表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/250

186 訓練

 

「いや…風月もルナもシルバも戦わなくていいぞ。俺がやる」


『…頼ってくれても良いのだぞ?』


「必要なら頼るさ。だが、まずはストレス発散しないとな」


『ああ…そうだの。またいつぞやみたいに破壊の化身みたいになられたら困るしのう』


「魔法が使えてたら魔力の続く限り放っているな。今冷静でいられるのはお前たちのおかげだが…腹を立てていないわけではないから、戦闘は任せろ」


『あいわかった。危なくなったら手を出すからのう』


『ルナも!』


『僕も…』


 …シルバは一人称僕なんだな。


 さて、十六階層。今初めて周囲に目を向けたが、草原だな。ただし大岩がゴロゴロとしていて視界は悪いが。

 上空に魔物は見えず、少し離れたところに何かいる。


「あれは…ゴブリンか」


 巨大な岩のところにゴブリンらしき魔物が三匹いた。

 すぐさま駆け出す。


【身体強化魔法】は使えないが、レベルと進化によって得た身体能力は変わらないから支障はない。

 ただ、普段なら一足飛び…地面を蹴って跳ぶように走るが、今は普通に足を動かし走る。【跳躍】が使えないせいか、一足飛びに移動しようとすると普段と歩幅の感覚が違って走りにくかったからだ。


 ゴブリンの姿がはっきりと視認できる距離になるとあちらも気がついたのか、三匹とも手にしている槍を正面に構え向かってきた。


 槍の穂先が当たる瞬間、屈んで避ける。そして屈んだ状態から膝をバネにし、無銘拳鍔を付けた右の拳を真ん中のゴブリンに突き出すとトラックに跳ねられたかのように吹き飛んだ。


 すぐさま左のゴブリンを殴り吹き飛ばす。右のゴブリンが槍を突き出してくるが、槍を拳で弾き空いている方の手で頭を殴りつけると地面にぶつかり何度かボールの様にバウンドすると動かなくなり、消えていった。


 ドロップアイテムはゴブリンの使っていたような槍の穂先だ。柄も何もない穂先だけなのでどうしようか悩んだがとりあえず【亜空庫(大)】に突っ込んでおく。


「問題ないな。最近魔力を使った力押しが多かったし、訓練にはなる」


 ちなみに【拳術】のスキルを試そうとしたが、これもまた発動しなかった。


『この階層は近接戦闘メインになるのだな』


「メインになる…というかそれしかできないだけだが」


『確か【拳術】のレベルは九だっただろう? なら他の武器も試してどうだ?』


 確か…九だったな。風月にステータスを教えた時以来確認してないから、もしかしたら十に…そんな簡単にいかないか。


「そうだな…。槍とか剣とか…型なんてわからないし、武器を使った戦闘を見たことがない。だからただ振り回すだけになると思って使ってなかったんだよな」


『ゴブリンが槍を使っておったではないか』


「あれこそ振り回してるだけじゃないのか?」


『そんなことなかろう。我も槍の扱いなぞ知らぬが、おそらくさっきのゴブリンは【槍術】か【棒術】を持っておると思うぞ?』


「【棒術】? 槍って【棒術】のスキルも使えるのか?」


『ゴブリンが持っておった槍は刃が丸まっていたからのう。刃が刃として機能していないのなら【棒術】の補正も入るだろう。もう少し短ければ【棍術】かの』


「なんだそれ…」


『そこら辺の明確な基準は我は知らぬが、刃があるかないか、長さや太さだの。後は武器を鑑定した時に武器名に〝槍〟と出ていれば【槍術】だの。もしかしたらゴブリンの持っていた物は〝棒〟の可能性もあるが、〝槍〟の可能性もある。瞬殺しないで観察するのも一つの手だと思うぞ』


「よくわからないけど…わかった」


『それはわかっていないと同義だろうに』


「なんとなく理解したからいいんだよ。それよりなんでスキル持ちってわかったんだよ」


『我の知っている武器持ちゴブリンよりも動きがしっかりしておったからのう。知能の低い、上位種でもないただのゴブリンが突撃する際に槍を構えるなんて見たことない。大抵は武器を引きずりながら走るか、上に掲げて走っているのが多いの。武器を持っていても武器として認識していないのか背負ったまま、というやつもいたが』


 ……ひどいな。


 そういえば邪神の手紙に、色々なスキル持ちがいるようなことが書いてあったな。さっきのゴブリンがスキル持ちってのもあながち間違ってはいなさそうだ。


『お。今度はオークとゴブリンの混成部隊だの』


 風月の視線を追うと一メートルくらいの身長のゴブリンより大きな槍を持った黒いオークと深緑のオーク。それと先程と同じ槍持ちのゴブリンが五匹。


 既にこちらに気付いているのだろうが、二匹のオークの正面をゴブリンが守るかのように位置どり歩いて来ていた。


「確かに統率が取れてるし、しっかりと槍を構えながら進んできているな」


 まあゴブリン程度では、万が一にも死ぬことないだろう。

 ということで俺も【亜空庫(大)】から槍を出す。


「…振り回すことはできるな」


 槍は穂が五十センチ以上はあるだろうか。柄は一.五メートルほど。つまり全体で二メートル以上だ。ゴブリンの持っている槍が玩具に見えるくらい立派だ。


 ゴブリンたちに近づいていくとオーク以外、全てのゴブリンが一斉に飛び出して来た。

 スキルなど関係なしに、ゴブリンを圧倒している身体能力と反射神経だけで五体の槍を躱し、打ち合い、払っていく。


 ゴブリンの槍を見て学ぼうかと思い、受け身に回っているが…。俺の二メートル以上の槍とゴブリン玩具のような一メートルもない、穂先も十センチくらいの槍を打ち合わせるのはかなりの重労働だ。

