190 勝利と風月
後半風月視点を混ぜてみました!
明日は本編のみです。
比較的体躯の小さな鬼王が二体。そしてギガントオーガ二体。ここにギガントオーガ二体とアクアギガントが一体追加された。
体がでかいから俺と直接相対してるのは初めの四体だけ。追加で来た四体は少し離れたところで俺を目で追っている。
鬼王の足を斬りつけ四体の包囲網を一瞬でも抜けると、離れているところの三体が剣、棍棒、槍を振り下ろしてくる。そして俺はまた鬼王の足を斬りつけながら四体の包囲網の方に戻る。
同士討ちに期待したのだが、どいつも器用で、他の魔物に攻撃を当てることがなかったのでそれは諦めた。
苦戦しているところを見たいと言っていた風月も流石に心配なのか先程から心配する旨の念話が飛んでくる。
残念ながら俺は念話が使えないし、この状況で大声を出して会話する余裕は失われている。
ドォン!
「っしゃ!」
最も執拗に攻撃をしていた鬼王が膝から崩れ落ちた。
体制を整える前に頭部の下へ行き眼球に剣を突き刺す。
「オオオオオオォォォ!」
「もういっちょお!」
【亜空庫(大)】から斧を出して反対の眼球に振り下ろし、横へ思い切り跳んだ。
その瞬間、周りの三体と倒れた鬼王の後ろにいたアクアギガントが俺のいた場所を殴りつけた。
「あっぶねぇ…。だが、やっと一体だ」
鬼王といえど、両目に深々と刃物を刺されたら無事では済まなかったようで、倒れ、消えた。
ひたすら逃げ回りながら同じことを繰り返す。
たまに剣や槍を避けきれず体を掠めていく。そのせいで深い傷はなくとも浅傷で血だらけになっている。
だが、一体、また一体と減らしていき、残ったのはギガントオーガ一体。
「はぁ…ふぅ…。きつかった…。後は、お前だけだな」
一体だけなら問題ない。初めのアクアギガントとは馬鹿正直に戦ったが、眼球を狙えばいい。
今は邪魔者もいない。こいつらの動きにも慣れた。ギガントオーガの腕を足場にしつつ攻撃を避け、顔の前まで跳び上がり短剣を投げる。
「グォォォォオ」
目を押さえるギガントオーガ。
「隙だらけだ」
一度着地し、もう一度跳び上がり、もう一方の目に剣を深々と刺し込む。
「あ゛ー…疲れた。縛りプレイって好きじゃないなぁ…。面倒臭かった」
ドォン!
ギガントオーガが倒れ、消えていく。
俺が今戦った、アクアギガント二体、鬼王二体、ギガントオーガ三体。全てダンジョン産だったらしく死ぬと消えた。
ドロップアイテムは…鬼王とギガントオーガからは剣。アクアギガントからは棍棒…ではなく杖だ。
正直助かる。邪神がくれた武器は優秀だ。これだけ戦って折れるどころか刃こぼれしていない。ただ一本ずつしかないのだ。今回のような戦い方は回収するのが大変だった。俺の方が速度が上だったから出来たが、俺より素速い敵相手には出来ないだろう。
『流石だのう! ご主人がご主人で我は嬉しいぞ!』
…もう少し心配してもいいんじゃないか?
風月から興奮したような念話がはいった。ルナとシルバからは無事かどうか、心配するような念話だった。
大声出すのも億劫なので、ドロップアイテムを回収し、合流する。
「ブモッ! ブモッ! ブオォォォ!」
…カシが物凄く興奮してるのがわかったが、どうした?
