28 新たな面倒事
グレイに突撃した齋藤さんを落ち着かせ移動する。
朝イチで戻るって言っておけば齋藤さん達を連れこんな夜に森に入ることもなかったんだがなー。と思いつつも考え無しで行動したのは自分だからと諦める。
基本戦闘は夜目が利くクロとグレイ、フェリに任せている。ハクみたいな変異個体や大猿の集団じゃなければなんとかなるだろ。
クロ達はクー太の居場所を知らないので感覚を頼りにまっすぐ進んで行く。ある程度近づければハクやクー太が見つけてくれるだろう。
「そういえばテイマーになりたいと言っていたが、本気か?」
「はい!今職業選択に出てくるのは学生とフリーター、占い師でしたので」
「学生って…。学生と占い師の説明を聞いてもいいか?」
「はい!学生は転職時の選択肢がランダムで増える可能性がある職業、と。占い師は占いができるとだけ」
転職⁉︎やっぱりあるのか!どうやってやるんだ?
まあ転職条件がわからなければ何年経っても職業学生とかフリーターになってしまうし安易に選ばないのは正解だろう。
「なんか微妙、だな?学生を選べば適性のない職業を選べる可能性はあるが、転職の仕方がわからない時点では選ばないのは正解だな。占い師は何というか説明不足だな。未来を予知できたりしたら有用そうだが」
「ですよね!占い師は悩んだんですがやっぱり動物とお話ししてみたいです!」
「あ…。なら私は占い師になろうかな…」
「ん?ミミも占い師をもっているのか?てことは直感スキルも?」
「あ、はい。メイちゃんと違ってレベル1ですけど…」
「メイはレベルいくつ何だ?」
「レベル4です!」
「おお、すごいな」
レベル4での直感の精度はわからないが、クレナイや俺の居場所を勘だけで当てられたのだ。かなりすごいのだろう。
「んじゃあミミは職業設定しておいたらどうだ?メイは魔物を仲間にしないとテイマーは選択できないだろうし」
「わ、わかりました!」
あれだよな。テイマーになるのにテイムする必要があるとか、変だよな。
テイマーにならなくてもテイム出来るってことは、無職?テイマー以外の職?は常にテイム枠が1つだけあって、テイマーになるとテイムできる数が増えていくって感じなのか?
ならば戦闘職、あるかは知らないが剣士とか武闘家とかになって強い仲間を1匹仲間にしていた方が強いんじゃないだろうか?
まあ、いいか。
「あ、そういえばミミは他に何の選択肢があるんだ?」
「え?あ、あの、学生とパティシエがありました」
「ん?料理スキルだと料理人だろうし、お菓子作りなんてスキルがあるのか?」
「い、いえ。スキルのとこの、料理の隣にカッコお菓子とあります」
「(お菓子)ねぇ。派生とか特化したものが表示されているのか」
どんどんわからない事が増える。誰か攻略本でも作ってくれないかねー。
「あ、あの、占い師でいいですか…?」
「それは好きにしていいぞ?パティシエになりたければそれでも」
「……やっぱりもう少し考えてもいいですか…?」
「おう。焦る事はないしな」
『ご主人様なんか来る。たくさん』
たくさん⁉︎
全然魔物が出てこないから油断していた。そりゃそうだよな。狸や鼬鼠も基本夜行性だ。夜に活発になる魔物がたくさんいてもおかしくはない。
「クロは好きに動いていい。グレイとフェリは後ろを警戒しつつ、齋藤さん達を守ってくれ。齋藤さんたちはライトを正面に向けておいてくれ」
「に、逃げた方がいいんじゃないですか⁉︎たくさんってクロちゃんが…」
「だ、大丈夫ですか…?」
「なんとかする。それにこの暗闇じゃどちらにせよ追いつかれるだろう」
『旦那!人間の匂いがするっす!』
「だから旦那と呼ぶなと…。なんだって?」
人間と言ったか?追われているのか?なんでまた…。面倒事がこうも続くかな。俺はハクとクレナイのレベル上げをしなければならないってのに…!
薄情だって?そりゃあどこの誰ともわからぬ人よりクー太たちが優先だ。
まあ、助けるが。
「クロ、何がきてるかわかるか?」
『多分狼?五匹くらい』
「そうか。なら奇襲してくれ。その間にその人を助ける」
『わかった』
森狼5匹くらいなら問題ない。
おそらく狼達は追いかけて遊んでいるのだろう。普通の人間が狼に追いかけられて、しかもこの暗闇で無事なわけないからな。
クロが消え、すぐに狼の呻き声が聞こえた。
「おい!こっちにこい!」
こっちに向かって逃げてきたみたいだし、元から明かりに向かって走っていたのだろう。すぐさま俺の方へ来たので、入れ替わるように飛び出す。
チラッとライトの明かりで見えたが、女だった。しかも顔は傷だらけに見えた。
あーもう。今日はもう送り届けるのは勘弁だぞ。意地でもクレナイ達のレベル上げを優先してやる。
ライトの明かりは広範囲が見えるわけではないがしっかりと狼を照らしていた。
4匹か。あれ?もう1匹はクロが倒したのだろうか?