 いくら動きが遅いとはいえ、俺は体を捻ったりしながら受けなければならない。


「これなら剣でも出せばよかったか…」


 ゴブリンの動きを見るだけなら、俺が槍を出す必要はなかったなと思い直すが、今さら変えるのもなんとなく癪なのでこのまま続ける。


 ただ今のところゴブリンの動きは、俺には振り回しているようにしか見えない。確かに槍を構える様は様になっていたが…。


 そうして打ち合っていると痺れを切らしたのか深緑色の肌色をしたオークが進み出て来た。

 まだ待機している黒いオークより少し小さめだ。メスだろうか? そして進み出てきたオークが構えた槍の穂先が光ったと思ったら、一気に駆け出し、突きを放ってきた。


「っ!? お前っ! それありか!?」


 大した速度ではない。見切れるし、鼻歌混じりでも避けられる。だが、予想外に俺前にいるゴブリンごと俺を突き刺そうとしてきたのだ。

 避けることはできたが、かなり焦った。

 そしてゴブリンは槍に貫かれて事切れていた。


「お前…仲間だろうに。仲間意識がないのか?」


 狼系の魔物ならお互いカバーし合ったり、連携を取るが、オークはそういうことはしないようだ。


「いや、命を捧げた連携…? …そんなことないな。他のゴブリンが憎しみの籠った目でオークを見ているし」


 そうなるとゴブリンは仲間意識があるのか。というかお互い共に行動しているが! 同種以外はどうでも良いって言った方が適切か。


「まあいいか。ほら、かかってこいよ。槍の扱い方を見せてくれ」


 突き出した手を上に向け、くいっくいっと手招きする。


「ぶおぉぉぉ!」


「ガァッ! ぎゃぎゃっ!」


 俺の行動が挑発だとわかったようでオークは槍を振り回しながら突っ込んでくる。もう一匹は後ろで待機している。

 そしてゴブリンは巻き込まれてたまるか、といった感じで左右に別れ逃げていく。


「っておい。逃げんのかよ…。風月!」


 少し離れているところにいる風月に声をかける。


『む! ゴブリンたちかのう?』


「ああ。ルナとシルバに戦わせてくれ! お前は二匹の補助を頼む!」


 察しがよくて助かるな。雑魚でも一度は殺意を向けて来たんだ。ルナたちの経験値になって貰わないとな。


 俺よりも頭二つ分ほどデカいオークが、俺の身長と同じくらいの槍を振り回す。

 つまり俺の槍より短いのだ。その分二回り以上太い柄だが…。


 数度打ち合ってみたが、俺の槍と近い長さの槍だから、ゴブリンより戦い易く、力比べでは負けることはない。ただ、やはりスキルを持っているのか、たまに穂先から衝撃波のようなものが飛んでくる。


 衝撃波は無色透明で初めは驚いたが、魔力の塊だったので察知することができたので避けられた。


 それと、たまにオークと俺の間に距離が空くとオークが一瞬止まり、初めに見た穂先が光る現象が起こる。おそらく[チャージ]に似た技だと思う。


 そうして何度か打ち合っていると、バキッという音がしてオークの槍が折れた。


「あー…。柄は木製だもんな。俺の槍…魔銀がどれくらい硬いかは知らんが、金属と木製じゃそうなるか…さて、オーク。槍がなくなったらどうするんだ」


 オークが雄叫びを上げると、穂先のない槍の柄を振り回し始めた。

 先程と現在。やはり槍を扱うスキルを持っていたのが比べてみるとよくわかった。


 先程は中段、下段からの突き、薙ぎ払い、下段から跳ね上げるような動き。衝撃波とチャージらしき技以外のそれらの動きは、ただただ、がむしゃらに振っているようにも見えていた。

 だが、今の何も考えて無さそうな動きを見る限り、先程はやはり槍術などの補正があったのだとはっきりわかる。


「じゃあもういい。観察させてくれてありがとう。…死ね」


 胸を一突き。

 槍を引き抜く前にドロップアイテムを残し消えた。


「さて、後はお前だけだが…来ないのか?」


 石突を地につけたまま構えることなくジッとこちらを見ていた。


 …なんだ? とりあえず鑑定でも…って【共生】ができないから鑑定も使えないのか! 


「おい。やんのかやらないのかどっちだ。ストレスが溜まってるからそこに突っ立ってるなら殺るぞ?」


 するとオークが膝をついて槍を地面に置いたと思ったら首を垂れた。


「ほ?」


 んんっ。変な声が出た…。


 じゃなくて。降参もしくは服従ってことでオーケー?


「テイム!」


 …………はい! できませんでした!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