213 嫌がらせ
風月たちと会話していると突如、ガコンッ! という音がし、赤い箱のこちら側の一面がバタンと外れた。
「俺の嫌いな魔物ねぇ…。ヨルは俺の中にいるんだろうが、スイは出てくるか?」
『出たい…です』
「出るのか? いいぞ」
スイが出たがったので【共生】を解除させ、ヨル以外の全員が戦闘態勢になる。
箱の中は何も見えないほど暗く、何がいるのかは分からなかったが、そこから赤い物が見えーー。
「うげ…」
「死毒ムカデ。好物は毒。らしいぞ?」
赤い物体を見た風月が鑑定結果を教えてくれる。
クレナイやウワバミなんかよりは体は細いが、恐らく体長はそれ以上だ。というかーー。
「あの箱どうなってんだ!?」
未だに体の端が見えず、ウネウネと管を巻きながら箱から出てくる赤ムカデ…死毒ムカデ。
「体を丸めればギリギリいけるのではないかのう…?」
「いえ、流石に無理があるのでは…?」
ハクの言う通り無理だろう。
『長いねー?』
『美味しくなさそうね』
『…不味そう』
「意外と美味しいかもなの!」
『食べたくない…です』
クー太、ラン、フェリ、ラック、スイがそれぞれ感想口にするが、食べなくていい…というか食べないでくれ。
体が出きってないからかまだ襲っては来ない。しばらく見ているとどう頑張っても箱に入らないであろう長さの体が全て出てきた。
「おいおい。何十メートルあんだよ。というか足何本だよ」
百メートル以上あるんじゃないか?
「むっ?」
「風月どうした?」
「…まだ出てくるようだぞ」
風月がそういうので箱に視線を移すと、また赤い物体が見えた。
「ムカデのおかわりとか勘弁してほしいんだが…」
「…ムカデじゃないのう。死毒ミミズ。好物は腐葉土。…らしいぞ?」
…またニョロニョロかよ。邪神は試練とか言ってたが、完全なる嫌がらせだろう…これは。
ミミズが気持ち悪すぎて尻込みしていたが、何故かムカデは襲って来ず、ミミズが完全に箱から出てきた。
「早く倒した方が良いのではないかの…? また別の虫がでてきたぞ? 死毒ナメクジ…赤いナメクジだの。これ、死毒と名のつくお主の嫌いな生き物がまだ出てくるのではないかのう…」
「最悪だな…」
俺を慮っての試練でもちょっとした嫌がらせでもない。
地獄だろ。
「んじゃあ…手始めに【火魔法】で爆炎っと」
ドォォォン!
スキルが【火魔法】で統一されたのでイメージできる魔法は発動できる上、範囲や威力の強弱の調整もある程度できる。
それに声に出す必要もないのだが、どんな効果の魔法か声に出す方がなんとなくしっくりくるので口に出している。
爆炎と呼んだ魔法は作った火球が着弾すると同時に爆発するものだ。それにやりムカデの頭が物凄い爆炎に包まれる。
そして、爆炎が収まるとほぼ無傷のムカデがーー。
「本気でやった方が良いぞ!」
風月はそう声を上げながら風の魔法を連発する。だが体を切断するには至らず無数にある足の一本を切断するだけで終わった。
「おい…まじか。本気とはいえないが、それなりに魔力込めたぞ?」
「魔力はそんな多くはない…と思う。魔力に動きもなかったから防御が阿呆みたいに高い種族か、魔法耐性や防御をあげるスキルを持っているか…だのう」
「キシャァ!」
死毒ムカデは怒ったのか毒液を広範囲に飛ばしてきたので散開して避ける。
更に死毒ミミズが地中に潜ったため地響きと揺れがひどく、ハク程の大きさの死毒ナメクジがこちらに迫ってきている。
しかも箱からはゆっくりと新たな魔物が出てきているところだった。
「面倒くさいな…ッ。 全員でムカデをやれ! 俺はミミズとナメクジをやる!」
「【憑依】するかの!?」
「いい! 風月もクー太たちとムカデを叩いてくれ!」
虫なんだし火と風が一番相性がいいと思うが…ムカデにはあまり効いている様子はなかった。
とりあえず未だ地面に潜っているミミズは放置し、ナメクジに向かって片っ端から魔法を試す。
手始めに【紫紅爆】。
その後技名は特にないが【火魔法】でぶつかると爆発する火球。【風魔法】で竜巻と風刃を掛け合わせたような魔法。
更に【水魔法】で水球。その水球に【雷魔法】で帯電させた魔法。
【土魔法】で地面から槍をいくつも生やす。
そして【光刃】【闇刃】【木刃】を次々に放っていく。
「魔法耐性高すぎないか!?」
効いてはいる。所々切れて血らしき液体も出てるし、焦げてもいる。だが、突進速度は落ちない。
チッ。油断してた。試練って俺が嫌いな魔物を出して苦手意識を克服すればいいんだろ。くらいにしか思っていなかったが…
報酬付きの四十一階層。そりゃあ片手間で倒せる敵なんて出さないよな…。
…だが、それにしたって難易度上げすぎだろう!? 今の魔法全部かなり本気だったぞ!
