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似合わないことはしない方がいい

 あの後から俺たちは無言で、ただひたすら歩いている。数分歩き続けると同じ制服を着ている奴らをちらほら見るようになってきた。


 まだ早い時間帯だからいつもより少ない方なのか?遅刻常習犯の俺にはわからねぇな。


 そんなことを考えながらまた数分歩き続けると、ようやく校門が見えてきた。校門を過ぎると昇降口へと直行し、上履きに履き替える。


 俺の学校の昇降口は、なかなかに狭い。なので、人が少なくてもかなり狭く感じる。やっとこさ自分のげた箱まで辿り着いた。


 もてる奴ならげた箱の中にラブレターの一枚や二枚発見してもおかしくはないのだろうが、生憎と俺はそんなことは一度もない。ってか今時ラブレター書く奴なんかいるのか?俺はいないと思うね。ひがみじゃねぇからな。


 ふと浩二を見ると、何かをカバンの中に隠すように入れたのが見えた。


 あいつ、もしや……。いや、ないな。ないない。今時そんなやついないって、うん。何度か見たことある光景だけどそれはないな。ないに決まってる。


 靴を履きかえた後、いったん恵里と合流したのだが、クラスが違えば階も違うので、階段の下で軽い挨拶を交わしてわかれる。そして二階にある自分の教室を目指して階段を登るのだ。朝から疲れることにな。浩二とは同じクラスだ。


 教室に入り時計を見ると、まだ八時十分だった。教室内を見渡すが、まだ七、八人しか生徒がいない。なんか無性に損した気分だ。


 何人かのクラスメートと挨拶を交わし、自分の席に向かう。ちなみに窓際の一番後ろだ。


「ヒロ君、浩二君、おはよう」


「おはよー」


「……あぁ、おはよう」


 誰かと思えば、自分のであろう教室の中程にある席に座っている凛だった。早起きがいけなかったのだろうか。頭がぼーっとして、目の前も少し霞んでいるようだ。


「来るの早いね」


「うん、ちょっと朝練してたんだ」


 先を歩いていた浩二が立ち止まったので、俺も必然的に止まる。


「へぇ〜。何時から来てるの?」


「七時くらいかな」


「早っ!よく起きれるね」


 確かに。俺には無理だな。って言うか七時に学校って、何時に起きてるんだ?


 まだまだ会話は続きそうなので、俺は自分の席に着くことにした。


「あら、今日は早いですね。珍しいこともあるものです」


 焦点の合わない目でぼーっとしながら欠伸をしていると、背後から小馬鹿にした声が聞こえてきた。


「それは嫌みか?いや、嫌みだろ」


「私が嫌みなんて言うはず無いじゃあないですか」


「はいはい、そうかよ」


 この妙に丁寧なしゃべり方をするお嬢様みたいな奴は『緒川 流美』。『緒川財閥』の一人娘で、本物のお嬢様だ。それもかなりの。


 だが、今までこいつが金持ちらしきところを見かけたことがない。いつも歩いて登下校してるらしいし……。


 聞いてみたところ、そういうふうに思われるのが嫌いなんだそうだ。


「いつもこうなら助かるんですけど」


 溜め息混じりに呆れながら皮肉る。


 こう言うのは、こいつが学級委員長だからだ。そのため、遅刻常習犯の俺に、いつも絡んでくる。まぁ遅刻する俺が悪いんだけどな。


「残念だが、明日から毎日こうだ。ある方が起こしに来てくれるそうだ」


 なんか悔しいので、俺も皮肉を込めて返す。まぁ有り得ないことをやり遂げてしまった俺が悪いんだろうがな。


「そっ、そうですか。やっと私の言葉が通じたんですね……」


 そう言った緒川の顔は、何だか知らないが若干寂しそうな気がする。


「俺を怒るネタがなくなったからってストレス溜めんなよ」


「ストレス発散のために言っていたのではありません!!」


 あのままだとしんみりとした雰囲気になりそうだったので、冗談の一つでもいってやることにしたのだが、どうやら緒川は冗談が通じない人間らしい。顔を真っ赤にして、かなり怒っているようだ。


「ははっ。わかってるって。……俺のためなんだろ?」


「そういうことです……」


 あのままだとピリピリとした雰囲気になりそうだったので、笑顔で取り繕った。普段は笑顔などつくらないから上手くできたかは微妙だがな。


 すると緒川は、目を見開いて俺の顔を見たと思ったら、顔を赤くしたままで俯いてしまった。


「おい、どうした?」


「いっ、いえ、なんでもありません」


 しかし、次の瞬間にはもういつもの緒川に戻っていた。なんか隠しているような気もするが、気にせずいこう。人間、切り替えが大事だよな。


「それより!誰ですか!?」


「なっ、なにが?」


 俯けていた顔を急に上げた緒川が凄い剣幕で迫ってきたので、油断していた俺は怯んでしまった。


「ヒロさんを毎日起こしに行く人です!」


「あっ、あぁ。たぶん緒川は知らねぇよ」


 緒川の勢いは留まるところを知らない。背後に立っていたのだが、机の真正面に回り込み、机上に両手をついて迫ってきた。それでも俺は、なんとか冷静を取り戻し、動揺を隠した。緒川はそんなの気づいていないようだが。


「そんなこと関係ありません!もしかして女の子ですか?」


「一応な。浩二の姉ちゃんだし」


 しかし、俺がそう言った瞬間、緒川はぴたっと動かなくなってしまった。


 女の子だと何かいけないことでもあるのだろうか。果たしてあれを純粋な女の子だと言えるのかどうかは甚だ疑問だがな。


「それってまさか、田中恵里さんですか?」


 五秒くらい止まっていただろうか。緒川は口がうまく動かないのか、ゆっくりそう訪ねてきた。


「そうだけど。知ってた?」


「はい……。あんなかわいい女の子、知らないほうがおかしいですよ……」


 悔しそうに言っているが、緒川もかなりの美人だと言うことを皆さんの脳みそに叩き込んでおいてほしい。


 っていうか恵里って有名なんだな。


「あの方が起こしにくるなら、早起きする気持ちもわかりますよ……」


 本人は気づいていないみたいだが、すごい落ち込んでいるように見える。それと共にすごい誤解をされているのは気のせいか?


「おいおい、そんなんじゃ――」


 キーンコーンカーンコーン――


 何というタイミングでチャイムが鳴るんだろうか。漫画か何かか?


 周りを見渡すと、二、三人を残して全ての席が埋まっている。緒川はいつの間にか自分の席――廊下側の一番前――に着いていた。その背中は哀愁漂っているようだ。


 とにかく、後で誤解を解いておかなくてはな。

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