199 豚
目が覚め三十一階層に降りる。
いつもと同じように何か結界のようなものを通り抜けた感覚を得た瞬間目の前現れたのは水、水、水。
あたり一面水だった。
「は…?」
「これはまた…」
「すっごーい! ダンジョンってこんな階層もあるんだね!」
風月とキキも驚いていた。
『お水!』
『…』
「ぷきっ!?」
ルナは何故か喜んでいたが、シルバは怖いのか俺にくっついてきた。小豚状態のカシは驚いて鳴いた。
「どうしろと…? 島どころか岩や木もないんだが」
「潜るしかないのでは?」
「水中戦なんてしたことないぞ。しかも水の中を探索って、呼吸どうすんだ」
「お主は【水中呼吸】があるだろう。我は風で空気の膜で体を覆っていれば…いや、移動がままならぬな。お主と【共生】しておるしかないのう」
「それだと【共生】を使えないカシが問題になんだよな。俺が大穴を見つけるまで空中で待機はできるか?」
「…どれほど時間が掛かるかわからぬからのう。難しいだろう」
風月とどうするか話し合っているとキキが、はいはーい! と手をあげて話に加わってきた。
「キキ。なんか案があるか?」
「わたしが船つくるよ!」
「魔法で?」
「魔法で!」
確かにそうすればいいのか。それなら【想像具現化】を使えば俺も作れるな。まあ【想像具現化】で作った物はおそらくエンジンとかの動力は作れないから、ただ船の形をした浮きにしかならなさそうだが。
それを言ったらキキの魔法で作った物もエンジンなんて付いてないだろうが。
「じゃあ頼んだ。風月は俺と来てくれ。ここの階層だと途中でキキたちのところへ戻るのも難しいだろうからずっと一緒にいることになるが」
「うむ。それは構わぬ」
「じゃあつっくるよー! えいっ!」
キキの手の先に種の様な物が現れた。そしてその種から芽が出て成長し、木に。
ドボン!
水の上に落ちると段々木が反り始め形が変わっていき、船の形となった。
「そうやってつくるのか…」
「こうやって作った方が長持ちするし丈夫なんだぞー! それに初めから木の船を生み出すのは魔力が馬鹿にならないしねー」
かなり大きな船になった。
帆やエンジンはないが、太い枝が帆を張る柱となりそれが三本。そして縁には長椅子のように腰掛けるような段差ができていた。
「これならカシくんがオークの姿になっても余裕でしょ!」
「ああ。ありがとうな」
「えへへー!」
船に降り立つ。木の皮を剥いて処理したわけではないので船の内も外も多少ザラザラしているが想像以上に滑らかである。
「じゃあさっさと探してくる」
「ご主人待つのだ」
「ん」
「カシのステータスを見てやってくれぬか? もしかしたら進化できるかもしれぬ」
「は? ……いつレベル上げしたんだ?」
そう言われ確認してみるとレベルMAX、進化可能となっていた。
「お主がおらぬ間キキと我でレベル上げとスキルの訓練をさせていたのだ」
『はい! 風月様とキキさんとたくさん訓練しました!』
…それよりもなんでカシは風月のことだけ様を付けて呼ぶのかが気になるわ。
まあいい。
「カシ偉いぞ」
小豚の頭を撫でてやる。てっきりダラダラしてるだけかと思ったら訓練してたとは。
ルナとシルバのステータスを確認してみると新たなスキルは覚えていなかったがレベルは着実に上がっていた。
「カシ、進化させるぞ」
「ぷぎっ…『あ、お願い致します!』」
わざわざ念話で言い直さなくても頷きながら鳴けば充分伝わってるけどな。
進化先は二つ。
————————————————————
【ハイオークエンペラー】
・最終進化先。
・ハイオークジェネラルよりも小型になり肉体が強靭になった種族。
・同系統の種族を纏めることに長ける。
【炎毛豚】
・最終進化先。
・炎を纏うことのできる体毛を持つ豚。
・肉体が火属性の魔素で構成された種族。
————————————————————
…炎毛豚って正規の進化先じゃ無い気がするんだよなあ。
火属性と相性が良いことが条件は必須だろう。
それにただのオークじゃなくハイオークというのも重要かもしれない。あとは【獣化】で豚になれるようになったから…とか?
でも炎毛豚になったら【獣化】する必要ないよな? 【獣化】しなくても豚なんだし。
さてさて。どうするかね。
どちらも最終進化先だし、どちらでもいい。
「カシどうする?」
一応進化先を説明文とともに教えてやった。
『ご主人様が好きな方をお選びください!』
俺もどっちでもいいんだよなぁ…。強いて言うならハイオークエンペラーは体が小さくなるだけで目新しさが無いってくらいか? 炎毛豚の方がどんな姿なのか気になるし、ルナやシルバはもちろん、風月とキキも炎毛豚という種族は聞いたことないっていうから炎毛豚にするか。
「じゃあ炎毛豚な」
「はい!」
カシが光に包まれ思い至ったことが一つ。
それはどれほど大きくなるかわからない上、木造の船の上で炎を纏うという種族に進化させて大丈夫だろうか、という点。
最悪【重力操作】で浮かせばいいのだが…。
そして小豚のカシはどんどん大きくなり、光が消えると俺の顔と同じ高さにカシの顔があった。
「ふがっ!」
《三匹を最終進化者にさせたことにより職業【テイマー】のレベルが上がります。職業【テイマー】のレベルが上昇したため基礎スキル【テイム】、個体名【中野 誠】のレベルがあがります》
《職業【テイマー】のレベルが最大まで上がったため転職が可能となりました》
…はい?
今なんて?
…とりあえず後回しだ。転職とか気になるが! テイマーの新しい技も気になるが! だが、どうでしょうか! といった感じで目をキラキラさせたカシを、ここで無視してステータスを見る気はない。
カシはハクよりは小さいがそれなりの大きさである。それに燃えているわけでもないし、船が傾くこともない。
見た目は豚…というよりイノシシである。
口元に立派な牙があり、体毛は真紅のような赤。肌は赤茶色である。
触れてみると想像以上に柔らかな毛並みだった。毛の長さは体と比較するとそう長くはない。五センチくらいだ。だからふさふさ、さらさらといった感じの感触でかなり癖になる。
ここ最近全然もふもふにありつけていなかったからか、つい夢中になってしまっていたらしく風月に頭を叩かれた。
「頬擦りし始めたと思ったら…いつまでそうしておるのだ」
「…んんっ。すまんすまん。つい、な。とりあえず船は問題なさそうだな。ちなみに【獣化】で小豚になれるのか?」
『なれそうです!』
それならばと、小豚になるように言う。
小豚になったカシは以前とは異なり体毛も牙もなくなり本当にただの小豚となった。
「そういう感じか…。まあ抱えて移動できるならそれでいいか」
ステータスを確認するとやはり特殊スキル欄に【未設定】があった。
————————————————————
※特殊スキルを選択してください。適性のあるスキルを表示します。
・【共鳴】
・【単為生殖(特)】
・【炎化】
・【地魔法】
・【樹魔法】
————————————————————
【単為生殖(特)】以外は大体わかる。
炎は火、地は土、樹は木の魔法の上位互換とも呼べる物で威力、魔力効率、効果範囲が上がるらしい。
広範囲攻撃に特化した感じだ。
まあとりあえず保留するのだが。
「次はステータスとスキルだな…いや…先に転職をみるか…?」
やっぱり気になるし…。