とりあえず1番近いやつに近寄り殴り飛ばす。
「キャィン」
三匹。さらに近くにいたやつに正面から駆け寄り顔を蹴り上げる。死んだかは知らないが倒れているから放置だ。
二匹。視線を向けると二匹は逃げようとする。逃げるならそれでもいいかな、と思ったその時。
「ガァァァ」
そのうち一匹が声を上げその場で暴れている。よく見るとクロが絡み付いて喉に噛み付いている。黒いから見えなかったよ。
もう一匹はクロに絡み付かれたやつに視線を向けている。それならば倒させてもらおう。と駆け寄り顔を蹴る。吹っ飛び動かなくなる。
ふぅ。灰色の森狼なら基本一撃で昏倒させられるな。死んでるかもしれないが。
クロが絡み付いていたやつも事切れたようで倒れた。
「クロそいつらから魔石取り出せるか?」
『大丈夫』
クロは手がないから魔石があるところを食い破って取るしかないから大変だろうな。後で菓子パンをやろう。
クロに任せてメイ達のところへ戻る。と、顔を青くしている?ああ。結構ショッキングか。魔物といえど生き物を殺したところを見たんだしな。
「すまんな。でも俺についてくるなら嫌でも目にするぞ?」
「だ、大丈夫です!少し驚いただけです!」
「は、はい…。私も…。やらなければならない事だとはわかってますので…」
この子達って二十歳くらいだっけか?俺の数個下だけどかなりしっかりと考えているんだな。
んで先程助けた人は…っと。座り込んでるな。ミディアムヘアーくらいの黒髪が、ボサボサになっている。
「大丈夫か?」
「…」
反応なし。と置いて行っちゃうぞー?と言いたいが、助けたのが無意味になるしな。
「喋らない、動かない。ってなら置いていく。俺らは用があるんだ。それと、街に送る気もない。街に行ったって人は居なかったしな。避難所がどこかも知らないし。決めるのはお前だ。助かったのにまた同じ目に遭いたいならそれでいい。助かりたいなら大人しくついてこい」
「中野さん…そんな言い方…」
「わかってる。酷いとは思うが疲れたのか精神的に弱ってるのかなんなのかは知らないが、助けられて礼のひとつ言えないやつを面倒見続けるほどお人好しではないぞ俺は」
「そう言われるとそうね…。ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます。わたしも連れて行ってくれないかしら」
突然助けた女が話し始めた。うんうん。礼を言えるのは大事だ。
俯いていた顔を上げたので顔に着いた傷がよく見える。俺より歳上か?まあ態度を変えるつもりはないが。
「その傷は?暗闇を走ってて転んだか?」
「ええ」
「事情を話せるなら話してくれ。とりあえず動けるか?」
「動けるわ。事情と言ってもよくわからないことになったから、昼間はずっと隠れてたんだけど、夜になってアイツらに見つかって逃げていただけよ」
「そうか。なら擦り傷や痣はたくさんあるが大きな怪我がなくてよかったな。メイとミミはこの人を支えてやってくれ。グレイとフェリは護衛だ。クロと俺が先行する」
『旦那。索敵しなくていいんすか?』
『旦那様大丈夫…?』
「ああ。暗いのになんかよく見えるんだ。夜目とかそういうスキルでも発現したんじゃないか?確認は後にするが。あとフェリ。お前まで旦那はやめてくれ」
旦那様って。グレイが旦那旦那呼ぶせいか?
『…?わかった…。ご主人様?』
「ああ。それでいい。グレイも旦那はやめろよな」
『努力するっす!』
こいつ…絶対旦那呼びを直す気がないだろう。地道に言い聞かせよう…。
「あなた…誰と話しているの?まさか動物と話してるとは言わないわよね…?」
先程助けた女を見ると変人を見るかのような目で…。おい。いや、何も知らなければ変人だと思うだろうが…。
「説明するが、その前に名前聞いていいか?」
「藤堂アキよ。貴方は?」
「中野だ。藤堂さん、な」
「呼び捨てでいいわ。そういうの苦手そうだし」
あれー?メイ達にも言われたが初対面の彼女にも言われた。そんな苦手そうにみえるか?これでもキチンと話すときはキチンとするんだがな…。
「固い呼び方とか苦手そうですよね!」
「う、うん。苦手そう」
メイとミミも藤堂に追従した。まじか。
はあ。
「いいから行こう。藤堂は明日の昼間に街まで連れて行ってやるから今は着いてきてくれ」
「わかったわ。固いのが嫌いなら名前で呼んでも構わないわよ」
「アキだっけか?うちの仲間にアキって名前のやつがいるから却下だ。アッキーとかでいいなら呼んでやる」
「いいわよ?」
「……冗談だ」
この女性、強がっているだけかもしれないが…いきなり距離が近くて面倒だ…。
さて、行こうかね。