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閑話 三十五日目

ここまでの本編よりも数日前の話です。



中野が拠点から消え三十五日目


朝、いつもと同じようにルリが城内と城壁周りの集落を皆に挨拶しながら歩いていると慌てた様子のランが駆け寄ってきた。


『ルリ! ルリルリー!』


そう、ルリの名を呼びながら胸に飛び込むラン。

慌てていても、ルリがマコトと違って非力であることはちゃんとわかっているのか寸前で止まってから飛び込んだ。


「あら? ランちゃんのどうしたの? なにかあった?」


『うぅー! ご主人様が…ご主人様が!』


「マコト? マコトがどうしたの?」


ステータスに新たに発現した【直感】。ルリは意識的に使えば、嫌な予感、良い予感といったものをはっきりと認識できるようになっていたため、マコトの名前を呼びながら飛び込んできたランを見ても大したことではないと直感していた。


『…クー太だけ呼んだの! 私置いてけぼりよ!』


「…どういうことかしら?」


はて。クーちゃんだけ呼んだとは? そう疑問に思い首を傾げる。


『わからないわ! でも! ご主人様の気配がしたと思ったらクー太が消えたのよ! 絶対ご主人様が魔法か何かでクー太を連れてったわ!』


どうやって、だとか、マコトが無事でよかったと思うが、まずはランを宥めるのが先だと思ったルリは柔らかな毛並みをそっと撫でる。


「置いていかれちゃったのね。でも大丈夫よ。クーちゃんがマコトのところに行ったってことは、ランちゃんも行けるということだから。もう少し待ってましょう? すぐ呼ばれるかもしれないわ」


『うぅー! けどっ! クー太が先なのが気に食わないわ!』


「…一応クーちゃんがマコトの初めての魔物なんでしょう? 何事も順番っていうものがあるわ。ランちゃんのことだってマコトは大切にしてくれるでしょう?」


「そうだけど…。ハクちゃんたちにはもう伝えた?」


『ううん。まだよ』


「伝えてきたらどう? クーちゃんがマコトのところに行ったことを知らなかったら心配するでしょうし」


『そう…そうね。わかったわ。ありがとうルリ』


ピョンッとルリの腕から飛び降り駆けていくランを見送る。


「無事でよかったわ…」


スキルとして【直感】、そして母としての勘で。二重の勘で、マコトは大丈夫であると思っていたが、いざ、ちゃんと生きていることが分かって安堵するルリ。

少し前にもマコトから念話が来たと報告があったから無事なのはわかっていたが、心配なものは心配だったのだ。


その日の夕刻。突然、作業をしていた魔物や遊んでいた魔物たちが虚空見つめ動きを止めた。

ルリも集落の住人も何事かと思ったが、それは短い間だけで皆いつも通りに戻った。上機嫌になった上で、だが。


それを見たルリはマコトから念話が届いたのだろうと思い、後でどんな話をしたかハクちゃんかクレナイちゃんに聞こうと思った。

あの二匹の説明が一番わかりやすいと思いながら、城に戻るとクレナイが出迎えてくれた。知らない魔物と緑髪の女の子と共に。


「ラン殿、ハク殿、フェリ殿、ラック殿は主様の下へ行きました。ここにいる四体が入れ替わるように来たようです。キキ殿。こちらが主様の母殿です」


「マー君のお母さん? よろしくね!」


「マ、マー君!?」


ガーン!?


そう効果音が聞こえてきそうなほど目を見開くルリ。


ルリがそう呼ぶとマコトはもう子供じゃないんだからと、嫌がるのにこの子にキキが呼んでいることに少なからずショックを受けるルリ。そして帰ってきたらマー君と呼んでやろうと決意する。


「あれ? マー君って呼んだらダメだった?」


「いえ…気にしなくて良いわ。私はルリよ。よろしくね」


「よろしく! この子はルナ。こっちはシルバで、こっちがカシって名前! 仲良くしてね!」


キキがキングミミックスライム、天火、炎毛豚の紹介をする。今のカシは小さい体になっているのでキキの足元に小柄の魔物が三匹いる状況だ。


「可愛いわね! シルバちゃんは…触ったら熱いのかしら?」


「触って大丈夫だって言ってるよ!」


声が聞こえないルリの代わりにキキが通訳する。それを聞いて恐る恐るシルバを触るルリ。


「あら…? 感触があまり無いわね? 手に何か触れている感覚はあるけど…水蒸気に触れている感覚かしら?」


次にルナ、カシと、ふにふにとさらさらの感触を楽しむルリ。


『やぁ! 忘れていたよ! ルナ君たちも共有しておいてあげるね! …はい! 完了! じゃあねー!』


「あら…? 邪神さん? 待ってくれるかしら?」


邪神から突然の念話にも大した驚きも見せず呼び止めるルリ。


『…どうしたんだい?』


「マコトが戻ってきたらこの子達と話せなくなるのですよね?」


『共有がなくなるからそうなるね。嫌なのかい?』


「もちろんよ。だからマコトが帰ってきた後も会話できるような方法を聞きたいのです」


『うーん…。【念話】が使えれば…でもレベルを上げないと配下じゃない魔物との会話は難しいか。【読心】…はあげるのは難しいかな。他のも…流石にマコト君のお母さんだからってあげるのは…ああ…でも』


「いえ、スキルを授けて欲しいというわけじゃないのです。詳しくは知りませんが、マコトは貴方の目に止まって、貴方の望むような貢献をしているから便宜を図っているのでしょう?」


『そうだねぇー』


「ですが私は特に何もしていないので。本来なら世界をこの様に変えるほどの方と話すことも不可能ですし、被害にあった方を思えば元凶である貴方と言葉を交わすのも憚られますが…」


『さ、さすがマコト君のお母さんだ。僕が超常の力を持って世界を混乱に陥れたとわかっていて、臆面もなく元凶だと言ってくるとは思わなかったよ…』


「気分を悪くさせたならごめんなさい。ですが、貴方は悪い神では無いと思っているから私もこうやって会話ができるのです。なんだかんだ言ってマコトが本気で貴方に怒りを向けていませんし、共有に関しても便宜を図ってくれますしね」


『ついこの前、君の息子に本気の殺意を向けられたんだよね…』


「あら…でも会話に耳を傾けてくれるうちは大丈夫だと思いますよ?」


『そうだと良いね。それで魔物たちとの会話だよね? 【以心伝心(魔)】をあげるよ。【念話】と同じでレベルを上げないとちゃんと会話はできないし、声の届く範囲でしか意思疎通はできない、更にある程度親密にならないと声は聞こえないけど…レベルを上げれば敵意のない野生の魔物とも意思疎通ができる…ようになるかもしれない。相手が敵対的じゃない上に知能が高くないと無理だけどね』


「いいの…ですか? 先程言ったように私は何もしていませんが」


『マコト君を借りているしね。その分魔物たちの面倒を任せちゃっているし、それは僕が原因だから。でも特別だよ? 基本的に、余程の理由がない限り一個人に干渉するのは良くないからね』


「はい。ありがとうございます」


『じゃあスキルレベル上げ頑張ってね! もうしばらくマコト君は帰ってこないから魔物たちのこともよろしく! じゃあね!』


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