ミミズが俺の足元に来ていたので【浮遊】を使い宙に浮く。
「【魔装】! 【邪纏】…と【魔圧】! 【精霊化】!」
【魔圧】と【邪纏】は本気でやる。
進化したクー太たちなら耐えられると信じて。ナメクジが飛ばしてくる粘液を避けつつ、クー太たちをチラリと見ると驚いたようだが、動きに支障はなさそうだ。
まあ…ムカデもナメクジもミミズも。新たに出てきたカマキリにフナムシみたいなキモいのも一瞬、怯えたのか動きが止まったくらいで気絶することはなかったが。
「くそ邪神っ! こんな強い奴ら生み出せるならっ…こいつら使って魔族を殺れよっ!」
更に【拳術】と【蹴術】の[拳強化]と[脚強化]。
[急所看破]に手足に[火纏波]を発動し、無銘剣を取り出す。
初めから発動している【身体強化魔法】と【硬化】に加え、【魔装】【邪纏】【魔圧】【精霊化】。
更に[拳強化][脚強化][急所看破][火纏波]の十個のスキルを同時発動する。
今の俺は【精霊化】で風と雷を纏いつつ、手足に火を。更にその上から【魔装】で魔力そのものを纏う。
その上で一番効き目のあった着弾と同時に爆炎を発生させる火球ー名付けるなら安直だが『ボム』ってとこかーを複数発生させている。
『こんな時に…とは思うが言わせてもらうの』
風月から【念話】がきた。
『っと! なんだ?』
ナメクジ、ミミズ、カマキリ、フナムシっぽいのの攻撃を避けながら返事をする。
『【邪纏】と【魔圧】。全力でやってるかの?』
『ああっ! あんま効いてないが…心なし動きが鈍くなってるから使って、いる…ぞっ』
『魔王という称号を贈ってやりたいほどの禍々しい存在感だのう』
『本当にこんな時に言うことじゃないな!? というかさっさとムカデ倒して来てくれ! こいつら連携でもしてるのかってくらい隙間なく攻撃してくるから面倒だ!』
「ふむ…。こっちはやられることはないが、火力が足りないのう…。見えてると思うが我らも全力だぞ?」
お前は余裕そうだけどな!?
まあ視線をチラリと向ければ嫌でも見える。こう会話しながらも風月は魔法を打ち続けているし、ハクが【使い魔作成】を使っているのか狼が何匹も見える。
クー太たちも森の中だったら辺り一面焦土化しているのでは? という威力の魔法を連発している。
『こっちも余裕ないっ! まだ一匹も殺せてないっ。速さは俺の方が上だから避けられているが、これ以上増えたら…面倒くさすぎる!』
そんな【念話】をしつつ視線を巡らせるとアリの魔物がゾロゾロと赤い箱から出て来ているとこだった。
「あっ…の、邪神! 俺が死んだらどうすんだ!?」
飛んではいるがここには天井があり、魔物もかなり大きいから逃げる場所は限られている。しかも、たくさん出てきた巨大アリみたいな奴らは蟻酸なのか毒なのか溶解液なのかはわからないが、とりあえず緑色の液を宙に向かって吐いてくる。
そういや、魔物の名前が死毒○○だし、毒か。
凄いのは宙に向かって吐き出しているのに他の魔物にその液体は掛かっていないのだ。お互いの位置をちゃんと把握しながら使っているのだろうか。
アリを観察しながらも避けているとカマキリの鎌が目の前に来ていた。
「やばっ! くそっ…」
咄嗟にガードしたが、鎌が俺へと振り下ろされた。




