212 ボーナススタージ?
お待たせしました。
「まったく…ハクまでそんなはしゃぐとは思わなかったな」
「申し訳ありません…」
しゅん、と俯いてるハクと満足げなクー太とランとフェリ。
「息抜きは必要なの!」
「別に怒ってはいないから気にするな。ラックのいう通り息抜きは必要だしな。いつもしっかりしているから、意外だったってだけだ。普段から…とは言わないが、たまには我慢せずはしゃいだって何も言わんさ。いつも皆を纏めてくれて感謝しているし」
「ありがとうございます…。久々の地上だったので…あと進化したての体だったので、つい…」
「あーそうだな。休憩はいるか?」
「いえ! 先程のが休憩みたいなものでしたので大丈夫です」
『ぼくも大丈夫ー!』
『私も元気よ!』
『…同じく』
「あんだけ走り回ったのに大丈夫なのか…。まあキツかったら【共生】して俺の中に入ってくれ」
…俺の中に入れってなんだか変だな?
「かしこまりました。それと、扉のようなものを見つけたのですが、案内しますか?」
扉…?
「大穴じゃなくて扉があったのか?」
「はい」
「扉ねぇ…。ちなみに魔物は、やっぱりいなかったか?」
そう聞くと全員首を横に振るので、風月が言っていた通りかと納得した。
ハクの案内…というより背に乗り、ハクが見つけた扉まで向かった。どうも俺がヨルとスイの背に乗っていたことにヤキモチを妬いていたようで、いつもは断るとすぐ、諦めるのだが、早く着きます。とか、進化した速度を体感して欲しい。とかハクがゴネたのだ。
我儘になったってより、気持ちを表に出せるようになったのだろうか?
そう思いつつ、頑なに断る理由はないので、もふもふ、ふわふわの毛並みを堪能しつつ短い騎乗を楽しんだ。
広いダンジョンとはいえ、見通しのいい階層だ。そう時間が掛かることもなく扉が視界に入り、間もなく辿り着いた。
「ほお…大きいな」
にしても、何故大穴じゃなく扉なんだろうか? 四十一階層からまた趣向が変わるのか?
「んじゃ、行くか。この階層にはなんでか魔物が居ないみたいだし」
「探索しなくて良いのか? 魔物がいない、ということは、邪神に戦闘以外に思惑があるのかもしれぬぞ?」
「ご主人様! お宝があるかもなの!」
扉に手を掛けようとすると風月とラックにそう言われた。
「別に良いだろ。仮になんかしら思惑があるとして、わざわざそれを推察して動いてやる必要はないし」
「ラックの言う通りダンジョンらしく宝があるかもしれぬぞ?」
「…」
宝…なぁ。
不思議アイテムとかは武器、後は防具的なものなら欲しいと思うけど…。
「面倒だし、行こう」
「まあそういうとは思っておった。心残りがないのなら良い」
そんな心配しなくてもそんなことで後悔しないけどな。余程珍しい魔物がテイム出来なかった、とかじゃない限り。
他に後悔することってなんだろうか? 自分だけのことなら諦めが結構早い…というか面倒だからその時やらなかったのは自分だからと割り切れるしな。なんて思いながら扉を両手で押し開けた。
「…へぇ」
「趣きが変わったのう…」
『草原が良かったなー』
『そうね。走りにくそうだわ』
風月、クー太、ランがそれぞれ感想を言う。
確かに趣きが変わったし、走りにくそうだ。
扉の先には大理石みたいな艶々の白っぽい石畳が広がっており、その先には大きな箱が見えた。
クー太たちに、一言告げ扉を潜ると、正面に大きな赤い箱があるのが見えー—。
『ボーナッスッステージ!!』
邪神の声が聞こえた。
『ご主人さまーボーナッスッステージってなにー?』
「は? クー太も邪神の声聞こえたのか?」
『うん。邪神さんの声聞こえたー』
『私も聞こえたわよ』
『私もです』
『…聞こえた』
「聞こえたの! ばっちりなの!」
「うむ。聞こえたのう」
ラン、ハク、フェリ、ラック、風月も聞こえたらしい。
「ヨルとスイも聞こえたか?」
『何も聞こえなーい』
『聞こえなかった…です』
【共生】してると聞こえないのか?
