閑話 二十日目
本日は閑話です。
魔物たちや登場人物の視点ではありません!
第三者視点でメイに視点を当てたお話です。
こういった形式は初めてなので拙いと思います。ご容赦くださいm(__)m
マコトが消え二十日。
その日はいつもと違う喧騒によってメイは目を覚ました。
「ん…。なんか騒がしくないです…?」
目を擦りながら疑問を口に出すと右側から返事が返ってくる。
「本当ね…。ちょっと見てくるわ。メイちゃんはミミちゃんのこと起こしておいてくれるかしら?」
「ふぁ…。わかりましたぁ。お願いしまぁす」
メイは右側で寝ていた藤堂が拠点から出ていくと、左側に寝ているミミを揺すりながら声をかける。
「ミミちゃん起きてー。もぉー。ミミちゃんってば本当朝弱いんだから…。……マコトが帰って来たよ」
「っ!? マコトさん!? 帰ってきたの!?」
「おはようミミちゃん。マコトさん? 帰って来てないけど夢でも見たの?」
「夢…? え、でもメイが今…」
「私何にも言ってないよ? 藤堂さんとは話してたけどね。なんか外が騒がしいから起きよう?」
「うん…夢かぁ…」
ミミはマコトが帰って来たという話が夢だと認識し、肩を落とす。
一方メイは毎日毎日同じセリフで起きてくれるミミが可愛くて面白くて、眠気が薄れはっきりとしてきた意識で笑わないよう努める。
二人が…否。藤堂を合わせ三人で寝ていた拠点はマコトの建てた城ではなく、洋風の一階建ての一軒家だ。ヨーロッパで見られる趣きの建物である。
「ほら、支度しよ? お城じゃないから外に出るのに時間はかからないけど、また騒がしいし早く見に行こう?」
「うん。それにしてもお城の寝具とか設備は最高だけど、やっぱり外に出るのが大変だよねー。メイの作ったここは、その分楽だよねー」
「あー、そうかも。エレベーターでもあればいいけど…帰ったらマコトさんに提案してみたら?」
「…面倒って一刀両断されそう」
「あははっ。確かに。でもミミちゃんの話す練習も兼ねて言ってみなよ!」
「頑張る…」
現在、二人のいる拠点はメイが作ったものである。色々と試行錯誤の結果、ただ単にスキルを発動した場合はレベルや魔力量に伴って大きさや形が一定の拠点が出来上がるが、細部までしっかりとイメージしながらスキルを発動させることによりそれが実際の物となることがわかった。
本来、現在のメイのレベルと魔力量で作られた拠点は巨大なコンテナを三つ積み上げた物であった。
内部は三階まで1LDKの階段付きで、ガス台(ガスではなく魔力を注ぐことにより火をおこす、いわば魔力台)や水道もあったが、壁紙や調度品もなく、メイとミミの目からは無骨の一言であった。
しかし今の建物は外壁はレンガで、内装も白い花柄の壁紙に、テーブルや冷蔵庫、カーペット、ドレッサー。更にはドライヤーや食器の入った食器棚、服の入った洋服ダンス、魔力で動くエアコンや炬燵まで完備されている。
内装は完全に実家をイメージして作ったものである。
そこでメイたちが思い至ったのは創作物にある創造魔法のような物ではないか、ということだった。
これは間違ってはおらず、拠点はイメージした生活に必要と本人が思っている物なら結界つきの建物と一緒に作成できるのである。
魔力とレベルに比例して作れる物が限られるのは事実のため、全てがイメージ通りとはいっていない。
実家を元に作成したとはいえ全てを事細かに覚えているわけではないため洋服ダンスの服はお気に入りの数着、食器も毎日使っていた物しか入ってはいなかったが。そして拠点で作られた後、新たなものを生み出したりはできない。
更に、コンテナ状ならば三階建まで作れた物が一階建に、そして結界の効力も落ちてしまっていた。
「服…もう少しほしいね…」
洋服ダンスに入っているメイが拠点作成時に作り出した服と、元々持ってきた物、マコトが調達してきた物を見てそういうミミ。
「そうだねぇ。普通だったら充分なんだけど、戦闘したり森に入ることを考えると、ここにある服だけじゃ着る物がなくなるのもそう遠くないよね…」
森の中を移動しているだけでも草や木の枝などに服が引っかかって駄目になってしまうことが多いからだ。
だが、メイとミミ、ルリとセイジは周りから見ると贅沢な悩みである。
他の者は大した荷物など持たずやってきて、マコトがホームセンターなどで調達した服を皆で分け合っているため服の数はそう多くない。しかもレベルが低い者たちは肌を露出した状態で森にはいると草や枝で傷だらけになってしまうので長袖長ズボンしか着ることのできるものがない。
そのため日々の作業で土に塗れ、歩き慣れない森に入ってぼろぼろになったものは当て布を付けたり繕って生活しているのだ。
