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俺はいらない人間だと、ずっと思っていた。
農具を持ち、村の食料のために働く。それ以外に価値のない男だった。
雑貨屋の娘は俺だけを見てくれて、その子は俺が価値がないなんて言うなって励ましてくれていた。それがうれしくて何度も何度も話しかけに行った。やがて、向こうも俺のことが好きだったと分かって、村総出でお祝いをしてくれる。
よくはないが、ありきたりなおめでたいだけの話のはずだった。
でも……。
なんでもない日に、村が魔物に襲われた。これはよくあることの一つ偶然村の近くを魔物が通り、目にかかった村人が殺されてしまう。
そう、誰にでもある良くあることの一つ。
それが、俺の妻だった人……俺を認めて俺が必要な人間だと言ってくれた人が殺されてしまったこと以外は。
彼女は俺に「ごめんなさい」と言葉を残して死んでしまったのだという。
俺はひどく悲しんで、何もすることが出来ない日々が続いてしまった。
村の人たちは、俺を慰めていたと思う。でも、当然、悲しみに明け暮れ何もする気力のなくなった俺に村に居る価値など存在していない。
悲しみに明け暮れる日々の中でも農具だけは放り出さずに過ごしていたはずだった。
そんなある日、俺はあるうわさを知ってしまった。
この近くに住んでいる"沼地の魔女"のうわさを。
曰く、その魔女は死んだ人間の頭蓋を持っていて、死んだ人間ともしゃべることが出来、運よく気に居られれば魔女によって死んでしまった人間をよみがえらせてくれるかもしれないという、他愛もないうわさ。
だが、俺は他愛のないうわさに見入られ、唯一の価値だった農具を手放して噂の沼地に向かってしまっていた。
無謀にも一人で沼地に向かった俺は沼地に入ったところで魔物に襲われてしまった。
当たり前だ、農村で農具を握っていただけの何の価値もない男が魔物に襲われ生きていられるわけがない。
力尽きた俺は沼地の泥に頭を突っ込んで、こう思っていた。
ああ俺は……"沼地の魔女"に彼女を――。
そして おれはすべてを うしなっ。




