ばあさんの遺書
婆「なあじいさんや」
爺「なんじゃいばあさん」
婆「いい天気じゃのう」
爺「すっかり春じゃからのう」
婆「ところで私もそろそろ長くないと思うんだけどさ」
爺「えっなに急に」
婆「あっ、ごめんごめん寿命の話」
爺「寿命の話だから焦ってんのよこちとら」
婆「いやね、私ほらじいさんよりちょっとだけお姉さんじゃん?」
爺「うん、まあ87歳と90歳だからね。それをお姉さんと呼ぶかどうかはちょっとあれだけど」
婆「だから私の方が多分先にdeathっちゃうから、終活しとこうと思ってさ」
爺「死の表現がナウすぎる」
婆「でも調べたら結構やることいっぱいあってさ、ToDoリスト作ってまとめたりとか最近やってんだけどさ」
爺「ばあさん相変わらず意識高いんだから」
婆「まあ、真っ先に必要なのはやっぱりこれかなって思って」
爺「ほう」
婆「ダイイングメッセージを作ってみたんだけど」
爺「まさかの他殺」
婆「あっ、間違えた。遺書を作ってみたんだけど」
爺「人生の最後にとんでもないドラマがあるのかとじいさんびっくりしちゃったよ」
婆「でも普通に紙に書いても面白みが無いからさ」
爺「死んでなお面白さを求めるエンターテイナー」
婆「とりあえず企画動画にしてみたのよ」
爺「企画」
婆「爺さんのスマホにQRコード送ったからちょっと観てよ」
爺「これ死ぬ前に見ていいやつなの」
婆「好評だったらシリーズ化しようと思って」
爺「斬新すぎるよ」
婆「ちょっとばあさんは便所という名の戦場に赴いてくるから観てて」
爺「ご武運を」
爺「ふむ……これを読み込んでっと……。わっ、ばあさんこれYouTubeじゃん」
YouTu婆『じいさん。じいさんがこの動画を観ている頃。私はこの世にいないでしょう』
爺「めっちゃいるよ。なんなら今便所で戦ってるよ。ていうかこれ視聴数20回って、ばあさんがこの世にいる間にすでに20人がこの動画見てるよ」
YouTu婆『というわけで始まりましたばあちゃんねる。今回の企画は遺書!とうことでね』
爺「ばあちゃんねるって」
YouTu婆『まあ遺書って言ってもね。相続とかその辺のことはめんどくさいから抜きにして』
爺「最重要ポイントじゃないの」
YouTu婆『せっかくなのでばあちゃんの生きたこの80年を語っていこうかなと』
爺「ちょっとサバ読んだなばあさん」
YouTu婆『てなわけで!ばあちゃんの思い出ベスト3の発表です!」デデン!ヒューヒュー!
爺「編集が凝ってる」
YouTu婆『第3位!チャンネル登録者数100人達成!』
爺「90年生きててそれが3位に滑り込むとは」
YouTu婆『いやーみなさんのおかげですよ。ぜひこれからもばあちゃんねるをよろしくお願いしますねー』
爺「骨の髄までYouTuberだなばあさん」
YouTu婆『第2位!宝くじで100万円当たったこと!』
爺「じいさんそれ初耳なんだけど」
YouTu婆『その100万全部突っ込んでこのハイスペPCと編集ソフト買いましたからね』
爺「ならよかった」
YouTu婆『ではいよいよ栄えある第一位は!!!!』
爺「一位は?」
川平慈英『楽天カードマーン!!』
爺「ムムッ?」
川平慈英『今!!8秒に一人申し込んでいる楽天カード!』
爺「遺書に広告つけるんじゃあないよばあさん」
YouTu婆『ではいよいよ栄えある第一位は!!!!」
爺「一位は?」
YouTu婆『じいさんと出会えたことです』
爺「ばあさん……」
YouTu婆『ハタチでじいさんと出会ったあの日から60年。色んなことがありましたね』
爺「70年」
YouTu婆『三億円事件にオイルショック。ドーハの悲劇やトランプ大統領就任もありましたね』
爺「まさかの世間的な方」
YouTu婆『じいさんが他の女と浮気したこと、パチンコに生活費全部溶かしたこと、酒に酔ってぶたれた日もありましたね』
爺「じいさんろくでもなさすぎ」
YouTu婆『どれも、ばあさんにとっては大切な思い出です』
爺「ばあさん心広すぎ」
YouTu婆『あなたと出会えてばあさんは幸せでした。もし生まれ変わってもまたじいさんと夫婦になりたいと、ばあさんはそう思います』
爺「ばあさん……そんなのじいさんだって……」
YouTu婆「じいさんと出会ってからの日々はばあさんの宝物です』
爺『うぅ……ありがとうばあさん』
YouTu婆『じいさん最後まで観てくれてありがとう!また来世でお会いしましょう!』
爺「ありがとう……!じいさんは誓うよ!また来世でも必ずばあさんを幸せにする!」
YouTu婆『それでは!』
爺「うぅ……ありがとうばあさん……愛してるよ………」
『♪〜〜』
爺「ん?」
YouTu婆『今回の動画いかがでしたか?もしこの動画がいいと思ったら高評価ボタンとチャンネル登録をお願いします』
爺「骨の髄までYouTuberだなばあさん」
婆「観終わったかい?」
爺「あっ、うん。ばあさんのほうも出し終わったかい」
婆「長い戦いだったけど殲滅したよ」
爺「流石ばあさん」
婆「動画どうだった?よかった?」
爺「うん。すごくよかった。ちょっと衝撃の事実もあったけど」
婆「そりゃあよかった。ちなみ次UPする予定の動画も今撮ったんだけど見る?」
爺「どんな動画?」
婆「ばあさんからの遺書動画を見ながら一人でめっちゃ喋って泣いてるじいさん」
爺「それは…………バズるなあ」
婆「流石じいさん」
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ではまた次の小説でお会いしましょう。