メイたちとの差に不満が出そうなものだが、現在、拠点にいる者たちはメイ、ミミ、ルリ、セイジを何かあれば守ってくれる強者、そして魔物たちの主である絶対的強者であるマコトの身内ということでそういう思いは抱いていない。
「じゃあ行こっか」
「藤堂さん戻ってこないし…ね。メイはその格好で行くの?」
「うん。駄目、かな?」
明らかに戦闘に向かない服を着ているメイを見て心配するミミ。
「他の人たちに何か言われない…? 一人だけオシャレしてると」
「え? オシャレ…なのかな? でも言われたことないよ? それにこの格好でも動けるしね」
「スカートなのに…パンツ見えちゃうよ?」
「流石に下に履いてるよ!? せっかくあるんだから着ないとでしょ! それに私だって一人だけ綺麗な服着てるのもなーって思って、同じくらいの年の子に着ないか聞いたけど、これ着ては逃げられないからいらないって言われたし…」
「まあレベル一桁でスカート履いて森の中を駆け回るのは無理だよね…」
「うん。だからいいかなって。何か言われたら考えるけど、皆何も言ってこないし、嫌な視線も感じないし…」
「そっか。メイが大丈夫ならいいの。じゃあ行こっか」
「うんっ」
二人が外に出るとガヤガヤと声は聞こえるが、見える範囲に人はいなかった。
そして玄関から裏に回るとマコトの作った柵が見える。そこでは人々がなにやら集まって騒いでいた。
「何があったんだろう?」
「…いい感じはしないね」
「うん」
メイとミミは疑問を口にしつつそちらに向かっていくと、大勢が色々言い合い聞き取り難かった声が聞こえてきた。
『だーかーらっ!今ここの責任者がいないから中に入れるのは無理だし、城には絶対入れないって言っているでしょう!?』
「…この声藤堂さんだね」
「…怒ってるね」
あんまり関わりたくないな、とは思いつつ向かい、近づいても会話に割って入ることはせず傍聴する二人。
「ふざけんなよ! お前が責任者だってさっき他の奴が言ってたぞ!」
「ここにいる人たちの纏め役ってだけよ! それにあんた達、人に物を頼む態度じゃないでしょう!?」
「こっちは凶暴な生き物がでる森を多くの犠牲者を出しながらも来たんだ! 保護してくれてもいいだろう!?」
藤堂と柵越しに怒鳴り合う一人の男。そしてその周りにいる複数の者たち。
「ミミちゃん、どうしよう? セイジさん呼んでくる?」
「そう…だね…って、必要なさそう」
「どうして…あっ。ハクちゃ…さんだ」
「メイ…前はハクちゃんって呼んでたのに」
「あはは。なんかあの凛としたハクさん見るとちゃん付けは失礼かなって」
「同意するけど…」
二人がそんなことを話している間にハクが近づく。それに気づいた藤堂の周りの人々は道を空けた。
「藤堂さん。どうされました?」
「あっ。ハクさん。この人たちが入れろって言うのよ。けど、失礼な態度だし、今マコト君いないから」
「ふふ。気にされなくても、藤堂さんが決めてもご主人様は何も言いませんよ。ですが、気になるなら私が決めちゃいますね」
ハクは和かに会話していた藤堂から視線を外し、騒いでいた人々へ鋭い視線を向ける。
それだけで騒いでいた男はもちろん、ガヤガヤしていた周囲も黙った。
「貴方方はこちらに保護して欲しいとのことですが、我らのご主人様はただ守られるだけの人間を良しとしません」
「ご、ご主人様ってなんだよ! お前が責任者じゃな「黙りなさい」」
ピシャリと言葉を被せるように言い放つハク。
本人に自覚はないが、ヴラウヴォルフという魔物であること。また【王種】の称号を持ち、マコトの初期メンバーということで纏め役をしていること。そして男達とのレベル差。これらによって身に付いている風格。
どれか一つの要素だけであっても、現在のハクに本気で強く言われ、それでも言い募ることのできる人間などこの場にはいない。メイとミミであってもだ。
それほどの圧力があった。
「貴方方を城に入れるのは不可能です。ですが、城の周りでしたらご主人様は大して気にも留めません。そして藤堂さんが許可すれば多少は大目に見てくれるでしょう。ですが、その失礼な態度は見逃せません。例えここで私が見逃してもこの森にいる仲間達が貴方を排除しようとするでしょう」
「…」
「ああ。仲間とは何か、ですね。貴方達はここに来るまで魔物達に襲われませんでしたか?」
「お、おそわれ…ました」
「それは貴方方が害意を持って近づいてきているのか確かめるために接触した仲間たちです」
その言葉を聞いて目を見開く男。
「今この城には確かに我らが主は不在です。ですが、ご主人様の僕となる魔物が数百匹おります。貴方方が騒ぎ、僅かに上がった程度のレベルで太刀打ちなどできない戦力です。その上で聞きます。貴方はどうしますか?」
ハクがそう言い切ると悲鳴を上げ逃げる者が数名。