「そうか…。クー太。ボーナッスッステージ、じゃなくて、ボーナスステージな。邪神の言葉を真に受けちゃだめだぞ?」
『うーんー? …わかったー!』
本当にわかっているのだろうか…?
『適当に聞き流しておきなさいってことよ!』
『わかってるもんー』
『絶対わかってなかったわ!』
『わかってたもんー!』
…ランとクー太が言い合い…戯れ始めた。可愛いな。
「んで、ボーナスステージってなんだ?」
…………。
おいこら。返事しろよ。
『そろそろいいかな? まず初めに、これ録音だから話しかけても返答できないからよろしくね!』
…録音の念話かよ。
普通に念話した方が力の消費少ないんじゃないか? どうせ見てるんだし、普通に念話しろよ。何無駄なことしてんだ。
『箱が四つ見えるかな?』
四つ? 赤色の箱しかないがーー。
『三つの箱は人間用の武具が入っている箱、魔物用の武具が入った箱、珍しい魔物が入った箱だよ! 赤い箱には君の嫌いな魔物がわんさか入っているよ!』
よく見てみると、赤い箱の後ろ、重なるように青い箱があり、更に両脇には宝箱っぽいのがあった。
それより…なんだ。俺の嫌いな魔物って。嫌がらせか?
『なんでこんなことをするか疑問かい? 力は余計に使うんだけどね。他の神たちにマコト君を優遇しすぎじゃないか? って言われちゃってね。だからただであげるんじゃなくて、ちゃんとダンジョンの試練とその報酬ってことにしてみたよ! それでも渋い顔をされたけどね。あはは!』
…本当に無駄な力使うんじゃねぇよ。
『まあそんなわけで、この声が録音なのは僕は今、力を回復するための休息中なんだよね。多分、君がダンジョンを出るまでに回復できてないと思うから、質問は受け付けられないからよろしく!』
…だからなんでそんな無駄に力を使う。他のことに力を使えよ。
『五十階層に君の拠点の君の部屋に続く扉があるよ。それと戻れば分かると思うけど、城の入り口とは反対側に約束してた島への転移門も設置してある』
…仕事が早いことで。
『あっ。あとあと、君の拠点付近が面白いことになってたよ! それと魔族が日本に入ってきたみたいだから気をつけてね! じゃあまたね!』
「おいっ! 待て! …って録音か…」
あいつ最後に一番重要なことをパパッと離して終わりにしやがった。
面白いことってなんだよ。魔族どうなってんだよ。
ダンジョンに力使うなら日本に入れるなよ。とか今の俺で魔族とやり合えるのか。とか…色々言いたいことが増えていく。
「はぁ…。面倒くせぇ…。さっさとダンジョンを出て魔族狩ってバカンスでもするか…」
「ご主人様? 島ってなんでしょう?」
ハクが島が何かを聞いてきた。ハク以外も、何それ? といった感じなので、簡単にどんな場所か教えてやる。といっても俺も実際に見たわけじゃないから邪神の話していた内容をそのまま話しただけだが。
「お主…本当に神に好かれておるのう」
風月が呆れを含んだ目を向けてきた。
「なんでだろうな。本当わけわからん。まあ好かれてるってよりも日本で…いや、世界で? 俺が人間では一番強いらしいから、目をかけてもらってるって感じだろうけどな。俺以上に強い奴が出てきたらそっちにいくんじゃないか?」
「世界最強の人間かの…。うむ。良い響きだの。誰にも負けるでないぞ?」
「なんでだよ…。別に一番になりたいってわけじゃないし、レベル上げに飽きて、脅威を排除したらのんびりするぞ? もちろん負ける気はないが」
今の世界だと、負けイコール死だろうからな。負けられないが。
「脅威を全て排除できたら、人間という括りではなく真に世界最強となるのう」
…確かに? まあ邪神が色々とくれるし、まだまだ行ってみたいところもあるし、レベル上げに飽きたわけじゃないからな。
「まあなるようになるさ」