『凄い凄いと絶賛しておるぞ。確かに凄かったしのう。不利な状況下であれほどとは…見惚れたぞ』
「そりゃよかった。とりあえずあの大岩の陰にいこう。少し休みたい」
参戦はしてこなかったが、まだ視界にはいるところにちらほらとオーガたちがいる。連戦は勘弁だ。
そして、大岩の陰に座り込んだ瞬間意識が途切れた。
♦︎side風月
『流石だのう』
気を失ったご主人を見る。ぼろぼろに見えるが致命傷はどこにも受けておらぬ。
『凄いのです! 物凄いのです! やはり弟子に…いえ! 弟子よりも配下にしていただける方が至極!』
『お主うるさいのう…。念話を繋げてやっておるが…あまり煩いと念話を切るぞ?』
『ああっ! 申し訳ございません!』
カシがペコペコと謝る。
…このオーク。カシに念話する力はない。ご主人とパスが繋がっていないのでご主人との会話も今は無理だ。なのに我やルナ、シルバと会話出来ているのは、双方向で念話が可能なスキルを我が使っているからなのだが…煩いのが難点だのう。
ご主人とも念話を繋げてやって煩いと言われれば多少は静かになるかもしれないが…どうもご主人は魔法の効きがよくないのだ。
『風月いじわるだ!』
『こころせまい…』
『お主ら! 誰の味方だ!』
シルバよ。お主何故普通に話せるのにご主人が混ざった念話だと話せないのだ…。
我も先程、ご主人と離れた時に初めて知ったのだが、シルバは普通に会話できるのだ。
『ご主人様だいじょうぶかな…』とシルバが言った時は驚いた。我らの念話に誰かが干渉してきたのか!? そう思ったらシルバだったのだ。
本人曰く恥ずかしいだけらしい。恥ずかしがって念話でボソボソと喋るとは器用だのう。そう思った。
念話とは表層の、伝えようと思った心の声を届けるものだ。スキルの圏内なら距離関係なく伝わる。なのにそれを小声で話すかのように伝えるのはなんとも…余計な労力と思うのだが、まあ良いか。
『さて、我はご主人の傷を治す。お主らは周りを警戒しておれ』
一応、隠蔽結界を張っておく。攻撃や侵入を防ぐことは出来ぬが、周りから見えなくなる結界だ。
そしてご主人の側に膝をつき、癒しの風という魔法を発動させる。
聖魔法や水魔法、時空魔法よりも回復能力は劣るが風魔法でもある程度は可能だ。ご主人の傷は深い物も少ないしこれで充分回復させられるだろう。
少し時間はかかったが傷は塞がった。
『ルナ。ご主人についた汚れを分解してやるのだ』
『わかった!』
『間違ってご主人を分解するなよ?』
『しないもん!』
まあ、やろうと思っても出来ないとは思うが。
『カシよ。お主はまだ配下ではないからのう。あまり近づくではないぞ』
『かしこまりました…』
『風月いじわる』
『シルバよ。そう言うな。まだ出会ってまもない。ご主人との繋がりを得ていない者を無防備なご主人に近づかせるわけにはいかぬ。そんなことよりお主はご主人と普通に会話する努力をするのだ』
『はずかしい』
はぁ…。なにを恥ずかしがっておるのやら…。
それから他愛もない話をしながらご主人が起きるのを待つ。
基本的にカシの話だ。何故ご主人に付いて来たのか。元はどこにいたのか。などだ。
カシは話を聞く限りマギア出身だ。オークの集落で纏め役をやっていたが、人間に襲われカシだけ生き残った。それからは単独で過ごしていたら突然光に包まれここに居たと言っていた。ここの魔物は意思疎通が難しく、群れを作ってはいたが、仲間という意識はなかったらしい。
そこでご主人に出会った。敵である人間だが、自身には敵わない。ならばむざむざとやられるのではなく人間の強さの秘訣を知りたいとついて来たらしい。それもすぐに尊敬に変わったようだがな。今は野心や敵意は一切ない。
ご主人は鈍感のようだが、ご主人が同行を許して少しの間僅かな敵意があった。まあそれがご主人に、ではなく人間にだったようだが。
だから今は無害…というよりご主人を尊敬して好意を抱いておるから大丈夫だとは思うが…念のため近づかせないようにしておる。
外にたくさんの仲間がいるようだが、このメンバー内では我が一番の先輩だからしっかり目を光らせておかぬといけぬしのう。
それにしても…ご主人があれほど必死に戦っていたのを見れたのは良かった。強くなることに貪欲なくせにすぐに面倒になるのか攻撃が雑になっておったからのう。これで少しは面倒がらなくなればよいのだが。
なんにしても楽しみだ。ご主人と居るのも、今後ご主人がどうなるか、何を成すか見るのものう。
それとそろそろ我の同胞を召喚して貰いたいのう。我が召喚陣に干渉すれば知己を呼び出せるかもしれぬしのう。
楽しみだのう。




