にいたころもよくピクニックとかお花は行ったの?」

「うーん、桜の季節や紅葉の季節になると京都には観光客の人がぎょうさん来るさかい、東京の上野公園みたいに宴会する感じやのうて、散歩をしながら見ることが多いと思います。」


 たしかに京都の桜の名所と言うと神社や寺や哲学の道沿いのものが思い浮かぶけど、そういうところでは上野のお花見みたいな宴会はしないだろう。

 新宿御苑にもいろいろな種類の桜の木が多く植えられているが、この時期になると咲いているものはさすがにないのではと思う。


「ところで、陽さん、新宿御苑は初めてですか?」

「初めてだね。こっちに来て一年になるけど、特に一緒に行く友達もいなかったから。友達と遊びに行くといってもゲーセンとか本屋とかが多いかな」


 どう考えてもオタクで陰キャの友達が新宿御苑でピクニックしようなんて誘うわけがない。夜見さんに誘われなければこの先もすっと行くことがなかったはずだ。


 俺のなかでの新宿御苑のイメージはXYZでおなじみのもっこり掃除屋スイーパーの劇場版アニメの最終決戦の舞台だったことくらいだ。


「それなら、うちとが初めてやなぁ」


 夜見さんは嬉しそうにグーにした手を口元にやりニシシと笑っている。

 どうしてだろう、昨日にも増して夜見さんのテンションが高い気がする。このテンションについていけるほど陽キャじゃないのだけど大丈夫か俺?


 御苑の中に入って驚いたのは園内がとてもきれいに整備されていることだけでなく、その広さだ。新宿御苑はちょっと広い公園くらいのイメージでいたけど、ちょっと広いどころではない案内によると面積が五十八ヘクタール以上あるので浦安のネズミ王国よりも広い。その広大な園内に温室、日本、イギリス、フランス風の庭園が造られ、場所によってはちょっとした森のように木が生い茂っているところもある。それらを順に歩いて見て回るだけでも運動部ではない俺にとっては遠足のようにいい運動量になる。


「夜見さん、ちょっと休憩しよう」


 情けないことに先に休憩を申し出たのは俺だった。夜見さんはまだまだ足取りは軽く元気いっぱいの様子だ。

 そういえば、体育の授業でも夜見さんは結構活躍していたっけ。


「そやなぁ、ちょうどお昼も近くなってきましたし……、あそこのベンチが空いてるさかい、そこでお弁当食べましょ」


 二人でベンチに座り、手渡されたペットボトルに入ったお茶で喉を潤す。


「ふー、ありがとう、生き返る。それにしても、夜見さん元気だね。何か部活してるの?」

「いいえ、特に部活には入ってません。運動については……、その生まれつきというか、やっぱり普通の人とはちょっと違うというか……」


 ああそうか、今の夜見さんの姿が耳と尻尾を隠した普通の女の子の姿だったのでキツネ娘であることをすっかり忘れていた。


「ご、ごめん、その悪気があって言ったわけじゃないから。というか、俺が体力なさ過ぎなだけだから」

「陽さんこそ気にせんといてください。全然悪いこと言ってへんから。そうれよりもお弁当食べましょ」


 そう言うと、今度は鞄からお弁当の入った大きめのタッパーと取り皿と箸を渡してくれた。タッパーを開けるとそこには黄金色のお稲荷さんが入っていた。

 やはり、油揚げは欠かさないようである。


「いただきます」


 口に入れた瞬間お揚げの甘辛い汁の味が広がり、その後から酢飯の酸味が混ざり合う。ほのかに胡麻の香りも漂い全体を整える感じがする。


「うわ、これめっちゃおいしいじゃん。今まで食べてきたお稲荷さんの中で断トツだよ」

「ほ、ほんまに⁉ おおきに、陽さんにそんなに喜んでもらえるなんでうちもめっちゃ嬉しいわぁ」


 だ、だめその笑顔破壊力高過ぎ。そんな顔で見られるとこっちが恥ずかしくなってくる。

 学校で夜見さんのことをじろじろ見ているわけではないけど、今みたいな笑顔は友達といる時もしていないような気がする。もちろん、俺が自意識過剰なだけかもしれないけどさ。


 歩き回ってお腹が減っていたこともあり、夜見さん特性お稲荷さんへ次々と箸が進んでしまう。


「そんなえらい勢いで食べへんでもたくさんあるさかい。でも、この味気に入ってくれてほんまよかった。これはうちのお母さんから教えてもらったものやさかい夜見家の味みたいなもんです」


 このお稲荷さん食べるともうスーパーとかで売っているやつは食べられないかも……。まずい、夜見家の味に染められてしまう。というかすでに染められている。


 ― ― ― ― ― ―

 本日も読んでいただき誠にありがとうございます。評価、ブックマークをしていただいた読者の方感謝です。

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