24 何もなかった理由
歩き始め少しすると齋藤さんがこちらへ来た。前の二人は止まらず歩いているので何かあったわけではないだろう。
「どうした?」
「中野さんが暇しているだろうと思って、話し相手になってあげにきました!」
「いや、構わないから戻れ」
「嘘です嘘です!邪険にしないでください!クー太ちゃんたちのことを聞きたかったのです」
クー太のあたりは声を抑えているのも見るとバレないように気は使っているようだ。
「何を聞きたいんだ?俺も今日出会ったばかりだしそんな多くは答えられないと思うぞ?」
「あ、それです。今日出会ったって木や草が急成長して、動物たちが大きくなって襲ってくるようになってから、ってことですよね?」
「そうだぞ」
「あの猿たちや蜘蛛はどう見ても友好的ではなかったですけど、中野さんの仲間は大丈夫だったんです?」
「いや、クレナイとハクと戦いになったぞ」
「え、だ、大丈夫だったんです?かなり強そうでしたよ?」
「まあなんとかな」
「そうですか。あ!そしたらクー太ちゃんとランちゃん、アキちゃんはどうだったんです?」
「クー太は近づいてきたから菓子パンをあげたら懐いて、ランは魔石。魔物の体内にあるエネルギーの塊みたいなものだな。それをあげたら懐いた。
アキはクレナイが咥えて持って帰ってきてくれたから、仲間になるか聞いたら仲間になった。
という感じだな」
「なに魔物を餌付けしてるんですか…。アキちゃん哀れです…」
「俺も少しそう思う」
「あ、それでですね。ステータスのこととかミミちゃんたちに話してもいいですか?」
「好きにして構わないぞ。あ、でも街に帰ってからな。また足止めを喰らうのは勘弁だ」
「わかりました!さっき自分のステータス眺めていたんですよ。で、職業ってあるじゃないですか?設定の仕方がわからなかったのと、中野さんの職業はテイマーとかサモナーとか召喚士ですか?」
「俺はテイマーだな。職業設定したいと念じれば候補が出るぞ。俺の予想になるんだが、職業の選択肢は覚えているスキルに依存するところがあると思う。だからもしなりたい職業がなければすぐに決めることもない。
例えば料理人になりたければ料理スキルを覚えてから設定すれば料理人が候補に出てくるはずだ」
多分、そうだ。
「中野さんすごいですね。めっちゃ適応してるじゃないですか。レベルの上げ方はやっぱり魔物を倒すことです?」
「そうだな。これもちゃんと検証したわけではないが、自己鍛練や模擬戦でもレベルは上がる。模擬戦は魔物相手じゃなきゃ上がらないのか、人との模擬戦でも上がるのかはわからないが」
「へえ。私も色々試して見ますね!」
「ただ歩きながらステータス確認して転ぶなよ?」
「大丈夫です!」
この子なんか危なかっしいんだよな…。
その後はクー太たちはどんな子か。話せるようになって楽しいか、などクー太たちについて物凄い聞かれた。
まあ確かに暇つぶしにはなったな。本当に気を遣ってくれたのだろう。
さて、だいぶ歩いたが未だに大赤蛇も魔栗鼠も魔狸も出ない。てか生き物が出てこない。何故だろうか…。ここまで出ないと不気味だ。
「結構歩いたな。休憩は平気か?」
「あっ。うーん。まだ痛みますけどクー太ちゃんのお話聞いていたら痛いの忘れてました!」
この子やっぱり阿呆だろう。
今は…十八時前か。戦闘もなかったし、そろそろ着いてもいいと思うのだが。でもどこまでこの森が広がってるかもわからないんだよな。
俺が初めにいた辺りから、クー太とランが人の匂いを感じ取れると言っていたよな。だからそこから二、三十分歩けば外に出られると思うのだが…。俺が移動するときに付けた印が見つからない。まあビニール結んだ程度だしな。少し離れれば見えないし、風で取れたかもしれないから当てにはならないか。
「休憩はいいか?」
「はい!そろそろ着く気がしますし!」
直感スキルを持っているこの子が言うのだ。本当にもう少しで着きそうだ。
「メイちゃん!」
高山さんが齋藤さんを呼ぶ。
なんであいつ齋藤さんは下の名前で森田さんは名字で呼んでいるのだろうか?よくわからないやつだ。
「呼ばれたので行ってきますね。どうされましたー?」
「おう」
齋藤さんがかけていった。足は大丈夫そうだな。
何か話したと思ったら齋藤さんがこちらに声をかけてきた。
「中野さん!あそこ!外に出れそうです!」
少し左前を指差すのでそちらを見てみると、確かに木々の切れ目のように見える。ただの広い空間じゃなきゃいいが。
早足で向かう三人を追いかけると外に出た。
え…?確かに外にはでた。が、なんだこれ?建物を貫く形で木が生えていたり、アパート?らしきものがあるのだが、緑だ。苔、か?木に貫かれた家は半分くらい風化したかのように崩れている。瓦礫とかはあまり見当たらない。
納得してしまった。齋藤さんは俺らがいたところも建物や道路があったと言っていたがなにも見当たらなかった。木々や草花が生えたところは人工物が崩れて失くなっていったのだろう。
それと同時に恐怖を感じる。俺こんな状況で寝てたんだよな…?俺も木に貫かれたりして死んでいた可能性もあったのだろうか…。
呆然としている三人に近づき声をかける。
「人はいなさそうだ。もっと先まで行ってみよう」
「は、はい…」
「これって…」
「な、なんで君は冷静なんだ!」
「俺に怒鳴られても困る。ここでジッとしていてもどうしようもないだろうことくらいわかるだろう?」
「そ、そうだが」
三人を促し移動する。その時視界の端に動くものが映ったのでそちらを向く。
なにも、いない?いや、確実に何か動いただろう。
「先に行ってくれ。少し気になることがあるから後から追いかける」
「わ、わかりました!気をつけてください」
齋藤さんに見送られ離れる。
高山さんは訝しげにしているがなにも言わない。
右側の崩れた建物付近だ。なにが出ても反応できるよう慎重に向かう。
ふむ。建物の周りにはなにもいないし、中か?でもこれ入ったら崩れるだろう。
「おい。誰かいるんだろう?出てきてくれないか」
声をかけてみるが反応はない…。どうするかなー。絶対何か動いたと思ったんだが。崩れた瓦礫が落ちただけか?と思ったら建物を貫いた木の影から何か出てきた。
「っ!?」
黒蛇だ。びびった。咄嗟に構えるが襲ってくる様子はない。こいつ…もしかしてあの時の蛇か?
「仲間になるか…?」
《黒蛇が仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》
【Yes or No】
まじか。Yesで。
《黒蛇が仲間になりました。テイムした魔獣に名前をつけてください》
おお…。




