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第一印象は伊達じゃない

 季節は春先。開け放した窓からは心地の良い風が流れ込んでくる。

 ここはとあるアパートの一室である。


「ホント暇だよ」


 倦怠感漂う午後の部屋。高校の制服のままソファに寝転び、ジ〇ンプのページをペラペラ捲りながらだるそうに呟く。


「うん、そうだね」


 いつもは元気なこいつも、ソファに沈んでやがる。


「ヒロ。こんなことやめて、普通にバイトしたほうがいいんじゃない?」


 背もたれの上にのせていた頭を上げ、気だるそうにきいてきた。

 遅くなったが、俺の名前は『ヒロ』。本名『夜月 浩之』。

 で、話し相手が『田中 浩二』。一応親友だ。


「やめる気なんかねぇよ」


「なんで?」


 不思議に思ったのだろう。浩二は背もたれから背を離し、若干前屈みになり、質問を続ける。


「雇われるのが気に食わないから」


 俺はソファに寝転がった姿勢を変えずに、いたって普通に答える。が、本当は違う。本当は、浩二と二人でこういうふうにしているのが、好きだ。まるで同好会みたいだし。

 さっきから、やめるだのやめないだの、何のことか説明がまだだったな。

 説明しよう!

 俺は今、『何でも屋』をやっている。簡単に言えば、金さえもらえれば何でもやる仕事。まさに『何でも屋』だ。

 部屋は借りていない。自分の家だ。

 しかしこの御時世、何でもやると言ってもなかなか依頼がこない。そのせいでなかなか儲からない。やり始めた頃は儲かると思ったのに……。俺の返答に呆れたのか、溜め息を一つ吐き、再びソファに沈んだ。


「だからって、こんなんじゃいつかお金がなくなって飢え死にするよ。それより先に暇死にしそうだけど」


 なぜ浩二がこの俺の家のソファに座っているのかというと、暇だからだ。学校が終わったら、だいたい俺の家に直行だ。暇だから。

 だったら部活に入ればいいなんて言う奴もいるけど、家を長い間空けておくことはできない。お客さんは待っていてはくれないのだ。


「待ってりゃその内客くらい来るって。それに飢え死にしそうなときは、お前のお姉様に食わしてもらうから」


 そう、こいつのお姉さんの料理は絶品だ。学校の料理部でも、二年生にして部長を努めている。

 ピンポーン。


「ほぉら来た。今出まぁーす!」


「まったく……」


 インターホンが鳴ったので、俺はソファから起き上がり、玄関に向かった。背後からは、浩二の呆れたような呟きが聞こえた。

 俺はそれを無視し、玄関のドアを開けて客を迎え入れる。

 が、ドアの向こうにいたのは客ではなかった。ましてや新聞社の勧誘でもない。

そこにいたのは――


「こんにちは。ヒロちゃん」


 同じ制服を着て笑みを浮かべた、同年代の見知った女の子だった。


「なんだよ。恵里かよ」


 客かと思って期待していた俺は、期待を裏切られたことにより、盛大な溜め息をついた。


「なんだとはなによ!」


 俺の言葉と溜め息が気に触ったようで、少しむくれながらそう言った。

 この女の子は『田中 恵里』。さっき話に出ていた、浩二の双子の姉だ。


「悪りぃ」


「もぅ、まぁいいけど」


 それほど気にしていなかったのか、いつものことだと割り切っていたのか、すぐに笑顔になり、あっさりと許してくれた。


「上がらせてもらうわね」


 笑顔のままでそう言うと、ドアを開けているのに支えていた俺の腕の下を難なく潜り抜け、勝手にずかずかと室内へと入って行った。

 仕方ないので、俺もその後について、元いた居間に戻った。


「あっ、恵里」


 恵里が開けたドアの音に反応して、手にお茶ののった盆を持って机のそばに立っていた浩二は、首をこっちに向けた。

 ソファの上に出しっぱなしにしていたジ〇ンプは片付けられている。


「やっぱり、またここにいた」


 浩二の存在に気づいた恵里は、いつものことながら、少々呆れ気味だ。


「やっぱり、またここにいた」


 浩二の存在に気づいた恵里は、いつものことながら、少々呆れ気味だ。


「暇だからね」


 適当な返事をした浩二は、客ではなく恵里だということで、良くしていた姿勢を崩しソファに座り込み、自分で用意したお茶を自分で飲んだ。

 グラスに入っているから多分冷たい麦茶かなんかだろう。


「ここに来ても暇なのに変わりはないでしょ?」


 浩二の向かい側のソファに静かに腰を下ろしながら小馬鹿にしたようにそう言うと、盆に乗ったままになっているお茶を手にとり一口、二口と喉に流し込んだ。


「まぁね」


 それを否定しない浩二。

 一気に飲み干し空になったグラスを机の上に置き、ソファに深く腰掛ける。


「ったく、ひでぇ言われようだな」


 今までずっと立って二人の話を聞いていた俺は、残りのグラスを手にとり一気に飲み干して机の上に置いた後、浩二の隣にどかっと腰をおろした。

 これでも結構傷ついている。


「ごめんごめん」


 恵里が手を合わせて謝ってきた。

 まぁ別に怒ってるわけじゃないからいいんだけどな。


「そんなことよりもうそろそろ夕飯の時間よ。ヒロちゃんも一緒にどう?」


 恵里が壁に掛けてある時計を見ながら言った。

 気づかなかったが、話しているうちにいつのまにか世間では夕飯時だ。


「ご一緒させていただきます!!」


 田中家には本当に感謝している。こうして夕飯をご馳走になることもざらにある。


「いいって、親友なんだから!」


 隣に座っている浩二が、なぜか得意気な表情をしている。

 なんか腹立つな。


「あんたが作る訳じゃないんだから、威張らない!」


「はいはい」


 なんか親子の会話みたいだ。


「じゃあそろそろ行こう!」


 恵里は、ソファから立つと、ヒロの手をとり満面の笑みで言う。


「あぁ。っておい!ちょっ、引っ張るなって」


「ほら、さっさと来る!」


 浩二が俺の脇を抜けながら笑顔で急かす。


「お前ら元気いいなぁ〜」


 ホントに感心だ。こうまでいつも笑っていられるもんかね……。

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