47 避難所
同じ道を通ったので廃棄された車や崩れた家屋にも邪魔されず、魔物の集団に会うこともなく家に帰って来れた。
とりあえず着替えを数着、タオルや缶詰、包丁、貴重品などを鞄に詰める。それとラックが水を出せるようになったので水はそんな持って行かなくても大丈夫だろうとスポーツドリンクを一本だけ持ち、肩掛け鞄二つに納めた。リュックには森の時のように野宿するかもしれないので、レジャーシートやタオルケット1枚ずつ入れたら半分くらいまで埋まったのでこれだけにしておく。
なんでリュックの半分までしか詰めないかって?残りの半分には小さくなったクー太とラン、アキ、ラックが入るからだ。ちょっと窮屈かもしれないがまあ我慢してもらおう。
必要もないのに人目に晒して魔物だからと襲われても堪らないしな。
よし。小さくなったクー太たちをいれてっと。再出発だ!
あまりリュックが揺れないように全力では走らず軽めにしておく。軽めといっても今の俺の軽めなのでかなり速いだろう。
『ご主人さまー走りたいー。それか肩がいいー』
『私も』
『ワタシも頭がいいの』
「どうした?そんな揺らしてないつもりなんだがキツいか?」
『アキがじゃまー』
『アキが寝ちゃって足元で横になってるせいで狭いのよ。叩いても起きないし』
『ワタシはリュックの中でも浮遊してるので足元のアキちゃんは気にならないんですけど、やっぱり狭いです』
速度を落とし立ち止まる。リュックを下ろし…。
「すまないな。戦闘するときは頼むからそこにいてくれ。その代わりコレはこっちで預かる」
そう言ってアキを掴みあげた。こいつ…掴み上げても目を閉じたままだ。リュックの揺れ心地がちょうど良かったのか?
「アキ。起きないと、きのみやらないぞ?」
『きのみー……すー。』
反応したのにまた寝息を立て始めた。
全く。
シャツに付いている胸ポケットに強引に詰める。ワイシャツより胸ポケットが小さいから少しキツいのだ。
「じゃあ行くぞ。揺れは気持ち悪くなかったか?」
『大丈夫ー』
『平気だわ』
『浮遊してるからわからないの』
「ラックはずっと浮遊してて疲れないのか?」
『立ってるのとあんま変わらないの』
「ならいい」
その後はクー太とランのアッチに人が、ソッチに魔物が。というのを聞きながら、人間と魔物の集団を上手く躱しながら移動する。
遠回りになるが人と関わって助けたりとか、していたら時間取られるしな。こんなことになったから皆色々とあるだろう。その色々ある面倒事に首は突っ込みたくはない。
単体の魔物は気にしない。走って振り切るか、犬やゴブリン程度ならばすれ違いざまに走っている勢いで拳か蹴りを喰らわせれば大抵吹き飛ばせる。
『うぅ…。気持ち悪いのです…』
アキが起きたようだ。
「やっと起きたか?気持ち悪いなら下ろしてやるぞ」
『うぅ……?なんで、わたしご主人の胸ポケットにいるのです?』
「クー太達が邪魔だって言うからな」
『⁉︎ひどいのです!わたし何かしたのです!?わたしの事嫌いなのですか⁉︎』
「お前が鞄の中で寝てたせいでクー太達の足場がなかったんだよ」
『あ、そうなのですね。それはごめんなさいです』
『別にいーよー』
アキはその後リュックに戻り外の景色を眺めている。眠気は覚めたようだな。
そうして少し遠回りしながらも方角を確認しつつ走る。たまに水分補給のために立ち止まり、人気のない場所ならクー太達を外に出してやる。
『ご主人さまー』
「どうした?」
『誰か戦ってるー』
「お、本当か?」
クー太達から人が集まっている匂いがあるとかは聞いたことあるが、戦っている人の報告を受けたのは初めてだ。
正直警察や自衛隊が出て、魔物と戦っていないのが不思議だったのだ。避難と避難所の安全を優先させているのかもしれないが。それにしたって戦っている人がいないのは不思議だ。一般人でも俺みたいにレベル上げて戦っててもいいと思っていた。
一般人かはわからないが誰かが戦っているなら見に行ってみよう。
「案内してくれるか?」
『わかったー。じゃあ降りるねー』
『私も!』
『わたしも降りるです!』
『ワタシもなの!』
「ダメ。こっそり行くんだからクー太だけで」
みんなでしゅんとしなくても。そんな降りたいのか?
んー。でもな。ここは心を鬼にして我慢してもらおう。
『こっちー』
ぴょんっと飛び降りたクー太が走り出したので追いかける。クー太についていくと学校に辿り着いた。
避難所かね?物陰から学校の様子を伺うと、門は閉じられており、ゾンビやゴブリンが集まっており、魔物の周りには椅子やら消火器やら野球ボール、バスケットボール、バレーボールが散乱していた。
ああ。学校にある物を投げつけて攻撃していたのか。その割には倒れている個体は見当たらないが…。
というか動物系の魔物が来たらあんな門飛び越えちゃうだろうに。運が良いな。
ゾンビ達の隙間から見える門の向こうには金属バットや竹刀、刺股を持ってる人と物を投げつけている人が見えた。
大人しくしていた方がいいだろうに。騒がしくしたら動物系の魔物が寄ってくるぞ?
若い子が多いな。隠れていることに痺れ切らしたのか、それともスキル持ちか。
見ていたが得物も持っているだけで攻撃するわけではないし、物を投げているやつも門にぶつけたり、山なり投げており殺すどころかダメージも与えられていない様子だ。
戦闘職についた人間ってわけでも警察、自衛隊とかでもなさそうである。
興味も無くなったので少し手助けして移動するかね。
「クー太、ランは風刃と風球。アキはそこら辺の瓦礫を投擲。ラックは土球。連射して逃げるぞ」
『わかったー。連射だと五回しか無理ー』
『私は四回ね』
『瓦礫?ってことは身体を大きくした方がいいです?』
『わかったの!私も一度に出来る連射は五回だけど、その後集中して魔力練り直せば何度もできるの!でも威力弱いの』
「クー太とランは威力落としてもう少し打てるか?アキは…そうだな。大きくなって構わない。ラックはそれでいいぞ」
『ご主人様。私は?』
クロが影から出てきた。
「クロは遠距離攻撃の手段がないから待機だな。俺も石を投げるくらいしかできん」
『わかった』
『倒せるかどうかってくらいまで威力落とせば10回は打てるわ』
『ボクもー』
「ならそれで頼む。じゃあやってくれ。攻撃が終わったらすぐ俺のリュックへ」
そして攻撃が始まった。次々と放たれる魔法と瓦礫と石。門に集まっていた魔物はほぼ死んだようだ。攻撃が終わった子からリュックに戻ってくる。
アキが小さくなり最後にリュックに入ったのを確認し、踵を返す。追いかけてくる個体もほとんどいないし、十匹以上の魔物が門の前で死んでたら人間も追いかけてはこないだろう。
何事もなく移動を開始することができた。
それにしても…ゴブリンやゾンビくらいなら倒せそうなものなんだが…人型だから躊躇して殺せなかったのだろうか。
とりあえず収穫は特になかったな。先を急ごう。
先程までの要領で走り続け、人の匂いは見つけても避難していたり隠れたりしている人達のようなのでスルー。日が暮れた頃にやっと見覚えのある実家の近くまで来ることができた。
やっと、とはいうが六、七時間程度で何十キロ移動したのやら…。
さて。うちの家族は無事かね。