そして他の人間は膝を付き震える者、呆然とする者と別れ、騒いでいた男も呆然としていたが、すぐに気を取り直したように頭を下げた。
「失礼、しました。仲間が死んで…焦っていたので…。どうか貴方の庇護の下ここにいさせてはくれないでしょうか…。失礼な態度をとった私は…構わないので…妻と娘、戦う力のない者だけでも」
「聞いておりましたか? ただ守られるだけの人間を守る気は私たちにはありません」
「…炊事や洗濯といった雑事をやります。俺…私も許していただけるなら警備として使ってくれていいので…お願いします」
「私たちは貴方の仲間を殺したのに、ですか?」
「…っ! それでも、もう街には安心して眠る場所もないっ! 仲間を殺されたのは憎い! けど、そこの人達を見ればわかる! 意味もなく殺すわけではないと! だから、お願いします!」
下げていた頭を更に下げる男。
「…まずは貴方の名前を聞いておきましょうか」
「猪切ケンと言います」
「イギリさんですね。私はハク。ここに居たいのなら条件が幾つかあります」
「はい」
「一つ。ご主人様を煩わせないこと。二つ。魔物達を傷つけないこと。三つ。可能な限り仲良くしなさい。四つ。藤堂さんの言葉に従うこと。五つ。出て行くのも死ぬのも勝手ですがこちらに迷惑をかけないこと。六つ。ちゃんと仕事をすること。わかりましたか?」
「はい…」
何か言いたそうにするが、逆らってもいい事はないと思い素直に返事をするイギリ。
「それとちゃんと貴方のお仲間にも言い聞かせてくださいね。ガンマいますか?」
ハクがそう声をかけた瞬間地面が盛り上がる。
『…いるぞ』
大影蜘蛛から土蜘蛛に進化し、体が小さくなり、体色が黒から茶色の混じった黒色となったガンマが地中からでてくる。
「「「「「「「ひっ!?」」」」」」」
イギリ陣営、藤堂陣営、両者共突然現れたガンマに驚き、立っていた人間はメイとミミ以外、全員尻餅をついて後ずさった。
「捕まえた人間を連れてきなさい。丁重にですよ?」
『…すぐ連れてきてやる』
「ガンマはどうしてああも口下手なのでしょう。いい子なのに」
困ったと言いながらため息を吐くハク。
人間達が驚きから立ち直った頃、ズルズルといった音と共に巨大な蛇が現れ、それを見慣れている藤堂側の陣営はなんでもないように見ていたが、イギリ側の人間はまたもや震え出した。
「怖いと思うことは悪いことではありません。敵わない相手に恐怖を覚える。それは正しい反応ですが、震えるだけでは何も変わりませんよ?」
ハクが忠告し、歯を食いしばって立ち上がったのはイギリ一人だけであった。
ハクがそれを見て思うのはただ一つ。ご主人様にテイムされて良かった、だ。こんなことで怯え動けなくなるような人間にこき使われるなど想像しただけで不快であると。
そしてワダツミであるベータとガンマがやってきた。
「あぁ!? あいつらは!?」
イギリがワダツミを、否。その背にいる者を見て声をあげた。
「ええ。貴方方が失ったと思っていた仲間です。ここにくる途中貴方方は彼らを囮にしたり、我らに捕まったからとすぐ見捨てず、怪我をしてまで歯向かってきました。敵わなくても守ろうとした者と守られた子供達。そのような人間を殺すつもりは端からありませんでしたので保護していました。貴方が頭を下げようが下げなかろうが藤堂さんにお任せする予定でしたが」
「あ…ありがとう…ございます!」
イギリが感謝するとイギリの後ろで座り込んでいた者もよろけながらも立ち上がり頭を下げた。
「では、藤堂さん後はお任せしました。柵内に匿おうと信用できると判断できるまで柵の外に拠点を作らせようと構いません。ただ、今はご主人様の結界がないのでお気を付けてください」
マコトがこの地を去って、しばらくすると結界は消えた。その為今は柵の強化を優先していた。
「ハクさん流石ね…。ありがとう。任されたわ」
「では。ガンマ、ベータありがとうございます。もういいですよ」
『…あいよ』
『了解でーす』
ハクとガンマ、ベータがいなくなったからといって騒ぐことはなかった。静かに、これからどうすればいいか皆が皆考えていると藤堂が柏手を打ち話をまとめ上げる。
「ハクさん…凄かった…」
「本当に凄かったね…。ハクちゃんどころかハクさんでも駄目な気がしてきたよ…。ハク様…?」
「メイ…それは流石にハクさんが嫌がりそう」
「うぅ…でも雰囲気がハク様だったよぅ…」
「うん…。それは同意する…」
第三者視点というのは初めて書くので上手く書けているかは分かりませんが…読んでくださってありがとうございます( ;∀;)
後2話ほどこのまま閑話を続けさせていく予定です!
ただ本編の方が書ければ同日投稿いたします!




